『金魚のしずく(ゆうばりファンタでは原題の“グラス・ティアーズ”で上映)』は姿を消した少女をめぐって、その両親、祖父、友人の3人が織り成すドラマが、これまでの香港映画とは一味違う美しい風景の中で描かれていく不思議なテイストの作品だ。登場人物がそれぞれのキャラに関して饒舌に語ることはないものの、それぞれの情感の動きがあたかも画面から自然に溢れ出してくるかのようだ.
今年のゆうばりファンタで、見事ヤング・ファンタスティック・グランプリ審査員特別賞を射とめたキャロル・ライ監督は、インディーズで撮った中篇に続く本作が長編デビュー作となる。
今回ゆうばりファンタには、期間中通訳としても活躍された夫君の呂學章さんと共に来日されたキャロル・ライ監督は、ファンタスティックでありながら折り目正しい端正さを感じさせる作品の監督らしく、質問の一つ一つに「はい」と返事をしながら真摯に答えてくれました。

$navy ☆『金魚のしずく』は、2002年7月上旬より新宿武蔵野館にてロードショー公開!$







Q.ゆうばりファンタに参加されての感想をお願いします
——様々な映画祭に出席してますが、すごくユニークな映画祭です。歓迎してくれる人々の多さに驚きましたが、すごく楽しい映画祭です。

Q.姿を消してしまった少女も巡る周囲の人々などが、一風変わったキャラクターとして描かれているのが印象的ですね。今回、このような作品撮ろうと思われたきっかけをお話ください。
——映画の仕事に入る前にアルバイトで不良少年達を収容する学校の先生をやったことがあるんです。それ以前は、彼らはだらしがない悪い子たちだと思っていたんですが、実際には悪い子ばかりではなくいい子も多くいたことを知りました。それで彼らを扱う映画を撮りたいと思ったんです。その数年後、『ファザーズ・トイ』という最初の映画を撮ったんですが、その中で主役を演じた老人の本職は島の管理をしていた方でその仕事もキャラクターもとても興味深い方だったんです。それで、その二つを組み合わせて映画を撮ろうと思ったんです。ただ、普通不良少年を描く映画の場合は親達の存在感が薄いものが多かったので、姿を消した少女の両親のキャラクターをふくらませたんです。

Q.特に定職を持つようでもなく、街中を歩き回る父親のキャラクターなどは、不思議な存在感があるんですが、同時にこの人は一体どんな人物なのかという疑問が観終ってからも残ったんですが、どのように作られたキャラクターなのでしょうか。
——『ファザーズ・トイ』では少し呆けていて町を彷徨いゴミを拾う老人のキャラクターが出てきたので、二度目ですね。実はこの役にはモデルがいるんです。中国から渡って来た優秀な音楽家の方なんですが、香港では仕事がないから眠る時などいつも楽器を抱いていたそうです。その話からインスパイアされたものですね。そうした部分で言えば、『ファザーズ・トイ』の発展させたものでもあります。

Q.『ファザーズ・トイ』はインディーズ作品として製作されたということですが、今回は本職のスタッフ・役者陣をによる商業映画ということですが、製作状況で異なった点などありましたらお話ください。
——今回の作品は、インディーズの資金では撮れない作品だったんです。その点では、今回P仔役のゼニー・クォクが可愛い子だったのは役にたったみたい(笑)。写真を見せて、物語を説明したら投資を受けられたんです。投資を受けた以上、映画会社からの話を聞く必要はでてきましたね。音楽家である父の役は、本々は中国か台湾の俳優の起用を考えていたんですが、マーケティングを考慮しての製作会社の判断に従い香港の俳優にしました。それでも、クリエイティヴな面では自由に撮らせてもらいました。







Q.香港の街中でのロケーションが、ある意味一般的に連想しがちな景色と異なり非常に美しかったのですが、かなり事前から準備されたのでしょうか。
——えぇ(笑)、多分香港に来たことがある方は、その街並みに猥雑な印象を受けると思うんですけど、そうした部分はあえて取らないようにしたんです。綺麗な作品を撮りたいという思いがありましたので特別なロケ現場を探し求めましたよ。本々香港のあちらこちらの場所で暮らしたことがあったので、その記憶をもとに様々な地域を見てまわって選びました。それらは、これまでに香港の映画監督が捉えたことが無い初めての場所ばかり、夜間の橋の下でウーとP仔の薬を巡っての場面などもそんなロケーションです。

Q.登場人物に関して実際にモデルとなった方がいるというお話を聞きましたが、ちょっと現実離れをした印象を受けるキャラクターなど、言葉として正しいかどうかは判りませんがファンタジー的な作品になっていたと思いますが、特に綺麗な画面に拘られたというのはそうした点からでしょうか
——ファンタジーという言葉をいただけて嬉しいです。実際こうした物語が現実に起きることはあまり無いと思います。ですから、一種のフェアリー・テールとして撮ろうと思いまして、こういった撮影や美術のスタイルをとったんです。

Q.ヒロインのゼニー・クォクさんは今回が映画初出演ということですが、起用されたきっかけは
——彼女を最初に見たのは雑誌に載っていた小さな写真で、その表情に感じるものがあってエージェントと連絡を取ったんです。まぁ、演出では大変だった部分もあったんですよ(笑)。撮影していた頃は、丁度反抗期の真っ盛りって感じで、同時に出演者の中で自分だけが新人ということでプレッシャーを感じていたようで、私との間にもちょっとした緊張関係がありました。でもそれが、映画の中のP仔のキャラクターとも重なって、より自然な描写が生まれました。









Q.脇をベテラン俳優さんで固められていましたが、ウーを演じたロー・リエさんは劇中で見せる立ち回りが、元警官を思わせるもので決まってましたね
——脚本を書いた段階から、ベテランでアクションができる俳優さんを使いたいと思ってい、それで似た背景のある人を選んだんです。彼はショー・ブラザースでアクション俳優としてならした人なんです。ご本人は自分のアクションはあくまで演技で本当のアクションじゃないと言ってますが、百本以上の作品に出てますし完璧でした。
作品としてはファンタジーなのですが、個々の描写に関してはリアリティを求めてというのはありましたね。彷徨う音楽家を演じたタッツ・ラウさんも、実は音楽家出身なんです。

Q.今回の作品は、キャラクター等に関してを台詞で語るというより、映像で内面を語っていく作品で、それぞれのキャラクターが繋がっていて繋がっていないような作品だったと思いましたが
——それぞれに違う世代のキャラクターたちで、ウーと夫婦は親子という関係もありますが、P仔は全くの他人ですよね。それが、次第に感情を通わせていく姿を表現したいというのありましたね。そして台詞で説明するのではなく、そのシチュエーションで表したいと思いました。ただ食事をしている場面にしろ、アイス・スケートをしている場面にしろ、その雰囲気からそれぞれの感情が伝わるようにしたんです。

Q.編集にキャロル監督と共同で、『レイン』などの編集ダニー・パンさんが参加されているようですが、その経緯を教えてください
——ダニーとは本々友人だったというのもあるんですが、作中変わった撮り方をしている部分もあったので、ベテランの編集者じゃないと難しいと思ったので、彼に依頼しました。

Q.次回作のご予定は
——恋愛映画を撮りたいんです。脚本は書きあがっていて、現在資金集めをしているところです。

Q.映画祭での上映後、日本でも一般公開とのことですが、これから作品を観るファンにメッセージをお願いします。
——この映画は判りづらい部分もあるかと思いますが、自分としては暖かく感情的に優しい映画になったと思います。是非観てください。

執筆者

宮田晴夫

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