48時間で脚本・撮影・編集まで7分の作品を完成!プロが挑んだ闘いの軌跡! ゆうばり国際ファンタスティック映画祭 ヤング・オフシアター・コンペティション部門/映画『瑕疵あり』田中健詞監督・宮川ひろみ・小林でびインタビュー
ゆうばり国際ファンタスティック映画祭ヤング・オフシアター・コンペティション部門の中で、本編7分間の短編を48時間で制作した作品がある。タイトルは『瑕疵あり』。
『48 Hour Film Project』に出品するため制作されたこの作品。『48 Hour Film Project』は、48時間で引き当てたお題に沿って脚本・撮影・編集まで行い本編7分の作品を仕上げる映画祭で、2001年以来世界の各都市で開催され、2011年は約100都市が参加。最優秀作品はその都市の代表として世界大会に進出、ベスト10選出作品がカンヌ映画祭短編映画部門で上映されるといったものだ。初参戦の日本で名乗りを上げた都市は大阪。『瑕疵あり』はそんな大阪発作品群15本の中の1本だ。
監督はCM制作に携わる田中健詞監督。2009年のゆうばり国際ファンタスティック映画祭ヤング・オフシアター・コンペティション部門にホラーテイストの短編『不協和音』で参戦して以来2度目の登場となった。主演は同じ年にコンペ部門に登場した大畑創監督『大拳銃』でヒロインを演じた宮川ひろみ。ゆうばり名物イベント上映の顔・小林でび監督が役者として参戦。48時間で制作したとは思えないクオリティの『瑕疵あり』。プロの技が結集した作品の制作の謎に迫ってみた。
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田中健詞監督・宮川ひろみインタビュー
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対策・48時間!
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『48 Hour Film Project』に応募したのは会社の机にチラシが置いてあったのがきっかけだと言う田中監督。元々、2012年のゆうばりファンタに応募したいと考えてはいたが、肝心の作品が制作に至っていなかった。
「48時間で映画を撮ってカンヌに行こう!」というふれ込みのこの映画祭に参加すれば、勢いに乗って撮りきれるかもと考えたという。
『48 Hour Film Project』上映からしばらく後に、同僚が撮りそうな人間の机にチラシを置いたと判明したとのこと。
——不思議な巡り合わせで完成した作品だったんですね。48時間という限られた時間との戦いにどんな対策をされたんでしょうか。
田中:スタッフの数を増やすことです。48時間で撮ったにしてはエンディングも凝ってるでしょう。タイトルだけのスタッフを置いたんです。脚本を書きながら内容を固めていって、ロケに出発する前に、「この内容をこういう風に動かして、編集までに仕上げて」って指示して我々は撮影に出る。オープニングに出るPOPINSのロゴのCGも別スタッフです。
——引き当てたお題は『探偵/警察』だったんですね。
田中:本当はコメディを引きたかったんです。1回だけ引き直しは出来るんですが、元には戻れない。僕の中ではベストではないけど第3位くらいのお題。一緒に会場に行った脚本チーム2人の「行きましょう!」って顔に後押しされて決めました。
——脚本は田中監督も含めて3人だったんですね。どれくらいで完成したんですか。
田中:撮影に入る段階で「ちょっと待って」では全てがズレて来るので、僕1人では無理だなと。8時間かかったんですが、最初は会議という名の潰し合いをしてしまいました。元々発想が違う人間を集めているので意見が合わない。5時間経ったところで、2人には仮眠してもらって、ロケに出発する6時半までの3時間の間に、僕が会議で出たアイディアを文章にまとめました。
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どんなお題にも対応できるキャスト
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——キャストはどんな風に決めていったんでしょうか。
田中:どんなお題が来てもはまるようにフリ幅を考えて、何人かに声を掛けていました。
宮川:私も基本的にギャランティが出ないと仕事は請けないんですけど、わざわざ事務所に来て社長を説得してくださって。
田中:宮川さんに最初に声を掛けて、宮川さんが出られなかったら止めとこうかなって考えてました。最初は「事務所がOKしないと思う」って言われたんです。
宮川:自主映画をやっているとキリがなくなるから線引きしてたんですね。でも企画を聞いたら「カンヌで上映」って話なので欲を出して(笑)
田中:でびさんには元々「一緒に闘いませんか」って声を掛けていたんですよ。
——それは監督としてですか。
田中:でびさんは最近監督としての動きが強いんで。小林組として参戦しませんか。一緒にやりましょうよって。そしたら「出るしか無理!」って言われて(笑)それはそれで想定の範囲内で。「何日空いてる?」「空いてる!」「キープ!」って。宮川さん、でびさんの2本柱で行こうと決めました。
