閉塞した今こそ見たい!映画『湖底の空』インタビュー(2)制作編(佐藤智也監督・みょんふぁさん・武田裕光さん)
ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2020 において、審査員の満場一致でグランプリに選出された映画『湖底の空』。日本・中国・韓国の3カ国のスタッフが結集して作られた、あらゆる境界を超えて傷ついた人々の心をつなぐファンタスティックムービーだ。
関西では7/23(金)より京都みなみ会館、7/24(土)よりシアターセブンにて公開中だ。(舞台挨拶情報は記事の最後に掲載)
中国・上海に暮らすイラストレーターの空(イ・テギョン)は、出版社に勤める日本人の男性、望月(阿部力)と出会う。そんな空のもとに日本人の父と韓国人の母の間に生まれた一卵性双生児の弟・海(かい)が訪ねてくる。性に問題を抱えていた海(かい)は性別適合手術を受けて女性となり、名前を海(うみ)と変えていた。海は空と望月の恋愛を後押ししようとするが、空は何かに追い詰められ、精神的に不安定になっていく…。
監督は『マレヒト』(95)、『L'Ilya~イリヤ〜』(00)、『⾆〜デッドリー・サイレンス』(04)の佐藤智也監督。韓国インディペンデント映画のミューズ、イ・テギョンさんが空と海をひとり二役で演じる。望月に「花より男子」の美作あきら役で注目を集め、その後台湾の映画に出演するなどワールドワイドに活躍する阿部⼒さん。空と海の両親役に、⽇韓の演劇・映画などで活躍中のみょんふぁさん、武田裕光さん。
佐藤智也監督、主人公・空と海の母親役のみょんふぁさん、父親役の武田裕光さんのインタビュー第2弾。制作にまつわるエピソードを中心に語って頂いた。
■双子のアイデンティティはどう生まれるのか
SF 小説が好きでフィリップ・K・ディックが好きという佐藤監督。新聞やニュースからヒントを得ることもあるという。一卵性双生児については直接そういった方に話を聞く機会があった。その経験が『三つ子』という作品になり『湖底の空』につながっていく。
――一卵性双生児の話を聞いたときに一番興味をひかれた点は?
佐藤:やっぱり双子のアイデンティティの作り方ですね。もう一人の自分を見ながらだんだん相方とは違う自分を作っていく。僕自身は全く経験できないだけにものすごく想像力を刺激されました。
姉妹が抱える罪悪感というパターンは『三つ子』から踏襲していたのですが、東日本大震災以降「サバイバーズ・ギルト(※)」って言う言葉が出てきて、以前から描いてきたものが実はそれなんだと気が付きました。
(※戦争や災害、事故の生存者が生きていることに罪悪感を抱いてしまうこと)
■肉体の実感を確かめる
『湖底の空』の冒頭、空(イ・テギョン)が裸の自分を鏡越しに見るシーンが印象的だ。背骨が目立つ薄い背中。いくつにも引き裂かれたように見える希薄な存在の肉体。実感を確かめるように自分の胸に触れる空。
――物語の主題が見えるようでしたが、あのアイデアはどのように生まれてきたんでしょうか?
佐藤:自分の体を見つめて不安になるシーンで、元々のやりたかったことにロケ場所を見てアイデアを広げた感じです。もともと韓国のキャスティングディレクターにヌードがありますっていうのは最初に説明しておきました。イ・テギョンさんが取材の際に印象的なシーンを聞かれて、あのシーンを挙げていたのがすごく嬉しかったですね。
■水彩画のような風景・アンドン(安東)
――美しい風景が印象的なアンドンですが、決定した経緯は?
