「ヴィクターみたいに傲慢な態度でナンパすればうまくいくってわかったよ」、苦笑いするキップ・バルデューは『ルールズ・オブ・アトラクション』(ブレット・イーストン・エリス原作、ロジャー・エイヴァリー監督)でヨーロッパの女の子たちを片っぱしからナンパすることになる。演技ではなく現実に。『タイタンズを忘れない』や『ドリヴン』での爽やかなイメージを覆し、キップが今回、演じたのはセックスとドラッグにふける空虚なまでの若者像。「エリスの登場人物はいつも哀しい」という彼はこの作家の大ファンで、『ルールズ〜』続編となる『グラモラマ』で同じ人物を演じることが先に決まっていたとか。とはいえ、実際のキップは日本のファンのイメージにより近いからご安心を。誠実で少しだけシャイ、意地の悪い質問をすると本気で考え込んでしまうような生まじめさ。キップ・バルデューはやっぱりナイスガイでした。

※『ルールズ・オブ・アトラクション』は今秋シネクイントにてロードショー!!

 







——最初はポール役で依頼がきたそうですが。
キップ 原作者のブレット・イーストン・エリスは学生時代から大ファンだった。もちろん、当時はこんな風になるなんて思ってもみなかったから一読者として読んでいただけなんだけどね。
 実は『ルールズ〜』の話が来る六ヶ月ほど前に同じエリスの『グラモラマ』を映画化しようって話があった。『グラモラマ』は『ルールズ〜』の続編みたいなものでこの作品ではヴィクターが主人公になっている。僕はここでヴィクターを演じることになっているんだ。その話を進めている最中に『ルールズ〜』の脚本が送られてきた。「ポールをやってみないか」ってね。だから、脚本を読まずに「ヴィクターをやりたい」って電話をかけたよ。

 ——エリス作品のどういうところに惹かれるのでしょう。
キップ 登場人物の持つ哀しさ、かな。個人的に共感できるというのとはちょっと違う。僕の大学時代はここで描かれているようなものとはまったく逆で、もっと内省的だったしね。エリスの描くキャラクターは外見を取り繕い、セックスとドラッグに溺れ、時に友人の名前を間違って呼んだりもする。それって、すごく哀しい瞬間だと思う。

  ——ヨーロッパ旅行のシーンはほぼドキュメンタリー。実際に現地に女の子をナンパしたそうですが、成功率はいかほどでしたか?
キップ その質問(笑)…、(通訳が英語に)訳す前からそうくるんじゃないかって思ったよ。実は僕個人としては女の子に声を掛けるのは得意な方じゃないんだ。あくまで劇中のヴィクターとしてナンパしたわけなんだけど…うーん、最初は失敗ばっかりだったよ。ヨーロッパ旅行のシーンは2週間半かけて撮ったんだけど前半は全然だった。でも、途中からヴィクターを意識して傲慢な態度でアピールするようになったんだ。そうしたら何故だかうまくいったよ(笑)。

 ——ヨーロッパ場面はたった四分に凝縮されています。ヴィクターのナレーションが入りますが、非常に早口ですよね。実際の口調もやや早い感じがしますが、普段もあんな感じなんですか?
キップ うーん(笑)…やや早口なところはあるかもしれない。でもね、あれは原作を読んだ時から思ってたんだ。ヴィクターはああいうしゃべり方をするだろうなって。感情を露わにせず、でもちょっと興奮気味にね。








——今回、同世代の役者さんとの共演となりましたが。
キップ これまで年上の人たちと組むことの方が多かったから新鮮な感じがしたね。ただ、僕のシーンのほとんどはヨーロッパでの撮影だったから共演者と一緒になったのも四日間だけだった。でも、楽しい現場だったよ。ことにシャニン・ソサエモンは温かい心を持った人で一緒にいて楽しかった。

 ——劇中、シャニン演じるローレンはヴィクターと付き合ってると思っているらしい節があります。けれど、ヴィクターは彼女のことを覚えてもいません。
キップ ローレンとヴィクターは過去にデートするようなことがあったんだと思う。それで、彼女の方はうまくいってるんだと思ったんじゃないかな。

——キップさんご自身はいかがでしょう?女性にもてるでしょうし、それでなくともこうした会見を始め、いろいろな場所でいろいろな人に会うことが多いでしょう。気さくに声をかけられても「誰だっけ?」なんてこともあるのでは?
キップ ……うーん(結構、本気で困るキップ)。確かにね、声をかけられることはよくある。僕の名前の「キップ」って覚えやすいみたいでね(苦笑)。で、いろいろな人に覚えてもらってすごく嬉しい反面、でも実際、全員の名前を覚えられないこともある。……とっても申し訳なく思うんだけど…。日本は二度目の来日なんだけれど前回、会ったのに名前を覚えてなかった人もいてすごく悪いことをした気分になった。
 でも、ガールフレンドだったり、特別な相手だったりする人のことはもちろん、忘れたりしないよ。

 ——劇中、時間の巻き戻しが効果的に使われていますが、時間を巻き戻せるとしたらあなたはいつに戻りたい?
キップ ……(笑)。巻き戻したいとは思わないね。今いる場所は自分の思い描いていた通りの場所なんだ。自分はラッキーだったと思うよ。

 ——今年は半年のオフを取ったそうですが。俳優以外の活動も?
キップ 実は小説を書いていたんだ。エリスと監督のエイヴァリー監督が毎日のように「書け!書け!」とせっついてくれたおかげで完成もしたんだ。

 ——2人には読ませました?
キップ うん。2人とも「ぜひ出版すべきだよ」って言ってくれてね、エリスは自分の編集者を紹介しようとしてくれたりで嬉しかったよ。

 ——では、処女小説の方も楽しみにしています。本日はありがとうございました。

執筆者

寺島万里子

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