「僕自身は、土山よりは堂々としてますかね(笑)」 『恋は五・七・五!』細山田隆人インタビュー
俳句甲子園って何?多分、この映画のことを耳にして、そんな風に思う人は少なくないだろう…と言うか、かく言う筆者も知らなかった。これは5人編成のチーム同士が1対1で対戦を進めていく競技会のことで、多数の俳人を輩出した愛媛県松山市で開催され、2004年には早くも7回を数えているのだ。そんな俳句甲子園が、『バーバー吉野』で注目された新鋭女流監督荻上直子監督の手で映画化された。そう聞くと、なんだか地味っぽい印象を受けるかもしれないが、いやいやこれが百聞は一見にしかず。相手の俳句をディベートで論破し合う展開は意外なくらいスリリングで、松山の澄んだ青空という背景とが実に心地よいコントラストを生み出しているのだ。
そんな快作『恋は五・七・五!』で、帰国子女のヒロイン治子に想いをよせる土山義仁に扮していたのが、『なごり雪』など古風な漢を演じて定評のある細山田隆人だ。今回は、気持ちストーカーがかっているけど、治子への一途な想いを好印象の今風高校生役で、これまでとは一味違った顔を覗かせている。
$navy ☆『恋は五・七・五!』は2005年3月26日より、渋谷 シネ・アミューズほかにてロードショー公開!$
——俳句甲子園という題材の作品に出演が決まって、最初の印象と完成作の感想は?
「この映画と出会うまでは、俳句甲子園というものの存在は全く知らなかったんです。実際俳句の映画だと聞いた時には、自分自身俳句にすごく固いイメージがあったので、どんな作品なんだろうか?というのがありましたね。でも脚本を読ませてもらったら、そんな固いイメージとは違って面白いというか痛快な感じで、若い人たちにすごく喜ばれるような作品でした。勿論俳句に馴染みのある年配の方にも楽しんでもらえると思いますが、同世代の方が好きで面白い作品に仕上がりましたので、是非見て欲しいですね」
——今回演じた土山義仁というキャラクターは、これまでの細山田さんの演じてきたものとは一味違う感じでしたね
「そうですね。今まで自分が演じてきた役は結構大人し目のものが多かったんですけど、今回の土山義仁役は、これまでとはちょっと違った新しいキャラです。クールなところもあり、3枚目的なところもありで、難しいかな?との思いもあったんですけど、実際僕自身もそんな二面性みたいなのを持っているし、皆に接する態度とかはこれまでの古風なキャラクターよりも普段の自分に近いですね。
最も自分は流石に好きな子を盗撮したりはしないだろうし、経験もないのでどうかなぁとも思いましたが、純粋に女の子を好きになる気持ちというのは共感できますよ。まぁ、自分だったらもっと積極的…でもないけど、土山よりはもっと堂々としてるかなっていうのはありますけどね」
——いきなり俳句部員にされてしまうたった一人の写真部員という設定ですが、事前にカメラや俳句に関して指導は受けましたか?
「カメラをいじったのはほとんど初めてですが、最初に簡単に教えてもらったかなぁくらいで後は自然にやれましたね。
俳句に関しては、松山ロケに行く前に、キャスト・スタッフ合同で俳句の先生に来てもらって、俳句勉強会みたいなのを受けました。勉強会の最後の方では、決められた上の句に対して参加者それぞれが5分間で下の句を作るというものでした。それぞれが作った句を誰が作ったものかわからない形で発表会をし、批評しあって最後に作者を明かすんですよ。ゲーム感覚で勉強させてくれたことも、俳句の固いイメージを払拭する助けになりましたね。
その時作った句は、中学時代、お昼前に校庭でひなたぼっこをしていた時に、風に乗って給食の香りがしてきていい匂いだなって…情景を詠んでみたんです。それを説明したら、それは面白いねってことになったんですけど、残念ながら俳句自体からはそこまでの情景が見てこなかったらしくて、なかなか俳句としての評価は上がらなかったですが(苦笑)。
——松山でのロケはいかがでしたか?