佐藤:湖を探したんですけど、韓国って日本みたいな火山国ではないので湖が少ないんですよ。アンドンは人から教えてもらいました。あの湖は川をせき止めて出来たものなんです。韓国精神文化の首都を謳っている儒教発祥の地であるということで、古い文化を大切にしていて、民俗芸能が楽しめ、古民家に宿泊できる民俗村があります。あと湖に掛かっている月映橋には韓国風の東屋があります。撮影時にとても目標になるなぁと考えてアンドンに決めました。
市役所に協力を求めに行ったら日本人の方が働いていて、びっくりしました。ソウルのような都市ならいざ知らず、地方都市でしかも市役所に日本人がいるんですから。幸いその方が協力してくださって、フィルムコミッションみたいな形で動いて頂いてロケ場所も交渉してくれてとても助けられました。
――アンドンでは映画のロケに関しては好意的な感じでしたか。
佐藤:そうですね。地方都市だからかもしれないんですけど、日本からわざわざ映画撮りに来たの?じゃ、協力しましょうみたいな(笑)。
撮影では本当の病院も借りたんですけど、日本人スタッフが持ってきた機材を病院の中に運び込もうとしていたら、婦長さんが「これで運びなさい」ってストレッチャーを用意してくれたんですね。みんなこれに機材を載せるなんてまずいでしょうっていう感覚で躊躇していたら「いいから載せなさい!」って(笑)。とにかく融通が利くと言いますか、日本ではとにかく規則だからってNGになることが多いんですけど、韓国では何とかしてくれるところがありがたかったです。
■機材トラブルを乗り切った対応力
アンドンの撮影では、ドローンが行方不明になったり、カードリーダーが壊れたりと機材トラブルが続出したという。特に頭を抱えたのがカードリーダーの故障。撮影分のデータをハードディスクに移すことが出来ずこのままでは3~4日の撮影日を残して30分しか保存できない事態に。特殊なカメラに対応した専用のカードリーダーは地方都市にはないものだった。子役を中心にスケジュールを組みなおすことに追われた佐藤監督だったが、韓国スタッフの手配により、高速バスに荷物だけ乗せてソウルから取り寄せることに。1日のロスで済んだため、何とか再撮にならず撮り終えた
――そういったエピソードも韓国らしいといいますか。ピンチの時の柔軟さが。
佐藤:本当に凄かったですね。あと、アンドン駅ではちょうど雨が降って駅で撮らせてもらおうと駅長さんに交渉したら、「●番線に電車着くので、お客さんの迷惑にならないようにやってね」って、全部撮影フリーだったんです。韓国のノリには本当に助かりました。国が映画を支援しているからなのか、一般の人たちも映画を撮っているんなら協力しましょう、みたいな雰囲気でとてもありがたかったです。
■映画は俳優をキャスティングした時点で半分以上はできている
――武田さん 佐藤監督の演出で印象に残ったことは?
武田:監督は何もおっしゃらないんですよ(笑)。不安になっちゃって僕監督に聞いたことがあるんですが、「大丈夫です」って。間違ったときは絶対に仰るので、そこは信頼して演じました。こういう風に信頼関係で撮るっていいなと思っています。
――みょんふぁさんはいかがでしたでしょうか。
武田:監督の中でこれは譲らないっていうのはあって、それが作品に出てると思いました。
みょんふぁ:そうですね。本当にそう思いました。
――佐藤監督は俳優さんたちに役柄のご説明をされたら、後は俳優さんにお任せする感じでしょうか。
佐藤:俳優さんをキャスティングしたらもう半分以上はできていると思っているんです。
監督ってお話を転がすことを中心に考えるところがあるんですけど、俳優さんはその役を演じる上で一番考えるんです。考えないと動けないですから。俳優さんが出した答えは、監督よりもむしろ正しく捉えていることが多いので、こちらの狙いと外れてない限りは自由にやってもらう方がいいと考えています。
■ファミリー感を味わった韓国・アンドンロケ
――武田さんは普段は韓国人スタッフの中でお仕事をされていますが、三カ国入り混じっての現場はいかがでしたか?
武田:合作は何本かあるんですけど、スタッフ100人規模の大きな現場で。『湖底の空』では20人もいない現場で、色んな国の言葉が飛び交っていました。俳優もスタッフも自分にできる表現を行って。監督が日本の方で、一番先頭で走っているのをみんな見ているんです。それを追いかけているように感じていましたね。
――みょんふぁさんは逆に普段は日本人スタッフとのお仕事が多いですが、ロケはいがかでしたか?
