ウォン・カーウァイ監督が待望の新作「花様年華(かようねんか)」を携え、主演のトニー・レオン、マギー・チェンとともに東京国際映画祭にやってきました。11月2日、新宿パークハイアットで行われた会見は中国や台湾からのジャーナリストも多数。カンヌ映画祭最優秀男優賞、高等技術院賞を受賞した本作、会見直前には台湾金馬賞9部門にノミネートされたとのニュースが新たに舞い込みました。監督は「今朝知らせを受けました。意外な気がしましたけど」。「びっくりです。今朝会ったのに監督は教えてくれなかった(笑)」と答えたのはカジュアルなパーカーを着たマギー・チャン。本作で成熟した大人の男性を演じたトニー・レオンは米・ピープル誌で”もっともセクシーな50人”に選ばれたばかり。ご本人は「うーん、わからない。全くわかりません」との答え。奔放というよりむしろ内省的、これまでのカーウァイ作風と一線を画す「花様年華(かようねんか)」は来春3月Bunkamuraル・シネマ、銀座テアトル西友にて公開の予定です。





——物語は殆ど主演の2人だけで進行していきます。トニー・レオン、マギー・チャンを起用した理由を。

ウォン・カーウァイ監督「この映画は3人で作ろうと初めから決めていました。96年に『天使の涙』のプロモーションでパリを訪れた時、マギー・チャンにばったり会い”しばらく一緒に仕事してないね。そろそろ何かやりましょうか”という話をしました。それからマギーとは随分時間を掛けて話し合いましたね。そしてマギーが言ったんです。”相手役にトニー・レオンはどうでしょう”。それで決まりです」

——時代背景は60年代、登場するのは成熟した男女。主演2人のイメージから生まれたものなのですか。

ウォン・カーウァイ「いえ、むしろ私が2人に抱いていたのは現代っ子のイメージでした。少なくとも外観は現代的です。けれど、その外観から別の気質を読み取ることもできます。彼らが持つ別の気質を探りあてると、60年代のレトロな雰囲気はぴったりとはまりましたね」




——カーウァイ監督と何度か仕事をしたことのあるお2人に。演出方法には何か変化がありましたか。

トニー・レオン「監督との仕事は5度目になります。その度に思うことは常に新しい試みをするひとだということ。今回はモノローグが消え、ロングショットがかなり多くなりました」。
マギー・チャン「お互いに成熟したのではないかと(笑)。題材の選択もより慎重になった感じがします。初めて会った時、監督は実験映画を撮っていました。その頃はーーそうですね、何か撮りたい、と思ったらすぐに撮影に入ってしまうようなタイプだったと記憶しています」

——2人の関係は始まりそうで始まらない。結末に関してどんな解釈を持っていますか。

マギー・チャン「同じストーリーでこれが現代の話ならば恐らく結末は違ったのではないかと思うのです。面子を保つことを一番に考えていたような時代ですから」
トニー・レオン「彼の動機は何か考えたんですよ。彼女に近づこうと思ったのはおそらく、自分の女房を取った旦那への復讐だったのだと思います。ところがその彼女にだんだんと惹かれていってしまう。いつしか罪悪感を感じ、結局は2人の関係に直面することが出来なくなってしまう。そうなるとやっぱり離れていくしかないのかもと思いました」

——監督に。撮影の長期化について。

カーウァイ監督「まず社会的な背景がありますね。香港はちょうど金融危機を迎え、また街並みの変化も早すぎて、60年代を再現するロケーションの獲得が難しかった。本作で語りたかったのは2人の男女のことだけでなく、今の時代で再び見ることの出来ない何か。ひとつの時代、失われたひとつの時代をフィルムに収めてみたかった。心の中では100㍍の短距離走を走っているのに気がついたらマラソンになっていた、という感じでしょうか」



——次回作「2046」について。木村拓哉さんが降板してしまったと聞いてますが。

カーウァイ監督「今回の来日の目的は『花様年華(かようねんか)』なので。ただ昨年末にクランクインする予定だった『2046』は本作の遅れが影響したのは確かですね。2作品が交差した形で撮影され、監督にとっては2人の女性を同時に愛するような辛さを覚えましたよ(笑)。結果的に『花様年華(かようねんか)』の中には『2046』が、『2046』にも『花様年華(かようねんか)』が見えることになるのだろうと。帰国後すぐに撮影に入ります。私にとっては初めて未来をテーマにした映画。また、マラソンになることでしょうね。

執筆者

寺島まり子

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