緑色の怪物を中心に現実には有り得ないキャラクター達が織り成す、ある意味非常にシンプルなファンタジー・ストーリーでありながら、登場するキャラクターたちの心情が痛いほどに感じられるその表情の豊かさは、それがアニメであることすら忘れるほどのリアルさで見る者に迫ってくる感動的なCGアニメーション『シュレック』。アニメーションとして初めて、今年の東京国際映画祭のオープニング上映作品で上映されることになったこの作品の製作者で、製作スタジオであるドリームワークスの設立者でもあるジェフリー・カッツェンバーグ氏と、アンドリュー・アダムソン監督が東京国際映画祭に参加するため来日を果たし、映画祭前日の10月26日にホテル西洋にて記者会見を行った。







Q.ご挨拶をお願いします。

アンドリュー・アダムソン監督——日本に来れてとても嬉しく思います。私は日本は初めてで、とても光栄ですし今回この『シュレック』という作品を持ってこれたことが喜びです。皆さんが、この映画を楽しんでいただけることを願っております。

ジェフリー・カッツェンバーグプロデューサー——私は日本に何度も来ておりますが、いつも戻って来れることをとても嬉しく思います。今回は『シュレック』という作品を紹介できるということで、またこの作品が世界でも大変権威の有る映画祭だと認識しております東京国際映画祭のオープニングに選ばれたということで、大変光栄に思っております。

Q.全米大ヒットの要因は、どのような点だと思いますか。また魅力について、お二人それぞれお聞かせください。

アダムソン監督——私はヒットの要因も魅力も同じ答えなのですが、まず非常に普遍性の有る映画だと思います。どの国、どの文化、どの年齢層にもうける要因を持っていると思うんです。そして自分自身を受け入れ、他者も見かけではなく本質で受け入れるというメッセージが、年齢を超え、国籍も超え、普遍的だったと思うんです。また、非常に単純なものからかなり複雑なものまで様々なユーモアが人々を楽しませとてもいい気分になれる作品だと思います。

カッツェンバーグP——私はヒットしたから好きです(笑)。それが一番です。

Q.日本で大ヒット中の『千と千尋の神隠し』をドリームワークスが欧米で配給する動きがあると聞きましたが、どうなっているのでしょうか。また、将来的に日本やアジアのクリエイターと仕事をしていきたいと思いますか?

カッツェンバーグP——『千と千尋の神隠し』は私も拝見し、大変素晴らしい作品だと思いました。日本での大ヒットもうなずけますし、現在ドリームワークスによる北米での公開の可能性を探り話し合いを持っているところです。日本やアジアのアーティストとの仕事に関しても以前から望んでおりますし、私の会社にも日本人のアーティストが参加しています。大友克洋氏とは共同作業をしたい意向で話し合いを持っていますし、様々な監督、デザイナー、アーティストたちとも話を進めております。日本のアニメ業界は、昔から映画界の中でも主流になっていて多くの才能をかかえていて羨ましいかぎりです。









Q.20世紀の我々を楽しませてくれた童話のキャラクターたちが勢ぞろいして作られた方の愛情が感じられましたが、童話キャラを勢ぞろいさせた理由、及びその思い入れのようなものがありましたら、教えてください。

アダムソン監督——私たちが大好きだったキャラクターを使って、時には遊び心で捻ってみて大いに笑うということも大事だと思いました。御伽噺というのは私たちが育つ中で色々なことを教えてくれたと思うんです。それで教えてくれたことが、必ずしも社会で通用しないということがあると思うのですが、そのあたりを予想通りにはいかないものなんだ、見かけどおりじゃないんだなんてことを映画を通して伝えたかったということはあります。

Q.ディズニーからドリームワークスに移られたときに、どのようなアニメを作りたいと思ったか、そしてその信念が今も変わらぬかどうかを教えてください。

カッツェンバーグP——ディズニーにいた頃ディズニーでいつも言われていたのですが、ウォルト・ディズニーは映画を作るのは子供のためだと、そして大人の中にある子供の部分に対して作るんだということを言っているんです。私たちドリームワークスは、違うものを作りたい、非常にオリジナリティの高い独創性のあるものを作りたいということで、私たち大人のために作って、子供の中にある大人の部分にむけて作っていきます。私たちドリームワークスがこれまで作ってきたアニメをご覧いただけますと、とても洗練されてテーマ性がある複雑なものが多いんです。これは、大人が大人のために作っているからであって、同時に子供たちも楽しめる映画なのです。ウォルト・ディズニーが映画を作っていた60年前というのは社会が違いましたし、子供達が情報を持っていませんでした。今のように洗練されていなくて、もっともっと素朴で純粋だったと思うんです。今の子供は情報を持っていて、ませています。ですから『シュレック』は、大人のために作っていますが十分に子供のために作られた映画だと思います。

Q.原作の絵本を読んだんですが、結末以外はかなり変わっていてそれでも原作のテイストはよく残っていたと思いますが、脚本化・映像化に関しての御苦労を教えてください。また、ディズニーランドや『マトリックス』などパロディが満載でしたが、それも企画当初からのものだったのでしょうか。

