「月の砂漠」(青山真治監督)は三上博史にとって4年ぶりの映画作品となる。ここで三上が演じるのは時代の寵児ともてはやされるベンチャー企業の社長、永井。傍目には成功したかに見える男だが、家庭は崩壊し会社も倒産寸前、心に大きな空洞を抱えていた…。「これは決して万人向けの映画ではないかもしれない。だけど、何かを感じる人はきっといると思う」、こう語る三上は孤独に彷徨い、自暴自棄になる男を抑えた演技で見せてくれる。共演者はとよた真帆、柏原収史、萩原健一、夏八木勲ら錚錚たる顔ぶれ。「EUREKA」に続き、2年連続でカンヌ映画祭コンペティション部門に正式招待された本作。青山作品には初主演となった三上博史に撮影秘話を尋ねてみた。

※9月6日よりテアトル池袋にてロードショー



——映画出演は4年ぶりですよね。青山監督とは以前から一緒にやろうという話があったとか。
三上 「EUREKA」がすごく好きだったんですよ。それで一緒にやりたいねって話をしていまして…。当初、脚本を頂いた時はどういう絵になるのかよくわからないなっていうのが正直なところだったんですよ。青山監督だからっていうのは強かったですよね。

 ——主人公の永井の過去や遍歴について明らかにされない部分は多いです。監督からサイドストーリーのようなものは聞かされてたんですか?
三上 そうですね。永井という男にはちょっとしたモデルがいたんですよ。モデルといってもいろんなケースの複合だと思うんですけどベンチャー企業をやっている方のああいう話も聞きましたし、心情的にはまた別のモデルがいたりしましたしね。

——永井の妻への愛情がまた屈折していますよね。男娼を雇って「あいつを誘惑してくれ」と。
三上 うん、まぁ、落ちたかったんでしょうね。とことん、落ちたかった。だから僕は裏腹な言葉と捉えてましたけど。

——永井のセリフに「本当に欲しいものでも手に入れた途端、消えてしまう」といったセリフがあります。これについてどう思いますか。
三上 個人的に言えば本当に欲しいものってもうちょっと考えてから言うものだと思うので(笑)、永井はまだ甘いのかなという気もします。「手に入れた途端、消えてなくなる…」、そんなものを欲しいと思ったことはないし…。

——青山監督の現場はどんな感じでしたか。
三上 監督として純粋な映画作りをしている人という気がします。僕の撮影自体は一ヶ月程度でしたし、非常に苦労したとか、大変だったとかそういう記憶はないですね。流れるように撮影してーーそんな感じです。




——本作はカンヌ映画祭にも出品されました。カンヌはいかがでしたか?
三上 素晴らしく楽しかったですね。2週間くらい行ってたんですけどいろんな国の映画人と交流して刺激にもなりましたし。

 ——ちなみにプライベートで映画館に行ったりはよくするんですか。
三上 しますよ。この間はダニー・ボイルの「28日後…」を見ました。日本で仕事している時以外は海外に行ってることが多いんですよ。ですから、国外で見ることの方が多いんですけど。

 ——ご自分が出ている映画を見ることも?
三上 それは…本当のところ、余り好きじゃないですね(笑)。過去の作品であっても自分が出てるとなると…そう見たいものじゃないですよ。

——「月の砂漠」はどうですか?
三上 いや、もちろん、見てますよ。映画の種類として決して万人に届けられるものじゃないかもしれない。丹精に出来ているようで実はそうでもないところもある。だけど、何かを感じる人は必ずいる、そういう映画だと思います。

執筆者

寺島万里子

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