藤原紀香とアーロン・クォック、クーリオらのノンスタント・ハード・アクションが話題の『SPY_N』だが、本作のアレックス役で映画デビューを果たした台湾のワン・リーホンの魅力も捨てがたい。ジャパン・プレミアの舞台挨拶では、藤原紀香とのシーンの裏話で笑いを提供してくれたリーホンの、単独インタビューの機会を得ることができた。
 180センチの長身と端整なマスクで鮮烈な印象を残す彼は、本来はミュージシャンで、台湾音楽界の最高峰である金曲賞最優秀男性ボーカリスト賞およびアルバムプロデューサー賞の最年少受賞記録(当時22歳)を持つ実力派だ。本作には、俳優としてのほか、エンディング曲の作詞作曲および歌手としても参加した。
 撮影から2年が過ぎてしまったが、そんな彼から見た『SPY_N』の世界をきいてみよう。

$red 『SPY_N』は、2002年7月20日より、渋谷東急3ほか全国松竹・東急系でロードショー$






—-2年前、この映画の撮影が一時中断したときにあなたは音楽の仕事で来日していて、そのときにも私はインタビューしているのだけれど、あのとき、どうしてこの映画に出ることにしたかと訊いたら、
「昔からいつか映画に出ると決めていたんだ。学生時代にミュージカルで演技は経験していたし、映画に出るタイミングを計っていた。この映画はキャスティングがすごい。紀香にアーロン、クーリオ。セリフも英語だったので、アメリカで生まれ育った僕にはやりやすかった。役もいいし、監督も、アクション映画だということもよかったので、これだ、と思った。」
と答えてらっしゃった。スタンリー・トン監督でアクション映画ということが決め手のひとつになったのはなぜですか?
「僕が映画に出るときは、絶対にアクション映画にしようと思ってたんだ。なぜかというと、あまり演技に重きをおかないから(笑)」
—-アクションだと、かなり危ないこともしなければならないですし、トレーニングもしなければいけないと思いますけど、そのへんは自信があった?
「ある程度の自信はあったと思うよ。もともとスポーツ好きだし、体操で床運動とかをやっていた時期もあったし、カンフーも少しやってたから」
—-実際に挑戦してみてどうでしたか?
「すごくいろんなことを学んだよ。パフォーマーとしては、歌い手も俳優も同じようなもの。シンガーはマイクの前でオーディエンスを前にして演じているので、そういう点では共通点があると思うし。この作品を通していろいろ経験したから、今後は、演技に関してはもう少し自信を持っていろいろな役に挑戦していけるかな。アクションに関して言えば、それぞれのシーンを演じる前に気持ちをハイにしなければいけない。つまり、体の防衛本狽ノ抗うようにやらなければいけないから、そういうふうに自分をもっていくのが大変だったよ」
—-スタンリー・トン監督はハードなアクションに定評のある方ですが、現場ではいかがでしたか?
「すごくシリアスに自分の仕事に当たっている人。いつも口癖のように『大きなスタントの前は、僕は役者よりも緊張するんだ』と言われていて、それは本当にそうだなと思うし、長年やってきて、これで評価を受けている監督だからプロ根性はすごい」
—-そういえば、舞台挨拶でジャッキー・チェンの映画のファンと言ってらしたけれど、では、ジャッキー・チェンの映画でスタンリー・トン監督が撮ったものでいちばん好きな映画は?
「『レッド・ブロンクス』だよ」





—-共演した藤原紀香さんの印象を聞かせてもらえますか?
「すごくプロフェッショナルで、自分のスタイルを持っていて、それでいて思いやりがあって優しいステキな女性。タフでもある。この映画には、面白いところがいっぱいあるんだけど、見所のひとつとして紀香さんのフィジカルな部分の魅力をチェックして欲しいな。実は、僕が、彼女と初めて会ったのはジムだったんだ。会ってすぐに『ふたりでスパーリングしてみて』と言われてやったんだけど、彼女は声を上げながらキックは入れてくるは、パンチは食らわされるは、タフだな、という印象を受けたよ」
—-アーロン・クォックにはどんな印象を受けましたか?
「彼のことはずっと知っていたんだけど、本当にエネルギーの塊。ずっと仕事を続けていられる。20時間、30時間と撮影が長引いても、キックを30回連続で繰り出して、ただただ完璧にいいショットが撮れるまで蹴り続けることができる。これは、大袈裟に言っているわけではないよ。そういった意味で、アクションについては完璧主義者で賞賛に値すると思う」
—-失礼かもしれないんだけど、たまにあなたの音楽パフォーマンスにダンスがつくことがあるけれど、それを見ているとアーロンを思い浮かべることがあります。何か意識するものがあるんでしょうか?
「2年前のアルバムに入っているある1曲の振付師が、彼の振り付けもつけもしている方なので、その曲に関しては影響があるかも。他の曲でそう見受けられたら、それは偶然かな」






—-さて、あなたは「CHINA WHITE」という曲をこの映画のために作っていますね。どういうインスピレーションをこの映画から感じて作ったのですか?
「ちょうど撮影が終わって、ホテルの部屋で書いたんだ。頭の中でこの映画のシーンをリプレイしながら、映画に合うサウンドを意識した。スパイのかっこいい感じを出したかったし、アクションのパワーというものを是非表現したかった。だから、ラップ……僕はパワーラップと呼んでいるんだ。出来にはすごく満足していて、ワールドツアーの1曲目にこの曲を演奏してるよ。力強い曲だし、この曲で観客に盛りあがってもらいたいんだ」
—-これは、歌詞もアレンジも自分で?
「歌詞(英語)は自分で書いているよ。アレンジは部分的にね。いつもと違ってラップだったこともあるし、歌詞を先に作ったんだ。映画のなかでは、ドラッグが背後で重要なキーになっているので、僕自身のドラッグディーラーに対する怒りみたいなものを阜サしてみた。曲タイトルの“CHINA WHITE”というのは、ヘロインの隠語なんだ。当初は映画自体が“CHINA WHITE”という英語タイトル(原題)になると言われていたので、両方をひっかけて付けたんだけど、“CHINA STRIKE FORCE”という別のタイトルになってしまった。僕は、この曲で街を白い粉で乱すディーラーたちへの怒り、そういった部分を阜サした歌詞をまず書いた。そんなわけで、怒りの阜サとして攻撃的な音作りができたので気に入ってるんだ」
—-今後、映画に対しては何か抱負はありますか?
「いい企画があったらぜひ出演したい。でも、役者というのは、いい作品が来るまで待つ時間というのが必要だと思うんだ。焦ってはいけないし、自分に向いているいい企画があったらやりたい。けれど、ご存知のように基本的に僕はミュージシャンだから、すべてのエネルギーは音楽に向けていきたい。ここまで自分を応援してくれる日本のファンにありがとうと言いたい。この先どうなるかわからないけれど、音楽のほうも応援してください」
—-いつか、1曲だけじゃなくて映画1作まるまるあなたの音楽で見てみたいですね。
「僕もそう願ってる。坂本龍一が好きなんだ」

執筆者

みくに杏子

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