小学校の校庭に必ずと言っていいほどあった金次郎像。
薪を背負って勉学に励んだあの少年が、その後、
600以上の村の復興を手がけたことをご存知だろうか?

映画『二宮金次郎』(6/1〜6/28まで恵比寿・東京都写真美術館ホールにて公開ほか全国順次、出演:合田雅吏、田中美里、成田浬、榎木孝明、柳沢慎吾、田中泯)の五十嵐匠監督のオフィシャルインタビューが解禁となりました。

Q.本作の成り立ちを教えてください。

A. 前作の『十字架』を茨城県筑西市で撮影した時に、筑西市の教育長から「二宮金次郎がこの町を復興させた」と聞きました。僕は幼い頃薪を背負っている金次郎像しか知らなかったので、金次郎が生まれた小田原だとか、亡くなった日光に調査しに行ったら、身長が180cm以上で、体重が90kgの大男だったと知ったり、人間的に非常に魅力的だったので驚いて、映画にしようと思いました。

Q. 金次郎は660以上の農村を復興させましたが、本作で桜町領の復興の話にフォーカスすることにした理由は何ですか?

A. 二宮尊徳(※金次郎は 57 歳から尊徳と名乗った) の独自の手法・報徳仕法が一番如実に出ているのは、小田原藩の桜町領の復興時だったからです。

Q. 金次郎の思想は、村のリーダーだけが応用できるという限られたものではなく、冒頭の、女中のきくに「節約した薪を買い取るから借金を返すように」と意識改革を始めるシーンのように、私たちの普段の生活でも応用できると思いました。金次郎の思想はいくつも資料に残っていますが、本作では、その内どのような思想を描いたんですか?

A. 尊徳には4つ思想があって、「至誠、勤労分度、推譲」とあるんですけれど、今回の映画では、身の丈を知って生活するという意味の「分度」を主に取り上げています。今のこの国の「もっともっと」という世界とは真逆なんですけれど、僕はその失われた部分に興味があったので、今の日本で忘れられている「分度」というものを映画化しようと思いました。

Q.金次郎役に合田雅吏さんを起用した理由は何ですか?

A. 幾つか作品を観たんですが、作品を観た印象よりも、会った本人の印象の方が強いです。実際頭が切れる方で、小田原の隣の秦野出身ということもあり、会った時に「役者生命を懸けたい」と話して下さったので、ある意味彼に賭けてみました。

Q.合田さんと実際ご一緒していかがでしたか?

A. 相当作り込んできていました。クランクインは成田山新勝寺で金次郎が21日間断食をしたシーンだったんですが、彼が7kg位体重を落として、目の下にクマができて、あばらが浮き上がっている状態を見た時に、この人は懸けているんだなと感じました。彼は実は金次郎を演じるために一度体重を増やしていたんですけれど、断食のシーンからの撮影になったので一旦痩せて、その後1週間で体重を戻したので、大変だったと思います。

Q. 本作で、田中美里さん演じる金次郎の妻・なみは、金次郎の縁の下の力持ち的な役割を果たしますが、どこまでが資料にある話ですか?

A. 相当調べたんですけれど、金次郎は年が離れていた前の奥さんと流産などもあり、別れているんです。なみさんに関して言うと、非常に古風な、旦那さんを立てて、必死になって付いていくという姿は資料に幾つかありました。600以上の農村は金次郎さんが復興したと思われているけれど、奥さんのなみさんの力はすごく大きいと思います。金次郎の家計簿も残っているんですが、1回結婚に失敗したというのもあるだろうけれど、金次郎はなみに対して、おしろいを買ってあげたりと、結構ケアをしていたようです。

Q. 豊田正作も敵役とはいえ、後日談まで丁寧に描かれていますね?

A. 豊田は下級武士、つまり侍でした。小田原藩から依頼されて、金次郎さんが復興している桜町領に上役で行っているんです。なので、「邪魔をする」というよりも、「公務員としての彼のやり方を一生懸命やることによって、金次郎とぶつかってしまう」ということなので、「敵役」というより、単に「仕事をするやり方が違った」と捉えて描きました。ラストのテロップ部分も資料に残っています。

