$LIME つまらない漫才師が
ピー音でネタを消されて逆にウケまくる…
そんな皮肉な話っていいなあと思って$

 ストリップ劇場で細々と興行していた漫才師兄弟。ある時やけになって過激な下ネタギャグを連発したら大ウケ…。マスコミへの批判も含みつつ、悲喜こもごもに家族を描いた快作(怪作?)『ピーピー兄弟』。その監督とキャストにインタビューを敢行した。

監督/藤田芳康さん
タツオ役(漫才師の弟のほう)/剣太郎セガールさん
フミエ役(漫才師の兄の想い人)/みれいゆさん
キヌコ役(ストリッパー)/北川さおりさん






−−この映画のお話やテーマは、どんなところから生まれてきたんですか?
藤田監督「企画自体は15年くらい前、日本のテレビから初めてピーっという音が聞こえた時に何となく思いついたんです。僕はあのピーッという電子音が嫌いなんですね。今、日常生活の中ではいろんな所からそういう音がする。ファックスからも、携帯電話からも…。それが理由で今も携帯を持っていないんですけれど。
 その“嫌い”が理由で逆にピーを意識。“テレビに出てピーっという音が出るような漫才師が本当にいたら面白いだろうな”という発想から話が始まりました。そして“それが兄弟だったらどうなるかな”と…」
−−放送禁止用語を消すピーだけでなく、電子音がすべてお嫌いなんですか?
藤田監督「そうですね。そういう音に日常生活が支配されているような気さえします。
 でもそれがテレビから聞こえると、また違う意味がある。ピーで言葉を隠しさえすれば何をしゃべってもいいし…。いろいろ考えるうちに“面白い漫才師がピーという音でネタを消されて怒る話より、つまらない漫才師がピーでネタを消されて面白くなる…そんな皮肉な話っていいなあ”と思ったんですよ」
−−漫才師ピーピー兄弟の家が葬儀屋、というのはどの辺から来ているんですか?
藤田監督「漫才師という人を笑わせる商売をしている人の親が、あんまり笑っちゃいけない仕事をしていたら面白いでしょう?」









−−なるほど。では俳優のみなさん。最初にこの脚本を読んで、ご自分の役と出会った時の感想を聞かせてください。
剣太郎「台本を読んだ時、メチャクチャ面白いと思ったんですよ。こんな面白い台本があってエエのかって。でも、その時は自分自身がタツオ役をやるとまでは考えてなかった。タツオは(漫才とかハダカとかピーとか)いろいろなシーンがあるじゃないですか。で、実際にタツオ役に決まった時は“できるのかな〜”と思いまして。
 監督にいろいろ教えていただいたり、漫才をぜんじろうさんに特訓していただいたりして勉強しました。漫才なんて、一生のうちにやるとは思わなかった。いい経験にもなったし、もう今後絶対にやりたくない(笑)」
みれいゆ「台本を見る前、事務所の社長から“ちょっと変わった台本やけれどビックリしないで読んでね”と言われたんです。放送禁止用語が盛りだくさんで、そのまま文字になって出ているんで。
 キャラクター的には“フミエ”に惹かれて“面白そうな役やな”と思いました。でも実際自分がやるとなった時に“私は安請け合いしてしまったのかな”と思うほど、想像を絶する役でした、フミエは。女としてフミエの行動が理解できない所がたくさんあって。
 監督とは本番直前まで話し合いました。“ひとりの女としてはできない”“でもフミエはやるんだ”みたいな。やっぱり理解できないとフミエを演じられないから…」
北川「私はこの映画に出会うまで、ストリップの仕事をずっとやっていました。そんな中で“この映画でストリッパーをきちんとキャラクターとして描きたい。時代考証ならぬストリッパー考証みたいな形で入ってくれないか”と、最初お話をいただいたんです。
 脚本を読ませていただいたら、ストリッパーをひとりの人間として、ひとりの女としてちゃんと捉えてくれている。“ああ、これならいい”と思いました。そして、たまたま監督に言っていただいて出演もすることになったんです。
 今回、お笑い担当がぜんじろうさんだったら、私はエロス担当。エロスの中に生きている女の肖像を、監督と一緒に作らせてもらったような気がしています。
 風俗のような、ある意味後ろめたい仕事をしている女でも、真剣に生きている女がいる…そういう人たちの代弁代表者…というとおこがましいかもしれないけれど。一生懸命がんばっている女の人という形で、キヌコ役を観客の人が消化してくれたらなあと思います。そういう意味で最後、泣かせられれば最高! 女の共感を得られれば最高!」










