映画『ニュースの真相』ジェームス・ヴァンダービルト監督オフィシャルインタビュー
真実を追うジャーナリストのもうひとつの闘いを、実話に基づいて描いた感動作
『大統領の陰謀』や『スポットライト 世紀のスクープ』など、ジャーナリストを主人公にした傑作は少なくないが、本作はそこに連なる一作でありながら、「ジャーナリズムの陰の部分」を描く異色の感動作でもある。
本作は、米国最大のネットワークを誇る放送局CBSのニュース番組をプロデューサーとして長年手がけたメアリー・メイプスの自伝に基づく実話である。ジャーナリストたちの運命を大きく変え、皮肉にもブッシュ再選につながったあるスクープ報道。その裏に秘められた真相を知ることは、今の不穏な世界情勢のルーツを知ることにつながるだろう。
$red Q:監督初作品となりますが、ケイト・ブランシェットやロバート・レッドフォードなど素晴らしい役者の方々と仕事をすることに高揚したのではありませんか? $
監督:もちろんだよ。こんなに素晴らしい、様々なタイプの役者と仕事が出来るなんてラッキーだった。 僕の初監督作品に出演してもらえたら、と思っていたから、彼らが「やりたい」と言ってくれた時は信じられなかったよ。
Q:それで逆に緊張しませんでしたか?
監督:ああ、それはもう緊張したね。彼らは本当に才能あるビッグスターたちだから。でも、それが良かった。ビクビクしていると感じさせてしまったら、とても失礼でしょう? この仕事を、この映画を選んだこと、僕と一緒に仕事をすることを選んだことを後悔させることになる。だから、そういうことは考えないようにしていたんだ。もちろん、ものすごく緊張してはいたんだけどね。
Q:脚本もお書きになっていますね。この作品は、真実を求め続け、結局、完膚なきまでに打ちのめされた女性の話です。映画の制作にあたって何か苦労したことはありましたか?
監督:それは無かった。引き受けてくれる人を探さなくてはならないから、そこには時間がかかったけどね。この映画は、ケイト無しでは存在しなかった。 彼女が引き受けてくれた時、実は資金の目処が立っていなかったけれど、彼女が資金調達に一役買ってくれたんだ。その後、ボブ(ロバート・レッドフォード)も参加してくれることになった。でも、ケイトがこの作品を支持して役を引き受けてくれなければ、この映画は存在しなかったと思う。だから、全ては、やりたいと言ってくれた彼女のお陰だよ。 ケイトとボブが参加してくれれば、『この映画は一体どうなるんだろう』と多少不安に思ったとしても、皆、彼らと一緒に作品を作りたいと思ってくれるはず。そうやって皆が、応援してくれたんだ。
Q:あなたは、常に人々に疑問を持ち続けながら書いていくタイプの脚本家ですか? 『ゾディアック』もジャーナリズムを描いた作品でした。何か話を聞くと、すぐに映画のための構想を練るのでしょうか?
監督:そうだね、観る人に疑問を投げかけるような映画は好きだね。そういう作品は魅力的だし、映画好きな一個人としてもやっぱりそういう作品が好きだね。元になったのはメアリー・メイプスの本だけど、読んだ時には既に映画にすることを考えていた。僕は、この一連の出来事があった時のことを、よく覚えている。アメリカでは大きな話題になったし、連日のように報道されていたからね。でも当時は、映画にしようとは考えていなかった。後に彼女の本を読んだ時、彼女は非常に魅力的な女性だと思い、そこで初めて映画にすることを考えたんだ。仕事で頂点を極めたパワフルな女性、そういう彼女の視点から見た出来事を描くことができれば、非常に心に訴える作品になると思った。
Q:メアリー・メイプスには、お会いになったのですか?
監督:ええ。実は、彼女とは、あの出来事があった1年後に会っていて、一緒に過ごす時間も多かった。当時の彼女は、まだ非常に傷ついていて、今にもうずくまりそうだったよ。それから9年の付き合いだけど、彼女は、その間に少しずつ立ち上がり、今は少し胸を張って少しずつ落ち着きを取り戻している。見ていて非常に嬉しかった。
Q:彼女が少しずつ変わっていく、その間に、この作品を書いていたのですね?
監督:ええ、そうです。
Q:衝撃から立ち直っている間に。
監督:そう。僕の目には、彼女が少しずつ元気を取り戻しているように見えた。でも最終的には、僕は自分が作ろうとしている作品を作らなくてはいけないし、映像に描かれた内容について、彼女が口をはさまないだろうことも分かっていた。
Q:メアリーが過ごしてきた状況を考えると心が痛みました。これは主題とは関係ないかもしれませんが、個人的には、男性社会に生きる女性は 風当たりが強いことも描かれているように思いました。そういう趣旨もありましたか?
監督:そうだね。興味深いのは、彼女が受けた批判にもあるからね。興味深いというのは適切な言葉ではないかもしれないけれども。彼女がインターネットで自分に関するコメントを読むシーンがあるんだけど、ついでながら、あのコメントは全て本当に書かれていたことで、映画用に作ったものではないんだ。で、その中には、彼女の容姿や、 セクシャリティー、欲求、それから、いかに酷い女であるかということに言及したものがあったのは、彼女が女性だったからだと思う。そしてそういう話は僕の意図に反して、すぐに暴力と性につながる。僕は、彼女が男性だったらとも考えたけど、それは男性だったらこんなことにはならず仕事を失うこともなかったと言いたかった訳ではないんだ。彼女に対する攻撃は、非常に種類の異なるものだったということが言いたかったんだよ。
Q:アメリカのニュースチャンネルは常にリベラルであるべきだと考えますが、この出来事に関しては、良くない側面が露呈したように思います。視聴者はそれでも希望を求めていると思いますか? この映画を通して、何かメディアに関するメッセージがありますか?
監督:希望は確実にあると思う。ジャーナリズムは本当に崇高な職業だと思っている。懸命に取り組み、話を組み立て、調査をし、そして、力を持つ人への疑問を投げかける、そういったことがジャーナリストの肩にかかっているからね。ダン・ラザーに起きたことは、誰にでも起こる可能性があって、僕にも起こり得ることだ。ジャーナリストは、それでも勇敢に立ち向かい重要な質問を提起する。だから、希望があると思うんだ。しかしながらその立場は危ういものになってきていると思うよ。調査報道という立場が脅かされていることには、注意していかなくてはならないと考えている。
執筆者
Yasuhiro Togawa