「2人の女子高生が未熟ながら生と性の共通項を感じていることに面白さを感じました」映画『R-18文学賞vol.2 ジェリー・フィッシュ』金子修介監督・大谷澪・花井瑠美インタビュー
水族館のクラゲの水槽の前で、女子高生がキスを交わす。クラゲの触手のように指をからませて、お互いを感じようとする。やって来たクラスメートの気配に離れる二人。何事もなかったかのように笑顔でクラスメートと立ち去る叶子。残された夕紀も立ち去ろうとしてクラゲの水槽を振り返る。世界を覆いつくす孤独感と、夢のような出来事の感触の反芻。
そんな幻想的で美しいオープニングで始まるのが、映画『R-18文学賞vol.2 ジェリー・フィッシュ』だ。
原作は新潮社が主催する「女による女のためのR-18文学賞」で16歳の雛倉さりえが高校生の同性愛を描き最優秀候補に選ばれた小説。様々なジャンルの青春映画を撮り続けている金子修介監督がメガフォンを取り、映画初主演の大谷澪と花井瑠美がすべてをさらけ出して、10代の女性同士の恋愛の繊細さや嫉妬を体現している。
8/31からシネマート六本木を皮切りに全国ロードショー中の本作、関西ではシネマート心斎橋にて9/28より公開、10/12から宮城県チネ・ラヴィータ、11/30から山形県ソラリスにて公開予定となっている。キャンペーンで来阪した3人にお話を伺った。
映画の中で、周りと自分の折り合いが上手くつけられない夕紀と、クラスでは明るいが心に傷を抱えている叶子を演じた大谷澪さんと花井瑠美さん。16歳でデビューし、20歳までに主演の映画に出るのが目標だったと言う大谷さんは思慮深い印象。元新体操の選手で故障により引退、表現出来る場として映画を選んだ花井さんは感覚の人という印象で、素顔の2人も対象的なのが面白かった。
$gray ——大胆なシーンが多い映画ですが、演じるに当たって躊躇することはなかったですか?$
大谷:役者をやる中で、元々こういう濡れ場は一度は経験したいと思っていたんです。周りの大人は“大谷澪”と言う名前や存在にプラスにもマイナスにもなるから慎重だったと思います。でも私は絶対プラスになると思ったんです。とにかく芝居が好きなので、恥ずかしいとか凄いことをしたという感覚はありません。芝居の中の表現方法の一つでしかないので。
どんなことでも初体験はドキドキするし、その新鮮な感じは好きです。撮影が始まる時には、「これから色んな闘いが始まるんだな」とワクワクする気持ちがありましたね。
花井:役が決まって親に伝えると「え?」という感じで、周りも「大丈夫?」って反応だったんですけど、私は元々考え方がズレているところがあるので(笑)。
今まで、男の子同士、女の子同士の恋愛映画を観たときに、伝えたいものが伝わり切らないもどかしさを感じていたんです。
取材でもよく聞かれるんですけど、実際台本を読んで、繊細に表現することで伝わるんだと納得していたので、特に気にしたということはないんですね(笑)。
映画化にあたっては、何本かの候補作を読み本作なら映画に出来る直感があったと金子監督は語る。
「クラゲを見ながらキスする女の子というビジュアルイメージ、部屋で自殺ごっこに興じる2人が印象的で、2人が未熟ながら生と性の共通項を感じていることに面白さを感じた」これが選択の理由だ。
$gray ——原作は16歳の雛倉さりえさんで、大人で男性の金子監督が映画化するに当たって演出のポイントはどこに重きをおかれましたか。$
金子:2人の主役がナチュラルに魅力的に美しく映るように。水族館のクラゲの水槽の前でのシーンに重なるような感じです。あとは原作にはないんですけど、2人が今後どうなるか、脚本の高橋さんとディスカッションして答えを提示してみました。
$gray ——2人と大人の対比も印象的でした。夕紀と関係を持つビデオ屋の店長の「君のことは好きだけど家族が大事」という台詞や、酒やタバコをやらない夕紀のお父さんが、「ドクターペッパーくらい好きに飲ませろ」。生活がある上で享楽を楽しんでいるのに対して、2人は信頼関係だけで結ばれています。$
金子:そう観ていただくと有難いけど、こういう親だからこういう子供になったという観点はなくて(笑)。大人たちはゲスト的な感覚で配置しています。それで2人の真実感が浮かび上がる。小さな世界かもしれないけど、2人にとっては全宇宙。水族館のクラゲもそう思ってるんじゃないかな(笑)。そのためにも大人たちの点描が必要だったんです。
$gray ——自分が2人の年齢だった時を思い出すと、例えば就職のことなど「安定した職業につきなさい」なんてことを言われると、拒否感が先に立って、それだけではない、違うところを大事にしたいという感覚がありました。$
金子:そうですね。中高生の頃はね。大人になると「安定した方がいいよ」と子供に言いたくなりますよね。特にこの不安定な職業をやっていると(笑)。
$gray ——大谷さんと花井さんは、役柄としてお互いのどこにひかれたと思いましたか?$
大谷:最初どちらがどの役をやるか決まってなかったんですけど、叶子の孤独感や痛みが痛いほど分かったので、私の中では叶子をやるんだろうなと思ったんです。
「体に傷をつけるなんて馬鹿らしい」と言われて、「そうだよね。私と夕ちゃんは違うもんね」遠回しにそう言う叶子に共感しました。普段はニコニコしてる叶子の孤独を感じる台詞です。映画のビジュアルでは叶子の部屋の散らかり様でそれを表現していますが、ポロッと本音が出た瞬間。私にとって大切な台詞で、私が口にしたいと思ったんですね。
でも夕紀役が決まってみると、こんな叶子を愛せるのは私だけかもと思ったんです。
