「心の中に膿がたまってるみたいなの…」
そうつぶやく彼女の言葉に共鳴するかのように、心中をサラリと決意してしまう、万代と京子の二人。彼らはそれぞれ美しい妻と優しい夫をもち、平穏な家庭生活を送りながらも心の中にあるどうしようもない不安や痛みを抱え、たった一人で耐えていた。生きているのか死んでいるのかもわからない毎日のなか、そうして二人は出会ってしまった。そしてより生きるために「心中」することを二人は決意するのだ…。
 『空の穴』『アンテナ』など熊切和嘉監督の助監督や、プロデューサーとしても活躍する亀井亨の長編初監督作品となる本作は、日本独特の文化であるとされる心中をモチーフに、フランス映画ばりのスタイリッシュな映像と巧みな構成で、墜落していくことを選ぼうとする主人公たちが痛切に描かれてゆく。 
 引き寄せられるように出会い関係してしまう万代と京子を二人の魅力的なキャストが好演。『美しい夏 KIRISHIMA』『スウィングガールズ』『カナリア』等、話題作への出演が相次ぐ注目の若手俳優・眞島秀和が、静かな表情の裏で猛烈な葛藤や不安を抱える万代を、対して京子役には『オー・ド・ヴィ』『アカルイミライ』『Seventh Anniversary』等、明るくキュートで透明感のある存在が魅力的な小山田サユリが、これまでとはまったく違った新しい表情をみせている。

※2005年7月30日よりシブヤ・シネ・ラ・セットにてロードショー







お二人は初共演ですが、一緒に仕事してみた印象はお互いどうですか?
眞島秀和「最初は不思議ちゃんなのかなって思ってた(笑)。実際お会いしてみたらきちんと地に足のついてるしっかりした方でした。」
小山田サユリ「一番初めに見た瞬間から、万代だ!って思っちゃいましたね。イメージがすごくぴったりだったので。」

出演の経緯は?
眞島「台本をいただいて、すぐ挑戦したい!と思いました。主演でやらせてもらったというのは嬉しかったんですけど、役者として演じる上では主演であろうと脇役であろうとあんまり変わらないと思いますね。出演シーンも多いし、人の動きを「受ける」芝居も多くなってくるのでそういう意味では勉強になりました。」
小山田「私が台本を一番はじめに読んだのは、台湾で一人旅をしていた時だったんです。29歳という年齢もあって、今まで一回もしたことのないことを30歳になる前にしてみたくて、それで念願だった一人旅をしてたんですけど、「すっごくいい脚本があるから読んで!」といって台本をメールで送ってもらって台湾で読んだんです。それで、すごくこの役やりたい!って思って、本当は1ヶ月くらい滞在する予定だったんだけど、すぐ切り上げて帰ってきちゃいました。」

京子という役のどういうところに魅力を感じましたか?
小山田「仕事をしていく上で同じような印象の役を続けていることが多くて、何か自分でもそのイメージを変えたいな、というところがあったんです。そういう想いがあってその時海外旅行に出たりもしてたっていうのもあって、そんな時に今回のこの役が来たのはすごくタイミングがよかったなぁと思いました。」
眞島さんは万代という役をどう思いましたか?
眞島「ちょうど30代手前にきて、言葉にするのは難しい「何か」を僕も実生活で感じたりはしていたので、そういうところでこの万代役には共感できる部分はありました。万代とタイプはまったく違っていても同じ世代に共通した感覚というのが、この役にはありますね。」
脚本も亀井監督でしたが、現場ではどんな印象でしたか?
眞島「現場をひっぱっていくタイプの方だと思います。」
小山田「演技に関しての指導はほとんどないですね。ただ、演出に関してはすごいなと思ったことが何度もありました。」
眞島「すごく自由に演技させてもらっているようで、全部監督の手の中でやっている…そういう感じでした。よく耳打ちしてきました(笑)。僕の視界に入っているところで小山田さんを呼んで、内緒話をしていて、僕としてはすごく何を話しているのか気になるんですよ。」
小山田「同じように私も逆の立場で、何か眞島さんに監督が耳打ちしながら話しているんだけど私にはその内容は判らない…(笑)」
なるほど。お互い「耳打ち」前と後では芝居を変えてきたりとかするんですか?
眞島「小山田さんが耳打ちされてて、そのあとすぐ本番入って、「あぁ、そういうことだったのか…」と思うことはありましたよ。何回かテストした後で、本番に入っていきなり違う動きをされたのでそれに対して僕も生のリアクションが出てしまったりしましたね。」
即興性を引き出されてしまったんですね。ラブシーンとかは特にそんな感じがしましたが…
小山田「そうですね。特に撮り直しもしなかったですし、一回やって終わりという感じでしたね。なので場面によってはテストが多かったりもしました。」





撮影中に印象に残っているエピソードはありますか?
眞島「小山田さんの背中に重りをつけて二人で首をつろうとするシーンで、失敗して倒れこむところでは本当にすっごく苦しくて、二人とも本当に酸欠状態になってしまいました。」
小山田「寒かったし、下もコンクリートで硬かったし。クリスマスイブの深夜にほとんど徹夜状態での撮影で、私たちもスタッフのみんなもあの時はけっこう限界だったんですよ。そういう状態での最後のシーンだったんですけど、リアルに本当に苦しくて大変でした。」
眞島「「OK」の声がかかって立とうとするんだけど、本当に苦しくて立てなかったほど。」

映画の中で気に入っているシーンは?
小山田「私は、冒頭の鉄パイプをもって高架下でひとり暴れているところですね。あのシーンがあったからこの映画をやりたくて日本に戻ってきたきっかけでもあるんです。鉄パイプでめったうち、やってみたい!と思いましたね。」
眞島「弁護士事務所で嶋田久作さんに灰皿をなげつけられるシーンが好きです。当たらなくてギリギリ横をシュッとかすっていくところ。」
小山田「あのシーンすごいよね!髪の毛が揺れてたし。」
眞島「嶋田さんに言われたのは「人間ってどうしても反射的に目が動くようになってるから、すっごく遠ーくをみているといいよ。」とアドバイスされました。100mくらい先を見ているような気持ちで臨みました。三浦雅己さんのチンピラ役もほとんどアドリブでしたから、面白かったです。」

京子と万代が選ぶ「心中」という道は、より生きるための選択肢として作品では描かれていますが、正直なところこの二人をどう思いますか?
眞島「京子と万代が偶然出会ってしまったから「心中」というものが出てきたんだと思いますが、二人は甘ったれてますよね(笑)。他の人はみんな戦って生きているんですから。」
小山田「私も映画を観た知り合いの方に「迷惑な人ね、あなたって!」と冗談交じりで京子のことを言われました。確かにそうですよね(笑)。近くにいなくてよかった!と思います。」

執筆者

kaori WATANO

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作品紹介『心中エレジー』