『ドッグヴィル』、ラース・フォン・トリアー監督インタビュー!
『ダンサー・イン・ザ・ダーク』がカンヌ映画祭でパルムドールに輝いた時、監督のラース・フォン・トリアーにアメリカ人ジャーナリストが投げかけた“アメリカに行ったこともないのにアメリカについての映画をなぜ作ったのか?”という言葉。閉所恐怖症で飛行機が大の苦手の監督にとって、アメリカは決して足を踏み入れることができない土地。でもそこはユーモアたっぷりに「私が知る限り『カサブランカ』を作った映画人は、一度もカサブランカに行ったことがないはずだよ」と切り返し、そして決意した。“よし!アメリカで起こることを描いた映画をもっと作ってやるぞ!”と。そして誕生したのが、『ドッグヴィル』である。これはアメリカを描く3部作の1作目にあたり、主演はニコール・キッドマン。ハリウッド女優であるニコールを主演に据え、斬新な演出を用いて新たな観客層を掴む意欲作は、カンヌ映画祭で注目の的だった。そんな話題の『ドッグヴィル』の誕生から今後についてあますことなく語ってくれたラース・フォン・トリアー監督のインタビューの模様をお伝えする。
2004年正月第2弾としてシネマライズ、シャンテシネ他全国順次ロードショー
(素材提供:GAGA Gシネマ)
質問: 今回、主演は監督と仕事をすることを切望していたニコール・キッドマンを起用されましたね。
ラース・フォン・トリアー監督(以下、監督): 彼女が僕と仕事をしたいという話を聞いて、彼女が出演したキューブリック監督の作品『アイズ・ワイド・シャット』を見てみたんだ。彼女が演じていたキャラクターはどのキャラクターよりも興味深いものだった。だからまだ彼女に会ったことはなかったけど、彼女のために脚本を書いたんだ。そして実際に彼女と仕事をしてみると、とにかく一生懸命やってくれて、とてもすばらしい俳優だった。常に僕のスタイルをつかんで仕事をしようとしてくれたんだ。
質問: タイトルにもなっている『ドッグヴィル』という、ロッキー山脈の孤立した町の発想はどこからきたのでしょう。
監督: 私の好きな復讐というテーマを扱った「三文オペラ」のベルトルト・ブレヒトによる楽曲「Pirate Jenny」が、この『ドッグヴィル』の発想の元になっているのだけど、この「Pirate Jenny」で繰り広げられる物語は孤立した町で起こる出来事だったんだ。そこで、アメリカの山ということで思いついたロッキー山脈のどこかに設定することにしたのさ。
質問: ”ドグマ”などの実験的な撮影手法に続き、『ドッグヴィル』では黒い床に白線が引かれただけで壁も扉も屋根もないセットで撮影されました。いつも独特なアプローチをされますよね。
監督: 映画を作る時、ある「奇妙な」方向性(例えば床の上に家の輪郭を作るだけとか)を一つ決めたら、その他の部分は「普通」にしている。レイヤー(実験的な手法)を重ねすぎると、観客がその映画から離れていってしまうからね。実験的な手法をするとしても、一度に多くのことをしすぎないことが肝心だ。さもないと観客が恐がって逃げてしまう。大切なことは一度に一つの要素以上を加えないことだ。
質問: 本作は3部作の第一作目ということですが、残り2作の展望を聞かせてください。
監督: 次回作ではグレースと彼女の父親のその後の人生を描くつもりだ。ニコール・キッドマンはスケジュールの都合で出演できないから、次回作は違う女優になる。
この3部作は、3人の女優によって演じられることになる。たとえグレースを3人の女優が演じることになっても、グレースという一人の人間、一人の女性をこの3部作で発展させていくことに変わりはないよ。
ということで『ドッグヴィル』の今後の展望も気になるところだが、まずは本編を見なければ始まらない!『ドッグヴィル』は2004年正月第2弾としてシネマライズ、シャンテシネ他全国順次ロードショーだ。
執筆者
Mika Saiga