孤独を守ってあげたい、痛みを半分こしてあげたい。そんな気持ちになりました。
夕紀自身は平凡な家庭に生まれて育って逃げることはできないという孤独を抱えているから、叶子の孤独を抱えながらニコニコ過ごしている健気な姿に共感して、そこを愛してるんだろうなって思いましたね。
$gray ——孤独に共感したのは何かそういった経験があったんでしょうか?$
大谷:自分の経験もそうだし、女性として生まれた以上男性より感情の起伏もあって、生と死と向き合う瞬間が多いと思うんです。女性の感性と男性の感性は違うから。自分もそうだから夕紀に共感できたし、いい女性だなと思いました。
小学生くらいから孤独について考えていたから今の自分にもつながっていると思います。これは自分にとって大きな財産で、夕紀役が出来たのは大きなプラスになりました。だから私にしか叶子を愛せないと思えたんです。
$gray ——花井さんはいかがでしょう?$
花井:私自身、叶子みたいな女の子に惹かれるんですね。言葉を発しなくても魅力的だと感じさせてくれる人が好きで叶子も夕紀もそんなタイプ。
私は独特な守られた世界で生きて来て、22歳で引退してやっと世の中に出たときに、2つの世界のギャップを感じたんです。大げさにいうと多分刑務所から出て来たくらいの感覚(笑)。澪ちゃんが言ってる孤独感じゃないけど人間が冷たく感じたり、異常に敏感に反応してしまったんです。実際そうではなかったんですけど。闘い続けて周りが支えてくれる状況で、自分自身との葛藤はあっても人間同士の葛藤はなかったんですね。それを引退して3年間くらいの間に急ピッチで体験したんです。初めて人間に興味を持って。それって不気味だけど面白いじゃないですか(笑)
澪ちゃんに会った時も映画とリンクする感覚でこの人を知りたいと思ったんですね。
その時は感覚的に動いていたからよく分かっていなかったけど、一年経って映画が公開されて取材されることで気付きました。
金子監督はどの作品においても、単純に原作を映像化するだけでなく、大人としての回答を盛り込んできた。
本作に関して、「見かけは可愛らしい女子高生のエッチな世界を描いた映画として成立しているから、色々な見方が可能な映画になった」と語る。
金子:2人の関係が代わるところがスリリングですよね。ローレンス・オリビエとマイケル・ケインの映画『スルース』で2人の関係が逆転逆転していく様子に近いかも。
$gray ——ウイリアム・ワイラー監督の『噂の二人』をモチーフにされたのは何故ですか?$
金子:高校生の時観て非常に影響を受けた作品で、原作の戯曲も英文で読んだんです。深い物語で当時の赤狩りの話も含んでいる差別された2人の話です。
『ジュリア』という映画があるんですけど、主役のジェーン・フォンダはリリアン・ヘルマンという『噂の二人』の作者の役なんですよ。ヴァネッサ・レッドグレーヴが演じた友人のジュリアは反ナチ運動家で、リリアンの旦那はダシール・ハメットっていう推理小説家。それぞれ色々な背景があるのでそれもヒントにして色々な形に読み取れるように小出しに構築していきました。
$gray ——『噂の二人』では子供の悪意が2人への差別を引き起こしますが、『ジェリー・フィッシュ』ではそう言った描写はありませんね。$
金子:2人を観たクラスメートが驚くくらいですね(笑)。今の時代の綺麗な女子高生がレズビアンで、本当は差別はあると思うけど、ビジュアル的には差別にはならないと思うんです。差別されて結ばれないからこそ不幸だけど幸福、だから切ないというのがこの愛にはあるんじゃないでしょうか。精神的には結ばれていても肉体が結ばれない切なさがあるけど、それが成就すれば本当に幸せなのかという見方もできると思います。その辺を感じさせるように2人が真実の芝居をしてくれたことで映画になったと思います。
$gray ——では最後にこの映画の見所を教えてください。$
金子:今までにないような女優が現れたということですね。しかも惜しげもなく肌をさらして。
それぞれのキャラクターが歴史を持っていて深いんですね。掘り下げれば掘り下げるだけ色々な部分が出てくる。これからの未来が約束されていますが、そんな2人を観ることが出来るのが最大の価値ですね。
大谷:同性愛というのは一般には馴染みのない世界だと思うんですけど、自分も相手も1人の人間で、人間同士の恋愛は大きく括ると相手が男でも女でも変わらないと思うんです。生まれる感情、嫉妬や愛おしいと思うことは同じで、そこに共感出来ると思うんです。自分が通って来た道を一瞬でもスクリーンに見つける事が出来ると思います。
同性愛を描いた作品というより大きく捉えると青春の物語。観て良かったなと思って頂ける自信があります。勇気を持って劇場に足を運んで頂けたらと思います。
花井:公開前と公開後で私も感覚が変わって来ました。私も知らなかった見方で意見を言ってくださったり。男性女性関係なく深いところまで入っていける、語る映画より感じる映画だと思っています。映画を観て実際に同性愛で悩んでいる人から「前に進む事が出来た」という意見を聞いて、現実味のある話なんだなと再確認しました。
私は試合で海外に行く事が多くて、日本ではタブーな感覚でもロスでは普通に手をつないで歩いているのを見て来ていたので、特別なものではないと伝わればいいと思います。
同性愛だけではなく、大人の方が高校生時代を思い出されたり、純粋な気持ちに戻れるような色々な楽しみ方があると思います。ぜひたくさんの方に観て頂いてたくさんの意見を聞きたいですね。
執筆者
デューイ松田