ハードボイルド作家として知られる白川道が、1998年に発表した超大作小説「病葉流れて」が遂に映画化!

主演のギャンブルに溺れていく主人公・梨田雅之役に、『新・仁義なき戦い』、『ナビィの恋』、『colors』等に主演・出演、若者にカリスマ的人気を誇る村上淳。
梨田の運命を左右する永田一成役には『それでも僕はやっていない』『魂萌え!!』での活躍が記憶に新しい田中哲司。梨田との不思議な関係に戸惑うヒロイン・テコ役に『幻の光』『ワンダフルライフ』『ブギーポップは笑わない』等の作品に出演、最近では舞台にも挑戦する等活躍の幅を広げている吉野紗香。梨田を魅了する片桐姫子役に公開中の映画『プルコギ』にも出演、またバラエティ番組「ココリコミラクルタイプ」にもレギュラー出演中の坂井真紀。最近では実力派俳優としてすっかり定着した池内博之、ベテラン女優として益々円熟味を増してきた女優・洞口依子など豪華キャストが勢ぞろいした。果たしてこの個性派キャスト達を亀井監督がどう観せていくのか、見所である。

先の見えない人生を歩んだ男女の美しくも切ない物語がここに誕生する。

今回は独特の世界観で見るものを魅了する亀井亨監督にお話を伺った。




今まで女性を描くことが多かった監督が、男性を主軸に描くというのは、珍しいと思ったのですが。

「僕にとっては新境地でしたね。男性を軸にして物語を書くことがなかなかなかったもので。男性を描くと手にとるように分かるんで難しいんですよ。
 だから僕の興味の対象は女性に行くわけです。分からないから。女性だとこんな感じに思ってるんだろうなと想像で作れるんですよね」

しかも原作はものすごいハードボイルドですからね。

「もちろん女性でもハードボイルドはあると思うんですが、どうしたもんかなと思いましたよ。初めての領域ですから。
 でも今回は、村上さん演じる梨田の背景にあるものを描きたくなかったんです。その方が気持ちいいのかなと思って。普通、ハードボイルドだと、過去に負の要素があって、それを払拭するためにいろいろ行動するというのが多いと思うんですが、そういうのはあえて排除したいなと。過去に何をしたかでなくて、これから何をするかに焦点を絞ったんです」

お話はプロデューサーからですか?

「そうですね。やる? と言われて。ただ最初は悩んだんですよ。というのが僕は麻雀をやらないんで、それでもいいですか、と。
 博打という題材はものすごく面白い題材だと思ったんです。こういう言い方をすると語弊があるかもしれないですが、ギャンブルなんて何の役にも立たないわけじゃないですか。そこを打破するためにどうするか、という人のことはよく分からないんですよ。
 じゃ何を撮るか。人と人とのつながりや関係性。そういうものが撮れればいいかな、と。単純な麻雀ものにしたくはなかったんですね」

確かにVシネによくある麻雀ものとは真逆のベクトルにある作品です。

「麻雀を知ってると、どうやってあがるかといったゲーム的な要素に注意が向いてしまうと思うんですが、知らなかった分だけ、ドラマに専念出来て良かったかなと。
 ただ白川さんの原作は、麻雀をベースにしながらも人間を描いたドラマですからね。そういうのは外せないんで、ちょうどいい按配かと思いました。ただ逆に言うと麻雀好きの方にどう見えるのかはちょっと気になりますね」

麻雀ものというと『麻雀放浪記』を思い出します。

「麻雀ものというと、ガッチリと麻雀そのものを描いた作品か、『麻雀放浪記』のようなタイプの作品かになると思うんですが、今回は後者ですよね。価値観が似てますよね。
 『麻雀放浪記』はかなり昔に観ていたんですけど、ほとんど内容を忘れてしまっていたので、この映画をやるにあたって、あえて観直すことはやめておいたんです。どうしても観てしまうと影響を受けてしまいますからね」

混乱している時代という意味では共通項がありますからね。

「全共闘の運動で時代を変えようとしている人がいる中で、麻雀にのめりこむ人間がいる。決して麻雀で世の中が変えられるというわけでもないんですけどね。
 結局誰がどうしようが関係ないんです。他人から見たら梨田はものすごく悲惨に映るかもしれないけど、本人にしたら別にたいしたことはないんじゃないかなと。幸せというものは自分で決めるものですからね」

監督の映画は引きの画が多いですよね。

「自然が似合わない男なんでね(笑)。空間があるのはいいんですけど、パーンと大自然が広がるような画は撮らないですね。似合わないんですよ。他の人だとそれが気持ちいいんでしょうけど。何でもそうなんですけど、部屋にいても、必ず隅っこの方にいて、真ん中にはいないタイプなんで(笑)」




亀井監督というと、映像にこだわりがあるというイメージがあります。

「もともとデザイン学校に通っていたんですよ。そっちの方面に行きたかったんですよ。画って、言葉以上に伝えられることが多いじゃないですか。出来上がったものがデザイン的にいいと言われたいですよね。ま、それだけと言われるのは嫌ですけど(笑)」

