これぞ極めつけ!ジィ様のハードボイルドだ!! 「人斬り銀次」宮坂武志監督インタビュー
「高齢者がスカッとするような作品があってもいいんじゃないかな。そういう想いでこの映画を撮りました」。Vシネ界で知らぬ者のいない宮坂武志監督の劇場長編映画「人斬り銀次」がこのほど公開になる。「人斬り銀次」とは特攻隊の生き残り、群がる愚連隊をたった一人で斬り倒し、その後五十年に渡り、刑務所生活を余儀なくされた男。主演は若き日の銀次に竹内力、出所後の銀次に夏八木勲、脇を固めるのはつぐみ、石橋漣司、鶴見辰吾、古尾谷雅人らそうそうたる顔ぶれだ。アクションはお手のものの宮坂監督だけに派手な立ち回りも見どころのひとつだが、作品の芯を貫く哀切感に胸が痛くなる気分もしかり。公開直前、3月のある日、宮坂監督に単独インタビューをお願いした。
※「人斬り銀次」は3月29日から千日前国際シネマ、
4月12日(土)より新宿東映パラス3にてロードショー!!
4月11日(金)には、新宿東映にて特別前夜祭先行上映、
竹内力、夏八木勲、つぐみ、ほかによる舞台挨拶も行われる。
——どういうきっかけで「人斬り銀次」を撮ることになったのでしょう?
宮坂監督 一昨年くらいでしたかね、企画プロデューサーから「特攻隊の話があるんだけどやってみないか?」って言われまして・・・。
当初は通常のヤクザものってことで進んでたんですよ。これまでもアクションは何度も撮ってきましたし、ほぼ当初の思惑から変わっていくこともなかったんですけど、本作の場合は製作に入ってやりたいことがいろいろと出てきたんです。ああ、靖国神社に行かせたいなとか、風に揺らめく日の丸の旗を撮っておきたいなとか。映画の神様がいるとしたら、この映画ではそういうものを感じましたね。撮影中はずっと雨の日続きだったんですけどクランクアップしたその日の夜に空を見上げると満月でした。なんだか、感じるものがありましたね。
——冒頭からしてド肝を抜かれるアクションシーンですが。
とにかく派手にやってくれっていうお達しがあったんですよ。あの血しぶきもホース10本くらい使おうかって案もあったくらいで。ただ、予算の関係で実際に使っているのは4本くらいなんですけど。
——殺陣のシーンのリハーサルなどは念入りにされたのでしょうか?
竹内力さんとは何度も仕事してますから、どのくらい動けるかわかってましたけど、夏八木さんにお会いするのは初めてだったんですね。それで、撮影に入る前に「殺陣は出来ますか?」って聞いたんです。今思うと恥ずかしいのですが・・・。それでも、あの方は大人だから「一応、大丈夫だと思います」ってお答えくださったんです。実際には劇中通り、見事な立ち回りでした。
夏八木さんは東映の撮影所出身なんですが、当時の役者さんは撮影終了後も立ち回りを練習したりしていたそうなんですよ。
——印象に残っているシーンはありますか?
ラストシーンですかね。うまくいかなかったところほど印象に残る方なんですけど益子くんの泣きの場面はテストの方が数段良かったんですよ。実際に使用したものも全く問題はなかったんですけど、テストの時はホントに泣けました。「テストだから軽くやってくれていいよ」って言ってたんですけど、益子くんからしてみれば自分がすごくリスペクトしている夏八木さんが相手でしょう。手抜きなんてできないんですよ。でも、あのシーンの撮影は結構大変でした。というのも舞台となったお墓の隣が小学校。いざ撮影を始めようとしたら子供たちの合唱が始まってしまって(笑)・・・。終わるまで待ってましたけど。
——現場でのアドリブも多かった?
そうですね。たとえば、石橋漣司さんの切腹のシーンなんか、シナリオにはなかったんです。あれは漣司さん自身から出たアイディアなんです。
とはいっても、大筋は変わってませんけどね。どちらにせよ、シナリオも撮影直前まで変更がありました。銀次(夏八木勲、竹内力)と美代子(つぐみ)の別れにしてもああならないバージョンもありました。最初はシナリオも2時間半分くらいあったんです。本篇では回想シーンも結構カットしてますし、想像で補ってもらう部分は多くなったとは思いますが、余りにもわかりやすいのもどうかなというのがあったので。
——本作品を特にどの世代に見て欲しいですか?
60歳以上の方ですね。これから日本映画でも介護とか高齢者の話が増えていくでしょう。でも、ハートフルなヒューマンドラマか、社会問題かのどちらかだと思うんです。そうじゃなくて、自分としてはジジィが暴れる映画を撮りたかったんです。アクションが好きな人は年を取ったからといってアクション映画を嫌いになるわけじゃない。たとえば「ミナミの帝王」とか見てきた暴走族の兄ちゃんたちが老人になって、ヒューマンドラマを見るかというとそうじゃない気がする。もっと、じいさんたちがスカッとするような作品があってもいいんじゃないかな。そういう想いでこの映画を撮りました。
執筆者
寺島万里子