好評だった“シネマGOラウンド”も楽日を迎えた7月7日、アテネ・フランセ文化センターでの最終上映に続くトークショーではRound1『夜の足跡』の万田邦敏監督、Round2『寝耳に水』の井川耕一郎監督、Round3『桶屋』の西山洋一監督、Round4『月へ行く』の植岡喜晴監督の4人が集結。作品のメイキングの一部が上映されるなど、今回の画期的な試みを総括する内用となり、またトークを聞きに来場していた各作品の俳優さんが舞台に上がり今回の経験について話をした。







 まずは4監督は、今回の作品群についてどのような感想を持ったのだろう。『寝耳に水』の井川監督は、「今日は観ていませんが、万田監督があんなものを撮るとは思わなかったし新展開です。西山監督の作品は自主上映時代のおバカなノリにしたかと大好きです。植岡監督は凄い事になっています。最初に観た時はさっぱり判らなかったが、二度目で筋があることが判りました。」。「ビデオで観返したのが3・4ヶ月前で、完成し試写を観た時も面白いと思ったが観直してみて物凄く面白いんでびっくりした。井川君のもよく判らないんだけど、二度観た時に植岡君と同様話があったんだなぁと。西山君のも、最初はちょっと退いてしまうくらいの笑いだったが、二度目ですっかりその世界に入れました。植岡君の作品は、何がなんだか判らないなりに最初から画面があ迫ってくる感じを受けたが、二度観た時には一番面白かった。僕達は、こんなすごいものを作ったんだなぁと興奮した」とは、『夜の足跡』を監督し、また初長編作品『UNLOVED』がミュンヘン映画祭に出品され帰国したばかりの万田監督。最近で観たのは、昨年暮れに開催された“TOKYO FilMex”での上映時、何度でも観れる映画だと思ったというのは『桶屋』の西山監督だ。「僕も二度観て作品のノリ方が判った。普通の作品とは違うことをやっているので、傲慢ないい方になっちゃうかもしれませんが、ノリ方が判れば楽しめると思います。」。今日も会場で上映を観ていた『月へ行く』の植岡監督は、見るたびに面白いものが変わっていくそうだ。「最初は、井川さんのが凄い事をやっているなと思い、万田さんのはこいつは何をやってるんだろうってショック。西山君のは滑ったなぁ…と思いました。二度目以降は、僕みたいに奇を衒うタイプから観ると万田さんのに圧倒されてみていました。西山君のは段々好きになっています(笑)」。さて、4監督それぞれの講評を作品をご覧になられた方々は、それぞれどう思われただろうか?






 これまでもふれてきたように、今回の作品群はプロの映画監督である講師と生徒のコラボレーションとして生まれたもの。植岡監督から“奇を衒っていない”といわれた万田監督も、これまでの8mm作品やTV短編では、奇を衒ったものを面白いとやってきたという。「今回の作品は、映画美学校二期生の大城(宏之)君の元の脚本を読んで撮ってみたいと思ったから。新展開と言えるとすれば、それはその脚本がさせてくれたことだと強く思っているし、新作『UNLOVED』もこの世界をひきずっている部分はありますね。」と今回の作品に関して語った万田監督をはじめ、「先生と生徒という形になっているが、所詮表現などは教えようが無く、面白い表現にあっていろいろと考えてしまうというのはあると思います。実際、生徒からの刺激を受けて撮ったところはあると思います。」(井川監督)、「講師をやって勉強になってるのは僕らの方、書いたものや撮ったものを、読み見せてもらって講評する中で勉強になっちゃったかなぁと(笑)。ありがとうございます。」と、講師・生徒それぞれにフィード・バックするものが多い撮影だったようだ。
 なお、実際にプロとの場合と生徒との場合での仕事の差異に関して西山監督は、「速度は圧倒的に異なり遅いです。だから仕事の時と同じつもりで臨むとずっこけました(笑)。でも、徐々に慣れてくるとそんなに極端に遅くもなかったかとも思いましたが、機動力はやはり違います。後は然程、差異はわからなかったです。」と語った。因みに『桶屋』の撮影は10日間。30分と言う時間でこの日数は、プロの世界では贅沢なスケジュールだそうだが、撮影期間が冬ということで日照時間が短く撮影時間も限られていたために、かなりハードだったようだ。ここで、『桶屋』の中の銭湯で桶のピラミッドが崩れる撮影場面のメイキングが披露された。「桶を見事に崩し、風呂桶から湯気が出ているように」という西山監督の要求に応える数秒のシーンを撮るために、イマジネーションを出しあいながら何度もリテイクを繰り返す生徒たちの姿はちょっと感動的。これは続けて披露された『月へ行く』のスクリーン・プロセス撮影場面のメイキングも同様だ。








 さてこの日の会場には、キャストの方も会場に多く来られていて、『月へ行く』のメイキング場面で、水・アクエリアスそしてカルピスの汗をダラダラと流して撮影に臨んでいた高校教師小山を演じた戸田昌宏さん、『夜の足跡』の中年男役の三上猛志さん、『寝耳に水』の長島役の山崎和如さん、『桶屋』でジュリアスとアーサーを演じた本田久就さん、今関朱子さんらが舞台に上がった。プロの役者として今回生徒たちの作品に参加した彼らは、プロの現場では常識であることが徹底されていない現場に戸惑いを覚えつつも、役者を持ち上げすぎず共同体的な撮影現場を楽しんだような。勿論、常識は常識として必要なことなのだが、こうした現場のムードは非常に重要なものだろう。
 2時間弱に及んだトーク・ショーもいよいよ大詰め。会場に寄せられたアンケートの質問で、4監督それぞれがどのような着想でそれぞれの脚本を映像化することになったかが訊ねられた。それぞれの答えは、「先程も話したように、受講生の脚本を映像化したいと思った」(万田監督)、「少し前にH系Vシネの企画があった時に集めたSM雑誌の投稿の一つが面白かったので映像化したいと思った。物語のパターンが判っているから書けるというものでもなく、面白い題材が重要。」(井川監督)、「ニュースでキャット・ハンターを題材に考えて、今回は軽いものを撮ろうというのがあったので、諺辞典に出ていた諺でいけると思った。今度は別の形で、キャット・ハンターをやってみたいですね(笑)。」(西山監督)、「お豆腐やさんの話をやりたいというのがあって、自分の気性として豆腐屋も気鬱なら娘も気鬱。何故娘が気鬱なのかお腹が大きいからだ。何故お腹が大きいのか、高校の先生にレイプされたが娘はピンク色の光線のせいだと思っている…と発展していき、鼠爆弾がキーとなって話が通りました」(植岡監督)と千差万別。ここで語られた作品やさらに発展させられた作品が、今後観れる機会があるのかも。実際、トークショー3の際に「高橋洋監督によるRound5も…」という話が出ていたが、今回限りのものではなく日本映画に新しい風穴をあけ続ける企画として、是非とも来年度以降も続けて欲しいと切望しつつレポートを終えよう。

執筆者

宮田晴夫

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