今回はくすんだ色合いが良かったですね。

「画面の中の黒のパーセンテージは、今までの中で一番占めているんじゃないでしょうか。50%〜60%くらいは占めてますよね。被写体はかすかに見える感じでいいと」

そうすると劇場で観てもらいたいということですよね。

「もちろん基本は劇場で、DVDで発売するときはもう少し感度を上げてテレビで見やすいようにはしますが」

トーンがまたグリーンでいいですね。

「過去のものって色があせてくるというか、このグリーンののりかたは夢の中に近い色合いをイメージしているんですよ」

モノクロっぽい印象もありますね。

「そうですね。モノクロやセピアといったところはありますね」

途中で全共闘のモノクロの資料映像がインサートされていましたけど、本編と一緒に並べてもまったく違和感がなかったですね。

「人間の記憶って曖昧ですからね。当時は普通にカラーだったはずなんですけど、人間の記憶の中ではモノクロになってしまってるんだと思うんです。
 これを撮るにあたって資料をいろいろと探ってみたんですが、街の風景写真はみんなモノクロなわけですよ。たまにカラー写真があったりするんですけど、妙に違和感がある。実際観ていたのはそっちのはずなんですけどね」

村上さんは2年ぶりの映画だそうで。

「自分を追い込んでいたらしいですね。ものすごくさっぱりしてましたよ。まっさらな状態で来てくれたんで、会った瞬間に絶対大丈夫だと思いました。これは他のキャストみんながそうで、皆が適材適所というか、うまい具合にマッチングしたなと思いました。それはものすごいよかったですね」

ものすごい適材適所なキャスティングだと思うんですが、よくよく考えてみると、村上さんは大学1年生の役なんですよね。

「田中哲司さんだって大学生ですからね(笑)。でもこれはあえてそうしたんです。これをリアルな年齢でやると、やってることが大人すぎるんですよ。だから昔の人って精神年齢がすごく高いんですね。おそらく今より10歳くらい上なんじゃないかな」

#吉野沙香さんも、観ればハマッているのは分かるんですが、最初は意外なキャスティングだと思いました。

「どちらかというと元気ハツラツなイメージがあるわけですから、最初は違和感があるかもしれないですね。歩くスピードというのがあるんですが、かなりゆっくりなスピードにしてもらいましたね。歩き方というのは人の性格や生活が出ますからね」

なるほど。昔の雰囲気をかもし出していたのは、そこらへんも理由があったんですね。最初の吉野さんと村上さんとのラブシーンはものすごい長回しでしたけど、伝わってくるものがありますよね。

「集中するんでしょうね。ひとつの手の動き、どっちから動いたのかなんか。そういえばこの間、ジャ・ジャンクーの『長江哀歌』という映画を観たんですけど、長いし動かない(笑)。でも伝わるんだなと。セリフはいらんなと思いましたよ」

参考にした文献などはありました? 

「参考にしたものはたくさんありましたね。先ほどもお話したんですが、助監督がいろいろと写真などを集めてくれたんですけど、学生運動の写真が多かったんですよ。でもそういう写真よりも、森山大道さんとか、そっちの方がこれに近いんですよね。
 どちらかというと汚い感じのする写真じゃないですか。浮浪者とか2丁目の人とか、ヤクザとか。ああいうのを見ていた方が自然なんですよね。あれは撮る上でものすごく参考になりました。そんなにいい環境にいるとは思えないんですけど、ものすごく幸せそうな表情なんですよね。そういう風に撮れないかなとは思いました」

人間ドラマが主体とはいえ、やはり麻雀は外せない要素だと思うんですが、大変だった点は?

「僕もそうなんですが、村上さんも麻雀が出来ない人だったんです。田中(哲司)さんも出来ない。坂井(真紀)さんも出来ない。岸本(祐二)さんも出来ない。出来ない人だらけ(笑)。
 村上さんはこの役が決まった時点で麻雀パイを買ったんですかね。麻雀に慣れるために、みんなおのおの雀荘に行ったりしていました。そういえば今、ボケ防止で麻雀をやるような老人会がありますよね。プロのところに行くとお金を取られてしまうので、池内さんはあそこに行ったと言ってました(笑)。皆さんやはりパイには慣れて欲しいですからね」

そう。驚いたのはみんな慣れた手つきでパイを扱っているということなんですよね。

「すみません、あれ実は吹き替えです(笑)」

ああ、そうでしたか。

「麻雀指導の方に代わりにやってもらったんですよ。彼は若い頃、麻雀でメシを食っていたらしいんですが、スナックのママに50万であの人を負かせてくれと頼まれたらしいんですよ。それで勝って、50万円もらったらしいんですよ。ただその相手が強かったわけじゃなくて、ママが弱かっただけらしいです。楽勝で勝てたらしいから(笑)」

まさしくこの映画そのものの話ですね。では最後に映画をご覧になる方にメッセージを。

「出ている人たちの呼吸を感じてもらいたいですね。自分で編集して見たときに、そうやって観てみたんです。どんな息をしているんだろう。呼吸が高まっているんだろうか、落ち着いているのか。そうやってみると、感情移入しやすいのかなと思いますね。
 今回は出てくれている方たちがうまい具合に連鎖しているんですよね。ひとりひとり個性的な呼吸をしているので、そこに注目して欲しいですね」

執筆者

壬生智裕

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