地核停止により地球を襲う宇宙放射線。人類滅亡までに残された時間は、わずか1年。『ザ・コア』はSF映画の人気ジャンルである人類破滅をテーマに、斬新かつ伝統的な見せ場をふんだんに盛り込んだ最新話題作だ。例えば、冒頭不吉な惨事が重なる部分では、これまで描かれた事の無かった驚異の危機回避作をとるスペースシャトルエンデバー号や、攻撃の意志ではなくあくまで狂ったものとして表現される鳩の群れなどの描写が、新鮮な興奮を呼び覚ましてくれるし、地底探査艇バージルがマントルの中の空洞に突入する場面は、理屈はさておき往年のSF映画ファンに懐かしさと快感を与えるのは必至であり、まさにSFは絵という表現がどんぴしゃなのだ。
 そんな作品を撮ったのは、英国出身のジョン・アミエル監督。アート系の作品から、サスペンス、コメディとジャンルを問わない監督ではあるけれど、同時にSF映画との接点は微妙な感じなのだが?「ジャンルとしてのSFはあまり好きじゃないけれど、科学にはすごく興味を持っているんだよ」。5月14日に行われた、ネット媒体合同インタビューに出席したアミエル監督は、インタビュー開始早々に軽やかにそう宣言すると、所謂このジャンルを得意とする監督たちとはある部分では異なり、またある部分では共通もする独自の演出術について、実に熱く語ってくれたのだ。

(撮影:中野昭次)

$navy ☆『ザ・コア』は、2003年6月7日より劇1他 全国東宝洋画系にてロードショー公開!$



Q.最初にこの話を、プロデューサーから聞いた時の感想は?
——こりゃ、馬鹿げてる。無理だよってね(笑)。最大の問題として、潜水艦の映画ならば海中を行く潜水艦、宇宙を舞台にした映画ならば宇宙船を描けるけれど、この作品の場合メイン・ショットとは地底を行く探査船だというんだから、どうやって撮るんだい。不可能だよってね。でもだからこそより魅力を感じ、これまでこんな馬鹿げたものを撮る人がいなかったということが、僕を駆り立ててくれたんだ。
僕は基本的に、ジャンルとしてのSFはあまり好きじゃない。だけど、科学にはすごく興味を持っている。すごく魅力とドラマ性があるからね。しかしこれまでの映画で、科学が秘めているロマンというものを描いたものはなかなか無い感じがしていたので、今回はそうした部分を描きたいと思ったんだ。これまで刑事ものでは死体の検証により犯人を追及し、法廷劇では法律をがっしりとらえ弁護士等が戦う様が、高いドラマ性を持って描かれ、観客の皆さんを楽しませてきたよね。今回は、世界の有数の頭脳が集結し、科学を駆使して地球を救うという点にすごく魅力を感じたんだ。

Q.あたかもアトラクションに乗っているかのような臨場感を感じる作品ですが、演出上のポイントをお聞かせください。
——僕たちはまさに、それを意図して作品に取り組んだので、そう言ってもらえて嬉しい。この作品はパラマウント作品なので、冒頭に山を配したロゴマークが出てくるのだけれど、その山の中にベルトがあれば締めたくなるようなスピード感で突入していき、それであいた穴が核になっていくという演出で、冒頭からこの作品がアトラクションに乗っているようにスピード感溢れる作品であることを示したかったんだ。
その直後、心臓発作を起した人たちが倒れる場面が展開するのだけれど、それもバッタリと倒れる姿を映し、カメラはそれから360度パンする。その後に出てくる鳥の場面でもそうだが、この作品では、兎に角アクティブで臨場感を与えるカメラワークを心掛けたんだ。例えば、会議の場面などでも、常に何かが動き、カメラも動くよう考えながら演出したんだよ。






Q.誰も見たことのないことを映像化するにあたり、心掛けた点は?またリサーチはいかがですか?
——兎に角入念なリサーチを行ったよ。地質や電磁波研究など様々な部門の学者や技術者に、実際地球の中がどうなっているのか話を聞いたんだ。それからどういった形の乗り物なら、地球の核に到達できるのかということをリサーチした。SFは往々にして架空の世界であるが故に、それを観客に納得してもらえる要素が必要とする。今回は地球の核にまで達するために、高熱や圧力に耐え得る素材があるということを納得してもらえないと成立しないと思って、その素材とは何かということからはじめたんだよ。
そして素材の次はデザインとなったわけだけど、基本的には3つのアイデア…それはロケット、潜水艦そしてミミズからきているんだ。一番圧力に耐え得る形ということで潜水艦の細長さを、そして環状のセクションに別れているところはミミズを参考にしたんだ。このセクション毎に離脱が可能という点は、後にプロットでも重要な意味を持つ。そして探査艇=バージルには、先頭部分にレーザーがあり、それによって岩盤を砕き、超音波が砕いた岩を吸引し後ろから噴出させることを原動力としている。全体の長さが18メートルとして、前部が熱くとも後ろに行くほど熱は醒めてしまうので、それを防ぐために6つのコンパートメントそれぞれにもレーザーを装備し、熱が醒めることを防ぎまた周囲の岩を砕いていくようになっている。それがまた、映像としても役に立ってくれたんだ。つまり周りにもレーザーという光があるので、側面から見た場合の長さと地中を行く姿を楽しんでもらえるわけだね。

