「新藤兼人からの遺言状」 6日目のゲストは「人間」の佐藤慶
シネマライズ渋谷で絶賛公開中の「新藤兼人からの遺言状」。17日のゲストはこの日の上映作品となった「人間」(62)の主演俳優、佐藤慶さんだ。同作は嵐に遭遇した4人の漁民の飢餓と不安、その果てに剥き出しになる人間の業を描いたもの。佐藤さんは乙羽信子さん、殿山泰司さんらとともに漁民を演じ、以後新藤監督お気に入り俳優の一人となる。「『人間』の時もなぜ僕が使われるんだろうかと不思議でならなかった(笑)。その後も仕事を頼まれたのは…ギャラが安かったからじゃないですか(笑)」と軽口を飛ばす佐藤さんだが、監督への敬意は強い。 “日本中が撮影所!!” がキャッチフレーズの新藤組を語ってくれた。
「人間」は九州の話だが、ロケは伊豆の松崎市で行われた。髭は伸び放題、漁民は衰弱しの風景をリアルに出すため、撮影は全て順撮りだったそう。「太平洋を漂流する話なので、毎日2キロくらい沖合いに出て撮影しましたね。そうしないと周囲の船が映っちゃいますから」。同作が新藤監督との出会いになったという佐藤さん。声が掛かる少し前までは173センチ、体重50キロの極端な痩せ型だった。「温灸療法をやって(笑)、24キロ太ったんです。その後、テレビに出たところを新藤さんが見てた。なんで僕に話しを持ってきたのかとわからなかったんですが、単に太ってたからでしょうね、きっと」。飢餓に陥る撮影で体重が落ちたかと言うと「そうなるのが良かったんでしょうけど…そうはうまくいきませんでした(笑)」。
ロケ合宿は元芸者置屋。新藤監督、殿山泰司、山本圭、佐藤さんの4人は2階に、スタッフは1階に、2ヶ月近く一緒に暮らしたと言う。「オヤビン(殿山泰司)が大酒飲みだった頃です。肝臓fが悪くて、糖尿の気もあって、新藤さんは『やめなさい』と何度も言ってたんですけど、さんざ飲み歩いてましたねぇ」。
執筆者
寺島まりこ