「SRサイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者」生き馬の目を抜く“SRクルー”で最も熱い役者・板橋駿谷とは?
日本映画の台風の目である「SRサイタマノラッパー」シリーズ。最新作「SRサイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者」が現在全国でロングラン公開中である。
「今までにない映画を作りたい」という野心を持ったスタッフ・キャストが集うまるで梁山泊のようなSRクルーの中でも、特に暑苦しい熱気を放っている男・板橋駿谷をご存知だろうか。
主人公マイティ(奥野瑛太)が憧れ、下働きとしてこき使われるラップグループ“極悪鳥”のメンバーMC海原役で出演している板橋は、「小劇場界の照英」「ゴリラな顔した筋肉バカ一代」など数々の異名をもつキャラクターで知られている。決して多いとはいえない本作への出演シーンだが、しかし上映がはじまってからというもの、渋谷のシネクイント(現在は終了)に約2ヶ月間ほぼ毎日通いつめ、上映後のロビーで観客に挨拶し対面しつづけるほか、宣伝イベントでも持ち前のラップのスキルを活かし、役者にも関わらず出演者として登場する現役ラッパーたちを圧倒する気迫でフリースタイルを披露するなど、映画の外側でも大いに新たなファンを獲得している。そのエネルギッシュぶりには、俳優に厳しいことで知られる入江監督も「あいつはきっといい役者になります」と思わず発言してしまうほど。
彼にとって今回のSRシリーズへの出演は、役者としてだけでなくラッパーとして活動しつづけてきたことに対しても念願だったと語る。さらにSRから派生してSRシリーズのよき理解者であるTOKYO No.1 SOUL SETのBIKKEとSRシリーズのラップ監修兼タケダ先輩(TKD)役をつとめる上鈴木伯周と3人で”HELクライム”なる音楽ユニットまで結成。彼のこの謎の勢いはしばらく止まらなそうだ。
——— ラップはいつから始めたんですか?
「歌詞を書き始めたのは中3からで、はじめてステージに立ったのは高1です。3人グループだったんですけど、でも僕はその時すでに「将来は役者になりたい」って心に決めていたんです。そうしたらそれを別のグループのメンバーに「2足のワラジじゃどっちも中途半端になるぞ」と言われたことで、自分が一番やりたいのは役者だから、あくまでラップは趣味という位置づけでずっとやってたんです。」
——— 役者としては映画よりも演劇の方が中心ですよね。
「2009年頃にロロっていう劇団に旗揚げから参加してます。その前にもひとつ劇団に入っていたんですけど、ロロに入ってから色んな人に出会ったし幅が広がったなと思ってます。最初役者としての自分のキャラクターに悩んでいたんですけど、主宰の三浦(直之)に「ラップができるならそれは板橋さんの武器ですよ!」と言われて。芝居だけじゃなくて他にもできることがあるんだったらちゃんとやったほうがいい、と言われて、それからはちゃんとラップの方もやるようになったんです。」
——— キャラ問題。板橋さんといえば肉体派でちょっとワルとか明るいヤンキーみたいなイメージがあります。
「最初はそういうイメージもほとんどなくて、徐々に今のキャラを定着していったところはありますね。オールマイティーに何でもやるんじゃなく、自分に伸ばせるところがあったらそこをどんどん伸ばそうと思って。高校の後輩で映画を撮ってる奥田(庸介)監督からも「器用になんでもやれる奴なんて俺は興味ないです。できることを一生懸命やってる奴と一緒に映画をやりたい。」って言われて。それで半ばヤケになって、「じゃあ俺、筋肉のばしてやらぁ!」と思って筋トレして今のような身体になりました(笑)。」
——— 映画出演は奥田庸介監督の「青春墓場」シリーズがはじめてですか?「青春墓場 問答無用(青春墓場2)」から主演して、その時のグランプリは「SR1」だったんですよね。また翌年「青春墓場 明日と一緒に歩くのだ(青春墓場3)」に主演して、ジョニー・トーに褒められてグランプリを受賞していますよね。
「はい、当時SR1を見た時に入江監督に俺もラップしてるんですって話してて上映が一緒の回だったので舞台挨拶でいきなりラップを振られたりしてました。」
——— その時から入江監督のむちゃぶりが始まってたんですね(笑)
「今回撮る時にラップができる俳優を探していたみたいで、俺のことを思い出してくれたみたいです。SR2がゆうばりで上映された時に俺らの作品がグランプリを受賞できたんですけど、俺としては「もう続編があるんだ。俺ラップできるのに、また呼ばれなかったなあ」。って思ってました。見たら、大学の先輩がメインの女子ラッパー役で出てて驚いたり。マミー役の桜井ふみさんなんですけど。」
——— ラップが音楽シーンだけじゃなく、映画や芝居など他の表現でも取り入れられたりすることが増えたなと思います。数年前のコクーン歌舞伎でもいとうせいこうさんがリリックを書いたラップがメインに使われていたり。(注:「佐倉義民傅」・・・駒木根隆介(IKKU)、水澤紳吾(TOM)のSR勢がラップ要員でまさかの大抜擢された。)
「はい。柴幸男さんの「わが星」ていう芝居もそうで、2010年に岸田國士戯曲賞を受賞した戯曲で、ラップを使って宇宙の歴史と団地に住んでる家族の歴史をクロスオーバーさせて描く舞台なんですけど、見たときやっぱりラップを使ったものに自分が参加できないことがすごく悔しくて。
だから今回SRに出演できたのは、自分の念願なんです。役者としてやってきたことと、それと別にラッパーとしてヒップホップが好きでステージに立ってきたことと、今までやってきたこと両方がこの作品でつながったんです。」
——— 今回極悪鳥の曲「見てんぞ」のライブシーンからはじまり、ある種今回の世界観に通底しているような曲ですが実際極悪鳥として歌ってみてどうでしたか?
