9月に本国フランスで公開されるやいなや拡大ロードショーとなり、3週連続№1の座についたマチュー・カソヴィッツ監督の「クリムゾン・リバー」。険しいアルプスの雪山と血なまぐさい猟奇殺人——これを追う2人の刑事にジャン・レノ、ヴァンサン・カッセルが扮し、第一級エンターティンメントの底力を見せてくれるのです。日本では2001年新春第2弾<日比谷スカラ座>ほか全国東宝洋画系にてロードショーの予定。フランス映画では過去最大規模の公開になるとか。去る12月11日は監督と主演の2人が来日。ジャン・レノの“ニッポンダイスキ”発言もあって会見が行われたパークハイアット東京は終始和やかなムード。惜しまれつつの質疑応答終了後、“ジャン・レノ・ダイスキ”のタレント、酒井若菜さんが応援に現れ一緒に記念撮影の羨ましいシーンも。




——雪のアルプスでの撮影は想像を絶するものがありますが。苦労したエピソードを聞かせてください。
ジャン・レノ「なんといっても酸素が薄い。朝方は−19度くらいなので移動をするのも大変なら、口を開くことすら困難な状況。でも、そういう全てに対してギャラが支払われているわけですからね(笑)。観て頂ければわかるでしょうが作品全編に流れる寒さが(映画の雰囲気を盛り立てるのに)有効に働いたと思う」。
マチュー・カソヴィッツ監督「ジャンの話に付け加えると、寒さのせいでカメラが壊れたこともありました」

——ヴァンサン・カッセルさんは乱闘シーンで鼻を折ってしまったとか。
ヴァンサン・カッセル「友人が亡くなったという知らせを受け、気持ちが乱れてしまった時のこと。結局、そのせいで15日間撮影を休む羽目になりました」

——それにも関わらず、あるいはその甲斐あってか(!)、格闘シーンは滑らかで美しいですね。
ヴァンサン・カッセル「メルシー。格闘技の訓練を特に受けたことはないけど、ダンスなら習ったことがあります。格闘にはダンスと同じような洗練された身のこなしが必要と思う。ちょうど僕の相手のうち、1人はブラジルのダンスのチャンピオン、もう一人はキックボクシングをやっていた。一ヶ月近く彼らとリハーサルを繰り返し、ああしたシーンが出来あがったんだ」




——原作はフランスでベストセラーになった同名小説だそうで。
カソヴィッツ監督「ある時、プロデューサーから電話を受け、面白い本があると、ジャン・レノも興味を持っているらしいと聞いた。僕自身はまだこの時、読んでいなかったんだけど、結局、一晩で読破してしまった。この本は映画監督への素晴らしいプレゼントだよ」

——本作には20億円を超える製作費が投入されています。大作感ゆえ、ハリウッドと比較されることも多いと思いますが。
カソヴィッツ監督「低予算主流だったフランス映画も最近ではより大きなバジェットが掛けられるようになっている。そうは言ってもハリウッドならその3倍、4倍を投入するでしょう。スペクタクル作品という括りのなかでハリウッドを意識した点はあるかもしれないけど、『クリムゾン・リバー』はフランスの技術を使い、フランスのムードを出したあくまでフランス産の作品だと思っている。ただ、数年後にはアメリカ映画だとか、フランス映画だとか、日本映画とかいう区別はなくなっているんじゃないかな。英語を使うことでどの国のフィルムもインターナショナルになる、そんな時代に向かっていると思う」

——国を超えて活躍するジャン・レノさんは他国と自国の映画作りに違いを感じたことがありますか。
ジャン・レノ「私は演技者であって、批評的なことを言う立場にはないのですが、大きなバジェットでもメッセージ性の弱いもの、小さなバジェットでもメッセージ性の強いもの、またその逆もあると思う。予算が大きければ掛けられる時間も多くなるから、待ち時間で台詞をどう活かすかなど俳優同士のコミュニケーションは取り易くはなる。けれど、どちらにしてもカメラの前に立つ孤独感はついて回るのです。私自身の話で言えば札束を積まれて仕事をしたことはない。どういう人たちと作っていくかが一番重要なこと。これまで、ミケランジェロ・アントニオーニやヴェンダースなど素晴らしい監督と仕事をする機会に恵まれてきましたが、ギャラというのはピーナッツが幾つ買えるかの額ですよ(笑)。だけど、とても満足しています」

執筆者

寺島まりこ