——他のキャストはどういった方々ですか。
田中:大家さん役の松井さんは僕が参加している劇団『満員劇場御礼座』の女優さんで、前回も僕の映画に出て頂いたムチャクチャ器用な方。喜怒哀楽全ての表現が出来る方です。
宮川さんの相棒の刑事役は関亘さん。映画を撮る時には必ず出て頂く方です。元プロの役者さんで劇団五期会、升毅さんや國村準さんと一緒にやられていた方です。
ホラー系のお題に備えて、女子高生は予め知り合いのプロダクションに主旨を説明してお願いしておきました。さすがに知り合いに女子高生はいなかったもので(笑)
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新たな出会いで演技の引き出しが増える
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——宮川さんは最初脚本を見ていかがでしたか。
宮川:感想よりもひたすら覚えなきゃ!って感じでしたね。みんなが他の撮影をしている間に1人で声を出して台詞を覚えて、どう動くか考えていました。刑事のキャラクターの衣装は前日に監督に写真を送って決めてもらったので、朝一から髪型を作って現場に行きました。
——宮川さんは即興に近かったと思うんですが、苦労したシーンはありましたか。
宮川:張り込んでいたら大家さんの松井さんが来て掛け合いになるシーンですね。全然出来なくて監督にダメ出しされましたね。完成した映画のあのシーンは全部田中さんの演出。自分の中ではまだOKではないんですけど(笑)。私のやり方だとあの間にならないんです。新しい演出をして欲しいから監督とやりたかったというのもあります。全て投げられてこちらが単に演じるだけだと引き出しは増えないから、商業・自主映画に係らず、演出をしていただく方が勉強になりますね。
——田中監督の演出はどんな特徴がありましたか。
宮川:テンポが大事ってところですね。
——普段コメディを作られているから意識する部分でしょうか。
田中:間が独特というのは言われますね。編集で出来る間と出来ない間があるんです。頭のカットとタバコの火を頂戴というカット。あそこは1つの芝居ですから、後で何とか出来るものではないので時間を掛けるしかなかったですね。
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でびさんの無表情は深かった!
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——でびさんのお芝居はいかがでしたか。
田中:凄いですよ、あの人。カメラ回しますよって手前から顔が変わるんですよ。実はあそこまで出来ると思っていなくて。元々ゆうばり映画祭で知り合っているので映画の中ではでびさんいつも笑ってるじゃないですか。
——UFOだったりおばけだったりしますもんね。
田中:『おばけのマリコローズ』なんで笑ってる口描いてますからね(笑)。ムッとした顔、無表情な顔を見たことがなくて。演じてもらってでびさんの無表情は深かったですね。こちらが大体のイメージを伝えていくと、どんどん顔が変わっていくのに驚きましたね。
——歩き方もキャラクターが出ていて面白かったですね。
田中:背中が目立って欲しかったので、こんな感じで歩いて欲しいという演出は少ししました。
宮川:あと、関西弁はずっと練習されてましたね。
田中:関西弁にならなかったんですけど、ならなくて結構だと。下手な関西弁よりオリジナルでしゃべってもらった方がキャラ付けできるからそっちの方がいいってことで伝えました。
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瞬き1つでキャラクターが変わる
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——宮川さんはでびさんと1シーンだけの共演でしたね。
宮川:でびさんとは数年前にゆうばりで名刺交換したくらいで、今回初めてゆっくり話する機会ができましたね。待ち時間にずっと映画の話ばかりしていて、宮川さんフツーの人なんですねって言われました(笑)。ディープなジャンルに偏っているイメージがあったらしいんです。
上映後、演技の話を二人でずっとしていて、シガーライターを渡してでびさんが去って行くシーンなんですけど、彼女は瞬きしない強い感じにしたかった。瞬きを1回するとキャラクターが柔らかくなるから、その1回がじゃまだったなぁって。多分、私が空気感の演技が大好きだからその癖がでたんですけど、それがちょっと失敗したなって。
田中:気にならなかったですね(笑)
宮川:肩をたたかれて写真を抱いて振り返るときも、普通の女の人の振り返りになっていたんですね。私的にはダメだと思ったけど、結果的にいつも気を張って男勝りで仕事してるキャラクターのもう1つの面が出て逆によかったなって。
田中:刑事の前に1人の人間なのでそれはよかったですよ。
——宮川さんは今後、演じてみたい役はありますか。
宮川:そろそろキレイどころをやってみたいなー(笑)いつもヒロインなんですけど『大拳銃』はメインじゃないし、『ダンプねえちゃんとホルモン大王』はヒーローだし。最近やってない怖い女の人もいいかな。何でもやりたいです!