アダムソン監督——原作はとても短いものを長編映画にする苦労がありました。我々の主人公は、臭いし、汚いし、緑色の怪物だということで、見た目にはヒーローには見えないアンチ・ヒーローです。普通ならこういう怪物は悪役になるところを、彼が魅力がないところから、だんだんと惹きこまれていって好きにならないといけないんです。そこが一番困難なことでした。ただし、4年間色々なものを作っていく中でそのプロセスをかなり楽しみました。カッツエンバーグ氏は「4年間笑ってただけだよ」とおっしゃいましたが、カッツェンバーグ氏を笑わせるのが一番大変でしたよ。それが苦労かな(笑)。
パロディの部分は、ストーリーを作っていく中で段々と発展し付け加えていったものです。シュレックが旅に出る時には、初めのアイデアでは家を燃やしていたんですが全然面白くなかった。それでどうするかということで、2000人くらいの可愛い訪問者が現れるアイデアが生まれたところから主人公たちのパロディができる、そこから何も神聖なものは無くなってなんでもパロディ化できるなっていう風に発展していったんです。











Q.日本語版のキャストもすごくよかったのですが、藤原紀香さんや浜田雅功さんをキャスティングしたいきさつを教えてください。

カッツェンバーグP——このお二人に関しては、お二人の出られているテレビの番組や作品を何本も見て、彼らのテープを聞き、非常にユニークな才能溢れる方々だということが判りました。実際、多くの方々にオーディションを行い、声を聞きましたが、この二人が兎に角一番二人の理想だったのです。英語版では、キャメロン・ディアス、マイク・マイヤーズ、エディ・マーフィーと夢のキャスティングが出来たと思うんですが、まさに日本語版でも夢のキャスティングが実現したと思います。この方たちが決まった時点で、ただ翻訳して台詞を言うのではなく自分たちのオリジナル・キャラクターにしてくださいという自由が与えられました。その結果、これまでの作品の中で一番優れたアダプテーションの成功例になったと思います。

Q.『シュレック』はアダムソン監督とともに、ヴィッキー・ジェンソンさんが監督としてクレジットされていますが、どのような役割分担で監督されたのでしょうか。

アダムソン監督——重要な点はほとんど二人で共同で決めていきましたが、映画全体をいくつかのシークエンスごとに分けて、半分づつくらいの割合でリーダーを決めていき、スタッフから質問があった際はそのシークエンスによって彼女か私かという風にわけました。また大きな判断を必要とする場合は、二人で決めました。どうしても二人の意見が合わないときには部屋に閉じ込め鍵を閉め、結論が出てくるまで出てこないという決め方でした。

Q.カッツェンバーグさんの作品では、女性監督の起用が多いようですが、意識されてのことでしょうか。

カッツェンバーグP——女性が好きだからですよ(笑)

Q.新設されるアカデミー賞アニメ部門の最有力候補と目されているようですが、ディズニーなどに対してライバル意識などありますか。自信の程はいかがでしょうか?

カッツェンバーグP——ここ1年、世界中でアニメーションにおいて革新的なことが起こっていると思います。この作品『シュレック』がカンヌ映画祭50年の歴史で初めてコンペティションの参加作品に選ばれたこと、今回の東京国際映画祭でアニメーションで初めてオープニング作品に選ばれたこと、アカデミー賞にアニメが追加されたことなどです。芸術形態としてのアニメーションが認められ主流になってきているということの現れだと思います。これは私たちにとっても、大変喜ばしいことです。私は30年間映画業界に身を老いてますし、その中でアカデミー賞にノミネートされたこともあります。ノミネートされた時点で、それはもう名誉なことだと思いますし、受賞できるかどうかは予想できません。今回の『シュレック』がアカデミー賞にノミネートされたことに達成感を感じますし、もし受賞することがあればそれは奇跡だと思います。

Q.テロの事件の影響でハリウッドでも映画の題材やテーマ性が見直されている時代ですが、もしかしたら『シュレック』のような映画が、答えなのではないでしょうか。

カッツェンバーグP——映画というのは凄まじい力を持っているものなのです。私が映画つくりを愛していて、アニメーションを作ることを愛しているのは、それが成功したときには人々の生活に歓びと楽しさをもたらすことができるからです。今世界状況の中で本当にいやなことが沢山ありますが、映画館に入ると一時でもいいのですが物語に没頭して、人々を笑わすことができるということは素晴らしいことだと思います。また映画を通して人々を楽しませることも大事ですが、啓蒙することも出来るのです。この『シュレック』という作品は、かなりおふざけがあったりしますが、そのユーモアの底には力強いメッセージがあると思うんです。私は、フィルムメイカーとして、そのような歓びや笑いをもたらすことができるのが、私の幸せです。9月11日のテロ事件の直後にテレソンを放送し、その冒頭でトム・ハンクスがいった言葉なのですが、私たちエンターテイナーとしてできることは、人々の気持ちを少しでも明るくすること、啓蒙すること、そしてお金を集めることだと。それが出来たということには、私は喜びと誇りを感じました。

なお『シュレック』は、東京国際映画祭のオープニングを飾ったのち、12月より日本劇場ほか全国東宝洋画系劇場にて、拡大ロードショー公開される。

執筆者

宮田晴夫

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