みょんふぁ:武田さんも仰ったように韓国はみんなでご飯食べたり、映画も舞台もドラマも何か作るとなると一つのファミリーになる感じがあるんです。不思議なことに日本のチームも韓国に行くとそうなるんです。すごく影響し合うものかなって。感覚が解放されるように、みんながコミュニケーション取っていく感じが心地よかったですね。アンドンの方言も懐にぐっと入るような感じで。
――ちなみにアンドンの方言を日本で例えるとどんな方言になるんでしょうか。
みょんふぁ:方言的には結構強いです。東京で言う大阪寄りの西の強さ。音楽になっていく感覚というか。
武田:僕は中部北陸あたりかなあ(笑)。
■日本を外国の目を通して見る
――佐藤監督は合作を成功されて、今後の作品への手ごたえはありますか
佐藤:やればできるんだなっていう感じをつかみました。ただ、今はコロナの状況で海外ロケが難しい。外国を絡めると日本人の見方も変わってきますし、日本の置かれた状況を外国からどう見えるかという視点が盛り込めますので、ぜひ又やってみたいなと思っています。
■今見てほしい映画である訳は?
――武田さんは『湖底の空』を一言で紹介するとしたらどのように仰いますか。
武田:一言は多分難しいですよね(笑)。もし一言で言うなら「今見てほしい映画」。僕らが撮っていた時と今では状況が変わってしまって、僕も今日本に帰れないし、すごく遠い存在になってしまった感覚なんですよ。ちょうど今この時期にこの映画が公開されることが面白いなって。この3つの国のエネルギーがすごく含まれている映画だなぁと思います。3つの国の俳優の演技の見え方が全然違っていて、そういったことがひとつの映画で見られるってあんまりないと思うんです。
――ちなみに武田さんは違いをどのように感じられましたか?
武田:作り方が違うのかな。個人的にですけど僕も含めて、日本だと役に忠実と言うか、みんなきっちり自分のキャラクターを作ってくるんですけど、韓国だと現場でやる人が多いんです(笑)。どっちが良い悪いじゃなく。本当に考えて来ているの?って思う反面、現場の雰囲気を取り入れてそれをちゃんと表現するんです。
――中国の俳優さんの演技はどのように見えましたか?
武田:表現の仕方がすごく大きく感じました。
みょんふぁ:日常が大きいから大きく写っちゃいますよね。
武田:その辺も含めて見て頂けたら。おもしろいポイントじゃないかなと思います。
佐藤:武田さんの話に関連して、小林でびさん(監督・俳優)がブログに書いてくれてるんですよ。(リンクはこちら)
『湖底の空』で韓国人俳優は関係を演じる。日本人俳優は心情、自分の内面を演じる。中国人俳優は存在を演じる。
武田:ああ、そうかも!(笑)
みょんふぁ:そう言えば、海外のある演出家さんが、日本人の俳優はフィーリングアクトじゃなくてフィール。韓国はアクト、相手に向かっていくって言っていましたね。
■希望を感じるエンディングロール
――最後にエンディングロールについて伺いたいです。すごく感動してしまいました。3つの言語が融合してまた戻っていうアイデアはどのように生まれたんでしょうか。
佐藤:映画本編で中国語、日本語、韓国語が同じぐらいのウエイトで出てきますし、どの言語が重要という風にもしたくなかったので。自分でコツコツとレイヤーを重ねながら動かしてみました。エンディングクレジットはとっても評判が良くて、「こんなクレジット見たことがない」と言って頂いたり。やって良かったなぁと思っています。
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『湖底の空』舞台挨拶情報 【京都みなみ会館】 ●7/25(日)13:30回上映後 佐藤智也監督(登壇)、みょんふぁさん(リモート) ●7/31(土)13:30回上映後 佐藤智也監督、イ・テギョンさん(共にリモート) 【シアターセブン】 ●7/25(日)15:30回上映後 佐藤智也監督、みょんふぁさん ●7/31(土)10:30回上映後 佐藤智也監督、イ・テギョンさん(共にリモート)
執筆者
デューイ松田