——宮川さんはたくさん自主映画に出演しておられますが、自主映画のいいところ、問題点はどんなところだと思われますか。
宮川:今の状況は詳しくは分からないんですよ、たくさんやっていたのは十年くらい前なので。その頃に感じていたのは、1つの台本をスタッフ、キャストが全員で集まって集中して作っていくのが自主映画のいいところ。深く話し合ったり笑ったり怒ったりして、一丸となって映画を作る楽しさ。
問題点としては、自主映画の現場ではギャラが出ないことが多いんですけど、キャストやスタッフに少しでもギャラを払う責任感を持って制作をするのも大事だと思います。出来た作品を公開することでお金を得て、赤字にならないようにして次を撮っていくといいと思うんです。無料でやると堂々巡りになっちゃいますからね。
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田中監督の2013年・ゆうばり優勝宣言!
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——田中監督CM制作を生業としておられますが、仕事をしながら自主映画を作るモチベーションはどこから来ていますか。
田中:元々映画が好きでこんな仕事をやっている訳です。なんでもそうですけど、仕事になれば全てがオーダーメイドです。どうしてもジレンマとストレスが生じて来ます。これを好きなもので解消するしかないってことです。
今のデジタルビデオの技術が昔みたいにべたっとした画しか撮れなければ多分やってないんですが、フィルムルックの画が撮れるんならやらないと!って、数年前から自主映像制作を再開しました。(学生時代は8ミリで撮ってました)
——舞台挨拶では来年のゆうばり優勝宣言をされましたね!
田中:そう言わないと作らないんですよ!(笑)。ショートを8本撮ったのでそろそろ僕も長いのをと…。今回のコンペは長編と短編の組み合わせで上映されましたが、どれを観てもやはり長編の方が語れるんですよ。もちろん長いだけではダメですが、使えるテーマと仕掛けで自分もやりたい!とこの歳になってますます思っちゃって。長編を撮ってぜひゆうばりに戻って来たいですね!
——来年を楽しみにしています!
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小林でびインタビュー
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二度とやらないと思っていた殺人鬼
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『瑕疵あり』もう1人の主演・小林でびさん。ゆうばり映画祭では2006年に監督・主演『ムーの男』でオフシアターコンペ部門に入選して以来、2009年「小林でび泥棒日記シアター」、2010年『おばけのマリコローズ』で上映と演劇、ライブなどをミックスした楽しいイベントを仕掛けたり、他監督たちとのコラボレーションで2011年「ポーラーサークル 未知なる生物オムニバス」、2012年「バナナまつり」といったライブ付きイベント上映を主催している名物監督だ。田中監督のお話でも出たように、コメディ映画のイメージが強い“役者・小林でび”の新たな魅力が出たこの作品についてお話を伺った。
——残念ながら受賞を逃したことで田中監督に火がついたようですね。
でび:田中監督、「賞なんて関係ないよ」って言っておきながら、実は欲しかったんじゃんって(笑)
——みなさん、作品を作る限りはそうだと思います(笑)。最初は小林組としての参加を誘われて断ったとお聞きしました。
でび:MAやPC、スタジオの問題で、大阪にベースがないと無理なので断ったんですけど、「じゃ、出ますか」って言われて「行く行く!」って(笑)。楽しかったですよ!
