今から200年前、50歳を過ぎてから18年間の歩行実測に基づく初めての日本地図を作った男—伊能忠敬。夢を持ちつづけ、人生を二度生きた彼の後半生を描く映画『伊能忠敬—子午線の夢—』の製作発表記者会見が、5月20日に東映・東京撮影所にて行われた。
 本作は、劇団俳優座の創立五十五周年記念作品として製作されたもので、同劇団が一昨年に新国立劇場で行われ大好評を持って迎えられた同名演劇公演の映画化作品だ。昨年の秋より、北海道での先行ロケがスタートし、今年の3月16日から本格的な撮影が始動。全国的な撮影で、舞台とはまた違うスケール感を持った作品として、順調に撮影が進められている。
 この日の会見では、伊能忠敬役の加藤剛さんをはじめとする9名のスタッフ・キャスト陣が出席し、作品やそれぞれが演じる役どころについて語り、また会見終了後にはスタジオ内の伊能忠敬の仕事場のセットと、美術スタッフが見事に再現した12メートル四方に及ぶ「伊能図」も披露された。







 会見は、劇団俳優座代表取締役の古賀信雄さん、東映取締役の佐藤雅夫さんが作品の製作意図・製作体制についての説明と挨拶からスタート。それぞれ創立以来から長い関係を築いてきている両社だが、本作では作品自体の製作に関しては劇団俳優座が行い、東映が配給・営業面で強くバック・アップしていくという、劇団俳優座の創立五十五周年記念作品としてはまさに最適な体制で進行している。

 本作で監督を務めるのは、『鬼平犯科帳』シリーズなどを手掛けてきた小野田嘉幹さん。小野田監督は、「いわゆる偉人伝、伝記映画にはしたくない。エンタテイメントにいかにできるかで苦労しながらすすめている。残り1週間ほどの撮影だが、中高年の方に我々のメッセージが贈れればいいと感じています」と、教訓映画になりがちな伝記映画において、大勢の方に観てもらえるエンタテイメントであり、なおかつドラマとして鑑賞に堪えうるものを目指す作品づくりについて語った。なお、本編中特に苦労した場面はこれから撮影する場面を含め2度登場する洪水の場面で、CG合成も使用されるとのこと。

 「伊能忠敬でございます」と挨拶の口火を切った加藤剛さんは、舞台での上演や“伊能ウォーク・プロジェクト”の名誉会長を務めるなど伊能忠敬と2年半以上共に歩き続け、御自身もその人間としての魅力に強く惹かれている。「人間はいくつになっても、何処にいても、何歳でも、新しい一歩を踏み出せることを身をもって証明してくれた。人間は夢を持ち続ける限り、生涯現役でいられるというメッセージは、長い寿命を獲得した私達に多くのものを語りかけてくれると思います」と、まさに現代を生きる中高年層への熱いエールともいうべき忠敬の生き方とそのメッセージについてを語り、これまでの忠敬役の集大成としての映画版への意気込みが感じられた。









 賀来千香子さんは、忠敬の地図制作を影で支えたお栄役を演じている。このキャラクターに関しては資料がほとんど残っていずに、才女であったらしいということくらいしかわかっていないとのことだが、「逆に台本を読んで自分で楽しく役柄をふくらませていくことができました」と、演じ甲斐のある役を楽しまれた様子。忠敬の娘、伊能イネを演じるのは、高校の頃から10年ぶりの映画出演という西田ひかるさん。「収入のためではなく、人の役に立つことに生き甲斐を見出すことは素晴らしいことだと思います」と、忠敬への共感などと共に、小野田監督の撮影現場の楽しい雰囲気や御自身の髪で結った町娘の髪形のことなどのエピソードを語った。

 中野誠也さんは、同世代の町人学者であった山片蟠桃役を演じている。そのキャラクターは、「藩の財政顧問も受けた優秀な商人であった点が忠敬とは異なり、忠敬を影から支えた人物。私自身大変気にいっている。」だそうだ。この作品が映画初出演となる増沢望さんは、御本人の出身地である北海道と縁が深い間宮林蔵役。映画の中では、謎の人物的な描かれ方をされているキャラクターだが、ご本人曰く子供の頃から、思ったことがすぐに顔に出てしまう逆の性格であるとのこと。それでも「巧く演じられているか出来上がりが楽しみです(笑)」と言葉とは裏腹に、なかなか自信有り気に語ったが。

 本作で忠敬の息子、秀蔵を演じているのは、実生活でも加藤剛さんと親子である加藤大二郎さん。ミュージシャンとして活躍される大二郎さんは、映画はこの作品が3本目。「父と子を現す言葉に、父の背中を見てというのがありますが、今回の映画は文字通り父の背中を見続ける役でした。音楽から手を離して丸腰の状態の映画出演は、まだまだ父に手取り足取りしてもらわなければなりませんでした。音楽にしろ映画にしろ、同じ大きな山の裾野であることを実感した半年でした」と今回の撮影を振り返った。また剛さんも息子との共演に関しての質問に、「役になってしまえば関係ないのだが、撮影前の話などの点で実際に親子であることはプラスになっているように感じた」と語っていた。完成した作品で、お二人がどのような父子を演じられているか楽しみである。

 なお、『伊能忠敬—子午線の夢—』は2001年11月17日より全国の東映系劇場にての公開が予定されている。

執筆者

宮田晴夫