−−撮影中のエピソードを教えてください。
剣太郎「かなり強烈な経験だったので、すべてが思い出深い。夢のごとき日々でしたね。
 ぜんじろうさんからは、漫才のことをいろ いろ教えてもらいました。テンポの取り方とか、相手役の叩き方とか。僕がぜんじろうさんを叩くんですが“もっと上の方をパーンとやれ”とか、教えられました。
 お色気シーン…? もうやりたくないですね。実際に演技している時はすごく緊張してるじゃないですか。そしてパッと見渡すと、たくさんの人に囲まれている。マイクの人や監督や…。オレは大変なことをしてしまったんじゃないかと思ったりして…(笑)
 あと漫才の時、実際に300人くらいの観客 の前で舞台に立つんです。そこでホントに観客が受けてくれた時はうれしくて、一瞬“オレ、漫才師になろうかな”と思いました」
みれいゆ「フミエという役は、小さい頃の三輪車の事故で右足が曲がらないという設定なんです。それがコンプレックスでもあり、生きていくためのバネでもあるんですね。
 フミエの歩き方は、かなり練習しました。町中で人間ウォッチングをして、もし怪我している方がいたら、勉強させていただいたり。自主練習のあと監督の前で歩き方を披露して、“どうですか?”と…。終わった時には、右足だけ、すごい筋肉痛でした」
藤田監督「僕はコマーシャルなどで撮影はたくさん経験していますが、映画一本撮るのは初めてだったんです。今回はみんなも映画出演は初めて。そういう人間が集まって作った“熱気”みたいなものを感じましたね。
 撮影の終わりには、連中、みんな“撮影を終わりたくない、終わるのは淋しい”と思っていてみたいで。確かに毎日、朝から晩まで、夜中まで一緒にいた…。今回のこの映画を撮っていた時の熱い気分は、たぶん一生忘れないと思います。初めてのチュウみたいなもので(笑)」
北川「本当に暑い夏で、熱い映画で、あれ自体が映画だったんじゃないかというくらい濃密な撮影現場でしたね。あの撮影の数か月、もうキヌコの役というよりも、その人生を生 きていたような気がします。
 藤田監督は愛情あふれる大阪のおばちゃんみたいな感じ(笑)。私たちが映画は初めてということで、リハーサルをすごくたくさんしてくれました。マンツーマンで、その役を俳優と監督とで作っていくという作業をすごく大切にしていたんですよ。
 私はベッドシーンもありました。恥ずかしくてね。会議室とかに、蒲団が敷かれているんですよ(笑)。中途半端に隠微に…何やれっていうんですか? と思いつつも、真面目にリハーサルしました、相手と。
 ストリップシーンもありました。エキストラの方たちが、次の日、本当にストリップ劇場に来てるんじゃないかというくらい、リアルな方々で…。撮影にも協力的でした。“キヌコと観客で作るストリップシーン!”みたいな独特のチームワークがありましたね。その空気もうれしかった!
 前バリはしなかったんです。面倒臭かったし、その方が臨場感が出るのではないかと。でも休憩中、みんなマジ見していてね。まあそれが臨場感につながったら、それはそれでよし!」








−−夕張にいらしてのご感想と、この映画を見る人たちへのメッセージを!
剣太郎「僕は夕張に来るのは三回目くらい。“お帰りなさい”という感じで迎えていただいて、心も暖まりました。
 映画はとにかく見てください。稀に見るタイプの映画、見て損はないと思います!」
みれいゆ「夕張映画祭、私は初めてです。感動したのは、夕張への特別列車の各駅で、園児たちが旗を降って迎えてくれたり、町のお嬢様方(おばさま方)が踊りを踊ってくれたりしたこと。
 雪景色を見ているだけでも、いつもと違う世界にいるようです。私にとって人の歩いていない雪の上を歩くなんてとても珍しいんですけれど、ここは新雪だらけ。踏んだらキュッキュッという快感が常に味わえる…。
 この映画は、みんなで一生懸命作りました。どの映画でもみんな一生懸命やと思うけれど。この映画は特に、初めての人が多かったり、クソ暑い夏の大阪で撮影したり…一種異様な一生懸命さがありますね。私たちの勇姿を見てあげてください」
藤田監督「夕張は本当に暖かい。物理的な要素はともかく、映画への愛情の規模は一番大きい映画祭のような気がします。
 この映画は面白いですよ。見ないと損します(笑)」
北川「夕張はきのうの夜、ちょっと歩いてみてね。冷たい雪の中でも、じみじみ熱い映画好きの情熱を感じる…。素敵な映画祭だなあと思いました。これから映画をやっていきたい人間として、今ここにいられて本当に幸せ…。
『ピーピー兄弟』はいい映画だと思います。どのキャラクターにも監督の愛情がたっぷり注がれて。ストリップシーンもいいですよ。ぜひ、足をお運びくださいませ」
    取材・構成/かきあげこ(書上久美)

執筆者

かきあげこ(書上久美)

関連記事&リンク

作品紹介