——舞台挨拶では犯人役が久々という話が出ましたね。
でび:Vシネのお仕事で、頭のおかしいお医者さんとか(笑)、人を傷付けたり殺したりする頭のおかしい人の役ばかりやってたんですね。そういう役しか回って来なかったので、もっと切ない役や笑える役をやりたい気持ちが高じて、自分で脚本を書いて映画を撮り始めたんです。でも今回久々に殺人鬼の役をやってみたら、凄く楽しくて(笑)。一回りして来たからですね。殺人鬼の気持ちを立体的に考えると凄く面白くて。
——今回はどういうキャラクターと捉えましたか。
でび:自分が悪いことをしている意識が全くなくて、生きることや死ぬことに対する感覚が薄い。罪の意識がないから全く悪気がなくて女の子に対して凄く愛情、愛着を感じている、そんな気持ち悪い演技になりました。
——歩き方や走り方にも閉じたキャラクターが出ていて、普段のでびさんの映画で出てくる何かを超越した明るいキャラクターとは全く違ったアプローチで怖かったです。
でび:僕が元々演技を習ったのがアングラ演劇の役者さんで、人間の内面をグリュッ、ドロドロッと出すような演技が多かったんですね。最近はそういうのを全く出していなかったので新鮮でしたね(笑)
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でびさん・プロの現場を語る
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——田中監督の演出はいかがでしたか。
でび:CM制作をなさっている方なので、ビジュアルイメージが物凄くはっきりしていて他のスタッフに対する指示も明確でしたね。僕に対する指示も明確だったんですけど、僕も昔やったような演技ではないところで提案して、ダメって言われたらやり直して、そうでなければ進めてという感じで進行しました。
1日めは脚本が出来るまでは役者はすることがなかったので、ずっと端っこで見てましたけど、スタッフもCM畑の方々ばかりなので、僕の知らないタイプの人ばかりで面白かったですよ。ディスカッションも自主映画のアバウトなやり方でなく、物凄く具体的なものを積み重ねていく作業をなさっていましたね。
——48時間であのクオリティで撮れるというのが、キャスト、スタッフ共にプロの力が結集しているなと思いました。
でび:多分CMの現場で時間がないこととか、彼らにとってそんなに特殊なことじゃないんじゃないかなぁ。着地場所を簡単に設定しておいて、同時に作業して最後にギュギュギュッと作り込んでいくような感じで。Aチーム・Bチームに分かれて、僕らが撮影している間に別動隊のスタッフが美術の準備をしたり、物凄く大掛かりにやっていて、仕事で映像を作っている人だなって実感しましたね。車がスライディングしてフレームに入って来るようなかっこいいカット、普通そこまでしないのに、ちゃんとやろうとするのが凄かったー!
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生真面目だからこそ不真面目に見えるように
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——宮川さんとは初めての共演だったんですね。
でび:僕、ダンプねえちゃん(★)の大ファンで、「大阪で宮川さんと共演だから」と聞いたのが、大阪に飛んで行ったもう1つの理由です。宮川さんは物凄いプロフェッショナルな感覚で仕事をされている方で、自分に厳しい方なんだなぁって。ダンプねえちゃんはアバウトそうに見えるんですけど、プロフェッショナルな感覚であの役も演じていたんだなっていうのが驚きで感動しました。
真面目さって言うのはどこまで行っても大事なんだなって。実は僕も生真面目な人間で、でも歌を歌ったり不真面目な感じに着地できるように、真面目に色々なものを構築していく方なので、割と似たタイプかもしれないですね。
(★:宮川さんは藤原章監督『ダンプねえちゃんとホルモン大王』に主演、ダンプねえちゃんを演じた。2008年ゆうばりファンタで初上映)
——では最後にこのプロジェクトに参加した感想とゆうばり映画祭の感想をお願いします。
でび:田中さんの作品のDVDを貰って拝見したら、ショートショート フィルムフェスティバル & アジア 2006で入賞した『SUSHI JAPAN(スシ・ジャパン)』はコテコテのコメディなんですよ。僕の映画なんかよりもっとコテコテ(笑)。でも実は僕、田中さんが2009年にゆうばりファンタのコンペでやったホラーテイストの『不協和音』が好きで、今回はくじ引きの関係で怖いテイストの作品になったのは嬉しかったんです。田中さんはコメディが良かったみたいですけど(笑)。
僕はずっと自己流でやって来たから、田中組のようなシステマティックな撮影の仕方を全く知らないので、とにかく面白かったです。すごく勉強になりましたね!
今年のゆうばりファンタは念願の役者として映画祭に参加できて、最高に楽しかったです。
…とか言いつつ実は僕、映画祭期間中にこっそり夕張市商工会議所で男子監督ばっか9人の『バナナまつり』という非公式上映会を主催したり、監督としての活動もガッツリやってたので、一粒で2度美味しい映画祭だったんですけど(笑)。
さて、じゃあ来年はどんな形で参加しようかしら。
執筆者
デューイ松田