時系列に沿って長回しで撮り、俳優には即興を促すというウィンターボトム監督の手法はジョリーやダン・ファターマンを含むキャストに喜んで受け入れられた。ファターマンは本作ではカラチ赴任中に誘拐され、過激派によって殺害されたウォールストリートジャーナル紙の地方局長ダニエル・パールを演じている。
「アンジェリーナと組めて最高だった。」とウィンターボトムは言う。「事前に私たちがいつもとっている方法を説明した。1シーン1ショットで撮ることや、カメラを手持ちで回すこと、撮影量が多いことや即興を多様することなど。彼女はそのアイデアを気に入ってくれたようで、初日から素晴らしかったそうだ。





Q:プランBがこの映画の企画をあなたに持ちかけたそうですが、どういう経緯だったんですか?

A:2004年にプランBのデデ・ガードナーがマリアンヌの本を私にくれた。読んでみてとても心が動かされた。2006年4月にはブラッドとデデから電話があり、監督を担当することに興味があるかときかれた。それでアンドリューと私はナミビアに飛び、この物語について、また、私たちがいつもどんな作品作りをしているかを話した。彼らは僕らのやり方や、慣れ親しんだスタッフを起用することを快く受け入れてくれた。それで引き受けたんだ。

Q:アンジェリーナ・ジョリーという女優でなにか驚いたところは?

A:アンジェリーナと組めて最高だった。彼女には事前に私たちがいつもとっている方法を説明した。1シーン1ショットで撮ることや、カメラを手持ちで回すこと、撮影量が多いことや即興を多様することなど。彼女はそのアイデアを気に入ってくれたようで、初日から素晴らしかった。アンジーは女優として、また一個人として可能な限り精密にマリアンヌという人物を再現してみせようと強く思っていたようだ。私がふたりに出会った時は、彼らは既に友人同士だったんだ。個人の体験に基づく映画を監督するにあたり、当事者である人物が自分を演じる役者をすっかり信頼しているというのは、理に適っている。ふたりの間にはそういう信頼関係があったんだ。

Q:ブラッド・ピットからはどのような指示が?

A:ブイラッドはいっさい口出ししてこなかった。

Q:マリアンヌと対面したのはどの時点ですか?

A:昨年の4月に初めてパリで会った。彼女としては監督候補に会う機会であり、私にとってはマリアンヌと共に時間を過ごす機会となった。この後に全員、つまりマリアンヌ、プロデューサーであるアンドリューとデデ、そして私でナミビアに行き、ブラッドとアンジェリーナに会った。

Q:マリアンヌに会った印象は?

A:マリアンヌは本当に素晴らしい人だ。ものすごく温かく、寛大で明るい。私たちが会うべき人々へ次々と紹介してくれて、彼女が体験したことへの質問にもすべて答えてくれた。それと同時に、私たちに自由に映画づくりをさせてくれた。

Q:実際には何人くらいの関係者に会ったのですか?

A:関わりのあった人全員に会った。これはマリアンヌの物語であるけれど、一方で色々な観点を取り入れるのは非常に重要なことだった。私はマリアンヌとダニーのジャーナリストとして仕事にとりくむ姿勢を、この映画の本質的な部分に投影したかった。すなわち人物をなるべくありのままに正確に描くということだ。

Q:監督として、数々の対面で得た情報からどのような映画作りを目指しましたか?

A:マリアンヌの本が出発点であることは間違いないが、関わった色々な人に会ってみて、この事件についての彼らそれぞれの視点というのがもたらすものもあると感じた。ふたりのジャーナリストの物語と考えるのが相応しいと感じた。ジャーナリストのような態度でこの物語に接したつもりだ。この事件のありのままの姿を描くために関係者全員の視点をとりいれた。

Q:時系列に沿って撮影しましたね。当たり前の質問ですが、何故ですか?

A:あの家での撮影に与えられた時間が5週間あったので、時系列で撮るのにちょうど良かった。そうしたら結果として、現実と同じくらいの時間でとても多くを撮影出来た。この手法は俳優同士ががだんだんに関係を深めるのにも役立ったと思う。最終的にはマリアンヌから聞いたような人間関係があの家のなかで確立されていた。最後のディナーの場面でマリアンヌが皆に気に病まないで欲しいと伝えるところなんかは、まるで実物の人たちのようだった。

Q:以前にもカラチで仕事をしていますね。状況は良くなっていますか?

A:屋外シーンのほとんどがカラチで撮影された。最小のクルーで、大勢のパキスタン俳優を使った。パキスタンで撮影するとなったら、がむしゃらにやるしかない。政府のしかるべきところから撮影許可をとりつけるのにずいぶん時間を費やした。一方、カラチの警察機構の協力を大いに得たりもした。

Q:政府の認可が必要なんですか?

A:政府の認可が必要だ。それで内務省長官のカマル・シャーにたくさん助けてもらった。彼はダニエル・パール事件の時にカラチの州警察長官だった。パキスタンの警察当局とのバトルもあった。彼らはカラチ警察に我々の協力をさせないよう圧力をかけたんだ。まぁ、これはちょっとしたことで、結果的には解決され、了解が得られたのだが。他の国々と同様に、一つの物事に関して人によって考えることがバラバラで、出てくる意見が一貫しないんだ。

Q:本作でも多くの常連スタッフを起用したようですが、これはあなたにとってどのくらい重要なことですか?

A:彼らがいてくれると落ち着く。信頼できるクルーが組めるとリラックスして臨めるんだ。今回のスタッフは皆それぞれの分野でとても才能があり、我々は互いに尊敬しあっていた。携わる全員にとてもいい環境だったと思う。

Q:俳優陣は実在の人物を演じていますが、彼らはどのように感応しましたか?

A:全員がとてもうまく感じを捉えていた。彼らは自分が演じる人物に会ってともに過ごし、理解を深めた。それぞれにとってのダニエル・パール事件を、彼らの口から聞いた。役者たちが、自分が演じる人物への責任を感じていたのは明らかだった。映画が時系列に沿って撮影されていったので、俳優たちも物語に沿って顔見知りになった。それがあの家でどのように人間関係が育まれて行ったかを描き出している。

Q:ダニエルが殺害された時、あなたもパキスタンにいたそうですね。あの頃のことで何か憶えていることは?

A:ダニーとマリアンヌがアフガン戦争の取材でパキスタンに来た2001年、私もパキスタンにいた。ダニーがやっていたことが必要以上に危険なことだとは誰も思っていなかっただろう。カラチのレストランで行われようとしている面会について、ダニーが用心深く人々のアドバイスを聞く様子を映画でも見せている。

ジャーナリストというのは追っている人物との面会を果たすよう努力するもので、それは非常に勇気のいることでもある。とても誠実なジャーナリストだった彼は、記事に書く人々には会っておきたかったのだろう。この事件がとても衝撃的だった理由のひとつに、あのようなことがパキスタンで起こるとは誰も思っていなかったというのもあるだろう。パキスタンはイラクと違って戦時下になかった。ダニーは戦争ジャーナリストではなかったんだ。

執筆者

Yasuhiro Togawa

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