Q. 柳沢慎吾さん演じる五平はいかがですか?

A. 五平は名前だけは資料があるんですが、資料はあまりないんです。柏田(道夫)さんの脚本では五平はあまりクローズアップされていないですけれど、背中が曲がっていたり、天涯孤独だったりというのは、僕がフィクションとして作ったものです。「幼い頃から天涯孤独だったけれど、心の底は非常に純粋」というのが好きなので、ドラマチックに描きました。体つきですが、調べて、「カルシウムを取らず日に当たっていないと背中が曲がる」ということがわかりました。

Q.金次郎と田中泯さん演じる伝説の貫主・照胤の成田山新勝寺のシーンが、ドキュメンタリーのような臨場感があり、セットなどでは到底できないリアリティーがありますが、撮影の裏話はありますか?

A. 成田山のロケ地は、本当に成田山の僧侶たちが修行をした場所なんです。あの修行した場所は今は使われていないんだけれど、そこで撮影させて欲しいとお願いしました。水をかぶる水行場のシーンがありますが、実際に二宮がやっていた場所なので、実際の場所に役者さんを置くことで、彼がどう変わっていくかに監督として興味がありました。

Q.その他のロケ地はどのようにして決めたんですか?

A. 日光の部落には、「二宮堀」と呼ばれる二宮さんが作った用水路が今もあるんです。日光、小田原の生家、桜町領など実際の場所で撮影しています。

Q.他に撮影エピソードはありますか?

A. クライマックスの雨のシーンの撮影は、結構時間がかかりました。放水車を2台呼んだんですが、放水車で使う水は、下の沢の水なので、すごく冷たいんです。役者さんたちはずぶ濡れになって頑張りました。その後、その田んぼの持ち主の焼き芋屋さんが来て、皆で笑ってホクホクしながら食べたのがいい思い出です。

Q. 二宮金次郎は、子供時代に勤勉だったこと以上に、勉強するだけでなく、実行をした人として素晴らしいと思うのですが、最近は、歩きスマホを誘発するからと学校の老朽化に伴い、二宮金次郎像が撤去されたりしています。そういう話を聞いて、どう思われますか?

A. そういう時代で、今は座っている金次郎や宇宙を飛んでいる金次郎の像があります。明治時代に明治政府が”働きながら勉強する”という金次郎をうまく使ったんです。今回の映画は少年時代も描きつつ、金次郎が青年時代に何をやったかをメインに描いています。少年時代の金次郎像をとっかかりにして観ていただき、最終的に青年期のことをわかっていただければいいと思います。

Q. 最後に読者の方にメッセージをお願いします。

A. 皆さん二宮金次郎というと、薪を背負って本を読んでいるイメージだと思うのですが、本当の二宮金次郎のすごさだとか革命家の部分は、青年期にどんどん農村を復興させていったところにあります。復興のモデルとして、金次郎が百姓の方々にモチベーションを与えたり、やる気を起こさせたりする姿を見ていただければと思います。

■監督プロフィール

五十嵐 匠 Sho Igarashi

1958年9月16日 青森市生まれ。弘前高校、立教大学文学部卒。大学時代、シナリオセンターに通う。岩波映画・四宮鉄男監督に師事、助監督として修業する。テレビ番組ではTBS「兼高かおる世界の旅」制作を手掛け、アラスカをはじめ、世界各国を回る。映画では主に人物に焦点をあてた作品づくりに取り組んでいる。

<主な監督作品>

「SAWADA 青森からベトナムへ ピュリツァー賞カメラマン沢田教一の生と死」(1997)
  毎日映画コンクール文化映画グランプリ、キネマ旬報文化映画グランプリ、
  日本映画ペンクラブ選出準グランプリ、日本映画技術賞、JSC賞

「地雷を踏んだらサヨウナラ」(出演:浅野忠信、1999)
  毎日映画コンクール主演男優賞(浅野忠信)、バンコク映画祭 観客賞

「みすゞ」(出演:田中美里、2001)   
  毎日映画コンクール助演男優賞、日本映画プロフェッショナル大賞(寺島進)、
毎日映画コンクール技術賞(金沢正夫)、文化庁優秀作品賞