「極悪鳥のあの悪そうな感じって、自分がラップでステージたち始めたばかり時に可愛がってもらっていた先輩ラッパーの方たちのことをすごい思い出しました。基本的にはめちゃくちゃ優しいんですけど、いつ切れるかわからないところとかもあったりして、マジで怖くって。
イベントとかで「この曲あがんねーな」と思ってフロアで座って休んでいると、その先輩がきて「立てよ、フロア盛り上げろよ」ていわれ、DJの顔を立てるために全然知らない曲で8時間ぐらい盛り上がっていなきゃいけなかったり。終わった後、みんなで飯くいにいっても、一番年下だからいちいちいじられるんです。それに対してもなんか面白いこと言って返さなきゃいけない、必死でコミュニケーションとってたなぁって。だから台本読んだときに、あ、懐かしいなと感じたんです。極悪鳥のあの感じって自分が体験したことでもあるんですよ。俺、劇中のマイティの状態でしたよ。」
——— シネクイントの公開から2ヶ月間、ほぼ毎日劇場で上映に立ち会っていましたね。毎日行くっていうのはなかなかできないことだと思うんですが・・・。
「SRに出る前からこれまでにSHO-GUNGやクルーみんながゲリラでチラシ撒いたりしてるのはもちろん知ってたので、この映画に出られるってわかった時点で公開される時には自分もそれを一緒にやろうと思ってましたよ。だからシネクイントで上映してる間は仕事を入
れないで舞台もいくつか断って丸々身体を空けるようにしました。宣伝活動とかイベントとか絶対何かしらあるから、そっちに力入れられないんだったら出演した意味ないと思ってました。」
——— 毎回お客さんを見ていてどうですか?
「俺、劇場に立ってるんですけど、みんなわかってくれてるのかな?って思ったりしますよ。そんなにメインでたくさん出ているわけではないですから。俺、極悪鳥のわーわーうるさい奴だよ〜、とわざわざ自分から言いたくなったり(笑)。チラシ配りで知り合った人が実際見に来てくれて、「来ましたよ!」って声かけてくれたりすると、ちゃんと劇場に自分が居て、その人にありがとうってお礼ができてよかったなと思います。もちろん出てくるお客さんに挨拶しても目を合わせてくれない人もいますけど。単純に恥ずかしいってだけかもしれないけど、その人はつまんなかったのかな?と色々考えたりするんですけど、そういうことを現場で感じる事自体がいい経験だなって思うんです。つまらなかったよ、って人に対してはどうやっても責任とれないんですけど、もしかしたら怒って話しかけてくるかもしれないけど、そういう人がもし現れたら俺はどう対応したらいいんだろう、って劇場に毎日立ちながら思います。」
——— 小劇場に芝居を見に行った時に必ずロビーとかでスタッフキャストの方がお見送りしてくれる感じに近いですよね。
「いや、ほんとそういう感じです。毎上映ごとにそれをやってる感じです。見てください!って宣伝してやりっぱなしじゃなくて実際お客さんが映画を見てくれる現場に自分がいることでお客さんとどう向き合えるか。入江監督はよく劇場でお客さんの反応をみろっていってるけど、そういう意味だったんだな、とやっと実感できてきたかなというところです。映画と舞台って自分のなかで価値観が違っていたんですけど、そうではないんだなと思いました。改めて大事なことに気がつきました。」
<板橋駿谷出演情報>
●現在公演中〜8/4(土)パルコ劇場
パルコ・プロデュース「露出狂」作・演出:中屋敷法仁
http://www.parco-play.com/web/play/rosyutsukyou/
●8/23 阿佐ヶ谷LOFT A
『HELクライム〜PV出演者公開オーディション&地獄会議〜』
【出演】
BIKKE(TOKYO No.1 SOUL SET)
上鈴木伯周(TKD先輩)
板橋駿谷(極悪鳥)
&MORE&MORE&MORE!!!!!!!!
http://www.loft-prj.co.jp/lofta/schedule/per.cgi?form=&year=2012&mon=8&day=23
執筆者
綿野かおり