「一ヶ月間、合宿みたいな感じでしたね。皆、二人ずつペアの部屋で僕は橋爪遼君と一緒の部屋でだったんですけど、現場以外でも時間があればどこかに皆で一緒に遊びに行ったり、部屋にキッチンがついていたので暇な時には気分転換みたいな感じで簡単なものですけど料理を作って皆で食べたりしました。
松山自体は自分の思っていたイメージよりはもっと都会で、住みやすい町だなというのがありましたね。東京とは違い空気は綺麗だし、景色は落ち着いていてリラックスできる町んですけど、田舎過ぎもせず不便なこともない。本当に毎日ここでぼーっとしててもいいかなって感じで、もっといたくなりましたね」
——土山が恋するヒロイン役、高山治子役の関めぐみさんとの共演は?
「関めぐみさん自身が男っぽいというかさっぱりしている人だったので、今回のグループの中でも気が合うというか、一緒に遊んでいることが多かったですよ。撮影中も特に気を遣うでもなく、楽しく出来ましたね」
——関さんをはじめ今回の同年代の共演者は、ほとんど演技初体験の方ですよね。細山田さんは『ウォータームーン』からですともう15年を越えるキャリアになるわけですが、そういう意味での気負いなどはありましたか?
「自分は子役からやっていますが、そういう点ではオーディションで決まった段階で、荻上監督からも「皆を引っ張っていってね」とプレッシャーを与えられたりもしました。でも関さんも他の人たちも皆堂々としていて、自分がアドバイスをするようなこともほとんどなかったですよ。結構、自分も一緒に混ざって楽しみながら演った感じです」
——逆に先輩方との競演で印象に残っているのは?
「杉本哲太さんは、高山先生のキャラに合わせたものすごくコミカルな芝居をされるんで、テストの段階ではこちらが噴き出してしまうことも多かったです。でもそれで、僕たちもも笑わせてやろうじゃないですけど、もっと面白くしようと良くも悪くも欲がでた感じですね。刺激され、やりたいことがドンドンでてきたので、そういう点では笑わせられながらも勉強になったというのはありますね。嶋田久作さんは入念にチェックをされるというか、自主トレを何回も繰り返されたりしてらしたんで、監督から見習うように言われました」
——荻上直子監督の演出はいかがでしたか?
「荻上監督は、話やすい方です。演技指導の点では細かい部分で動きを決めるのでは無く、場面場面でのキャラクターの気持ちや雰囲気をニュアンスで教えてくれるので、逆につかみやすくかつ演りやすかったですね」
——土山のマスターベーション場面が爆笑でしたが、あのあたりも荻上監督の指導ですか?
「いや、あそこは監督から「私は女だから判らないから」といわれて、助監督と一緒に汗を流しながら「俺はこうやるんだけど、どうすか?」みたいな感じで男供が集まって研究をしながら演りました。面白かったんですけど、大変だったりもして。実際、荻上監督は、判らないとか言っておきながら、「こういう風にするんじゃないの?」とか結構口を挿んで来るので、「いや、そうじゃないですよ」みたいな感じでね。あそこでは、監督に悩まされたかなって感じですね(笑)」
——その他で、今回細山田さんが印象に残った、もしくは大変だったシーンはどこでしょうか?
「実は、キスシーンは今回が初めてだったんですよ。現場に入って撮影が始まったら案外あっさり終わっちゃったんですけど、前日くらいまでは緊張するというか、関さんとも明日どうしようか、なんとかなるよ、みたいな感じで、緊張しながら悩みながらでね。僕の松山に入って初日の撮影がそれだったので、いきなり山場を初日に迎えたかなって感じで。でも、結果としては本当にこんなもんかって感じであっさり終わっちゃって。でもおかげさまで、初日から流れにのっていけたかなって感じでしたね」
——そんな細山田さんの手応えが感じられる作品になっていたと思いますよ。最後に、今後のご予定はいかがですか?
「僕自身も映画が好きで、比率的にはやはり映画が多いですねただこれからは、テレビもやっていきたいですし、いずれにしろ映像を中心に仕事をして行きたいと思っています。今年はこの後『追想者』(大森一樹監督)と『母のいる場所』(4月9日公開・槙坪夛鶴子監督)という映画が公開待機中で、また4月から放映されるテレビの昼ドラを撮影中です。 お蔭様で多くの映画監督の方々と仕事をさせてもらってきましたので、最近は今までに仕事をさせてもらった監督さんとまたやれる楽しみが多くなっています。本当に、皆さんもう一度使ってくださいって感じですね(笑)」
本日は、どうもありがとうございました。
(2005年3月1日 シネカノン本社にて)
執筆者
殿井君人