Q.この映画で描かれている科学的な事象は、どのくらいまでフィクションなんですか?
——86%は真実さ(笑)。この作品の科学的な根拠は、ほぼ現実のものに基づいていて、特に地球の構造についての部分は全て事実だよ。南極と北極の磁場が弱くなりつつあることは、実際に起きている現象だが、その原因とそれが何をもたらすかに関しては、学者の間でも意見が分かれているようだけどね。
勿論、実際の科学を我々なりに自由に解釈してしまった部分はあるよ。例えば、地下700マイルの地点に、クリスタルの鍾乳洞があるなんてことは実際には証明されてない。まぁ、最近メキシコの地上では、あの規模のものが発見されたようだけど、地上にあるからといって地底にもあるとは限らないし、あんな大きなダイヤモンドがあるかどうかは判らないさ。でも、有り得ないという証明もされてないよね。また、宇宙放射線が降り注ぎサンフランシスコが大破する件に関しては、実際にあれだけの被害がでるとは証明されてはいない。ちょっと、強調しすぎたかもしれないね。でも、映画はあくまで映画なので、ドラマ性を高めるために、ああした惨事を描いたんだ。




Q.冒頭予兆として描かれる惨事が、電磁波、ピースメーカー、スペースシャトルなど現代人が不安を覚える題材により描かれていたと思いますが、そのあたりはかなり意識して選択されたのでしょうか。
——例えば、テキサス州サイズの隕石が地球に激突するとすれば、それは判りやすく説明不要だよね。今回のコンセプトとしてはそれよりも、何が起きているのかがわからない、ミステリアスな要素を使おうと思ったんだ。映画が始まってすぐ、これはディザスター映画であると判ってしまうのではなく、謎解きからいこうってね。例えば、32人のペースメーカー使用者の同時死、ロンドンで異常な行動をとる鳩の群れ、カリフォルニアでのスペースシャトルの事故、といった事件を描いた上で、それらがどうして起き、どのように繋がっていくかの謎解きから始まった方がよりエキサイティングな導入になると思ったんだよ。
そしてこうした惨事が次々と起きるわけだが、それをその場その場にいる個々の人間に焦点をあてて描こうと思ったんだ。ローマのコロッセアムが、そしてゴールデンゲート・ブリッジが破壊されるのは大変悲しいことではあるが、コミュニケーションの最大の部分は情感に訴えることだと僕は思うし、そうすることで、臨場感と共感を観客から得られるものなんだ。だから、鳩の襲撃シーンではトラファルガー広場にいた男を、ローマの場面ではカフェでサッカーの中継に熱中する客たちを、そしてゴールデンゲート・ブリッジではラッシュアワーに巻き込まれたドライバーの視点からといった風に描いた方が、より強い共感を覚えるだろうと考えて演出したんだよ。







Q.ジャンルとしてのSFにはあまり興味が無いとのことですが、例えばクリスタルの空洞の場面等は、ジュール・ヴェルヌの小説を映画化した『地底探検』(59)などを髣髴とさせSF映画ファンから見ても嬉しい場面でした。実際今回の映画化にあたって、過去の作品からの影響等はいかがですか?
——他のSF映画は参考のために沢山みたけど、それはそれらの作品が犯した過ちから学ぶためだったのさ。過去10年間に描かれたSF映画は、僕が思うに特撮技術の発展により価値が下がってしまったと思うんだ。特定のタイトルをあげることは控えるけれど、そうしたSF映画が犯した最大の過ちは、荒唐無稽でマンガチックな方向に走ってしまうか、あまりにもシリアスに捕え過ぎてしまって娯楽性に欠けて楽しさを見失ってしまうかのいずれかのタイプになっているよね。実際、あらゆる偉大なドラマとは、常にその周囲を取り巻く情況よりも、その中におかれたキャラクターの方が重要だったり、共感が持てたりするものだと思うんだ。例えば『風と共に去りぬ』(39)で観客が気にするのは、南北戦争の勝利の行方ではなく、レッドバトラーとスカーレットが一緒になれるかということだし、それは『イングリッシュ・ペイシェント』(96)も同様だね。僕はそれらの映画から、どんなに深刻な情況であったとしても、キャラクターに観客の興味が向かう演出が大切だと感じたんだ。
『地底探検』(59)を僕は僕は10歳の時に見たのだけれど、その時にもこれはバカげていると思わざるをえなかったよ。実際に地底で人間が歩き回り、地底湖とか、恐竜とか、古代都市を発見するんだから。今でも覚えているのは、ジェイムズ・メイスンが小さなバック・パック一つしかないのに、洋服も何も汚れてないまま日記には250日目とか書いてね(笑)。どうやって生きてきたんだろってね。それであらためて考えてみたところ、地底探検のリアルな物語というのは、ここ150年ほどで書かれたことは無かったと思うんだ。『ザ・コア』と『地底探検』(59)で共通点があるとしたら、それはまさしくその空洞で人が探査艇から降りて歩いている点だけだと思うね。

(2003年5月14日ギャガ・コミュニケーションズ本社にて)

執筆者

殿井君人

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