『エトワール』から6年、再びタヴェルニエ監督が、パリ・オペラ座バレエ団のダンサーたちと手を組み、バレエムービーの新しい境地を切り開いた。今回はフィクションに挑戦、シンデレラ城のモデルともなった幻想的な王国の宮殿を舞台に、華麗なダンスと繊細で甘美な音楽、美を極めた映像で描くロマンティックで切ない純愛おとぎ話。

ニコラ・ル・リッシュをはじめ世界のバレエ界に君臨するダンサーに加え、フランス映画界を代表する名優たちとの夢の共演。『美しすぎて』のキャロル・ブーケと『コーラス』『トランスポーター』のフランソワ・ベルトランが王と王妃を演じ、確かな作品力に貢献している。

城、屋根裏、牢屋、雲の世界に至るまで、様々な空間に一貫性を持たせ、全ての飾りは衣装の色に従って考えられたというだけあって、全編のどこを切り取っても絵画のような映像が繰り広げられる。
タヴェルニエ監督は、それぞれのシーンへの色のこだわりを作品資料を用いて説明してくれた。細部まで妥協せずに貫いた彼の美意識の世界に、ただただ圧倒された。






−−この映画はどのようにして実現したのですか?
「何年も私は、フィクション映画の企画を実現できなかったのですが、『オーロラ』だけは諦めませんでした。私の美学にダンスを盛り込んだ、夢のような映画を作りたかったのです。と同時に現代的なテーマが底に流れる物語を撮影しようとしていました。」

−−脚本に4年半もの時間をかけたと聞きましたが、どのように進めていったんでしょうか?
脚本については、まずストーリーを語る方法を決めました。少しずつリズムが加速して次第に複雑になってゆくという方法です。クラシックバレエのレパートリーや絵画などからインスピレーションを得、自然にイメージが沸いてきました。最初からしっかりとしたイメージがあったわけではなく、徐々に詰めていくという作業でした。
妖精や雲も、後半になって多く登場させていますが、最初からファンタジーの要素を出す必要もありました。例えば、緑のものが青っぽく見せたり、部屋の中に植物を置いてみりして、少し非現実的なものが、最初から現れているということが大事でした。
もう一つ早い段階で決めていたのは、オーロラ姫が雲の世界に昇っていくのを夜明けの時間帯にすることです。なぜならオーロラというのは、フランスでは夜明けに見えるものだからです。
この質問には答えようとしたら、3時間でも話すことができますよ(笑)。

−−国王が踊りを禁じるというストーリーにファンタジーの世界を超えたメッセージ性を感じたのですが、社会に対するメッセージが込められているのでしょうか?

確かに、この映画は個人の自由、自由裁量というようなテーマを扱っています。少し穿った見方をすれば、王妃が死んでしまうのは、彼女が一番大事だったダンスへの情熱を諦めてしまうからという解釈もできます。それと同時に、社会における女性の地位について考察を促している作品でもあります。さらに言えば、子どもたちが自分で決める将来についても同じです。例えばオーロラも彼女の弟・ソラルも両親が望んだ道を結局は進みません。王を通して、人間が持つジレンマのような愛情と分別、そして権力に引き裂かれる人間というものを描いているんです。王はとても不幸です。国民を救うために娘を売らなければならない。でも本当は娘を自分の側に置いておきたい。そういうジレンマのなかで葛藤して苦しんでいる人間の姿で、とても人間的な人です。本当は妻がダンスをするのを見たくてたまらないのに、あまりにも妻が美しいので、ダンスをさせることによって彼女が自分の側から離れていくのがあまりにも怖い。だから、彼女の情熱を閉じ込めてしまいます。男性にありがちな傾向ですよね。人間を無理に閉じ込めようとすると必ず破綻がきますね。子どもにしたって女性にしたって、閉じ込めようとすると必ず無理がきます。

−−画家であり、オーロラが恋するバンジャマンを演じたニコラ・ル・リッシュについてエピソードがあったら教えてください。
映画の撮影スタッフたちはダンスも全然知らないような、「バレエというものはゲイの男の子たちが好きなものだ」と思ってる男の人が多いわけです。そのスタッフたちが、ニコラが目の前で素晴らしい踊りを見せてくれたときに、そういう先入観を全部忘れ去って感動して見入っていたんです。それも涙を流しながら。それを見ている僕自身がとても感動したんです。男の人の躍動する肉体の美しさに見とれている技術スタッフたちがいることは素晴らしいことだな、と思ったんです。

−−撮影中、大変だったシーンについて教えてください
私は大変なことがあったとは思っていないんです。もちろん、スピードを上げて撮らなくてはならないこともありました。ですが、私は役者も含め、自分の好きなようにやればいいと思っているし、監督としての威厳を見せる必要も全くありませんでした。この映画に参加した全員が同じ方向を向いていたから、撮影中の困難は無かったと言えます。実際、全員がこの映画に参加することに幸せを感じていて、撮影中はずっと、新鮮な驚きや喜びを感じてくれていた。例えば、今までダンスを見たことのない人が踊りを発見し、役者が演技をするところを見たことがない人が演技を見て感激するといったような。とても気持ちのいい撮影現場でした。

執筆者

Miwako NIBE

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