「HAZAN」(出演:榎木孝明、南果歩、2003)
  ブルガリア・ヴァルナ国際映画祭グランプリ、ブルガリア・ヴァルナ国際映画祭批評家連盟賞

「アダン」(出演:榎木孝明、古手川祐子、2005) 
  第18回東京国際映画祭「日本映画・ある視点部門」正式出品、 
アメリカ・シラキュース国際映画祭 審査員特別賞
       
「長州ファイブ」(出演:松田龍平、2006)
  第19回東京国際映画祭「日本映画・ある視点部門」正式出品、 
第40回アメリカ・ヒューストン国際映画祭 グランプリ

「半次郎」(出演:榎木孝明、AKIRA(EXILE)、2010)

「十字架」(出演:小出恵介、木村文乃、富田靖子、永瀬正敏、2015)

6月1日(土)より東京都写真美術館ホールにて公開ほか全国順次公開

<東京都写真美術館ホール上映日時>
6月1日(土)~6月28日(金)
火・水・日 10:30~、14:00~
木・金・土(22日(土)を除く) 10:30~、14:00~、18:30~
休映日:月曜日及び6月22日(土)  

<初日舞台挨拶決定!>
6/1(土)14時からの回上映後@東京都写真美術館ホール
登壇者:合田雅吏、田中美里、成田浬、犬山ヴィーノ、榎木孝明、五十嵐匠監督(予定)
全席指定。当日午前10時より、その日の全ての上映回について受付を開始。
詳細は劇場及び「二宮金次郎」公式HPまで

<英語字幕付きバージョン上映>
英語字幕付き版上映日時:
6月7日(金)、6月14日(金) 、6月21日(金)、6月28日(金)18:30~の回@東京都写真美術館ホール

■ あらすじ

幼い頃、両親が早死にし、兄弟とも離れ離れになった二宮金次郎―—。青年になった金次郎(合田雅吏)は、文政元年(1818年)、小田原藩主・大久保忠真(榎木孝明)に桜町領(現・栃木県真岡市)の復興を任される。金次郎は、「この土地から徳を掘り起こす」と、”仕法”と呼ぶ独自のやり方で村を復興させようとするが、金次郎が思いついた新しいやり方の数々は、金次郎の良き理解者である妻・なみ(田中美里)のお蔭もあり、岸右衛門(犬山ヴィーノ)ら一部の百姓達には理解されるが、五平(柳沢慎吾)ら保守的な百姓達の反発に遭う。そんな中、小田原藩から新たに派遣された侍・豊田正作(成田浬)は、「百姓上がりの金次郎が秩序を壊している」と反発を覚え、次々と邪魔をし始める。はたして、金次郎は、桜町領を復興に導けるのか?

合田雅吏  田中美里  成田浬
榎木孝明(特別出演) 柳沢慎吾  田中泯
犬山ヴィーノ  長谷川稀世  竹内まなぶ(カミナリ)  石田たくみ(カミナリ)
渡辺いっけい  石丸謙二郎  綿引勝彦

監督:五十嵐匠
脚本:柏田道夫      原作:「二宮金次郎の一生」(三戸岡道夫 栄光出版社刊)
音楽:寺嶋民哉      プロデューサー:永井正夫

製作:映画「二宮金次郎」製作委員会 万葉倶楽部株式会社/井上泰一/日本教科書株式会社/株式会社ストームピクチャーズ
特別協賛:映画「二宮金次郎」市民応援団おだわら 映画「二宮金次郎」日光市民応援委員会 大本山成田山新勝寺 
株式会社コロナ 一般社団法人 日本保釈支援協会
協力:全国報徳研究市町村協議会 製作プロダクション:株式会社ストームピクチャーズ 配給:株式会社映画二宮金次郎製作委員会

(c)映画「二宮金次郎」製作委員会  2019 / 日本 / カラー / 113分 / アメリカンビスタ(1:1.85) / 5.1ch

公式サイト:ninomiyakinjirou.com Twitter:@HoshiMovie‬  facebook: @HoshiMovie‬