ロスに住む女優志願の平凡な少女が、体験する散々な1日。『パップス』のアッシュ監督の鮮烈なデビュー作『BANG』は、本作の後『パップス』にも続けて出演している主演女優ダーリン・ナリタさんの等身大の存在感溢れるリアルで魅力的な演技も相まって、現在のロスアンジェルスを活写した作品として、インディーズ映画ながらアメリカで大評判となった作品だ。今回、東京ファンタ2000での『BANG』上映のゲストとして来日を果たしたダーリン・ナリタさんは、ご自身で脚本も書かれるなど映画製作全体に関しても興味を持つ、インディーズ系で注目を集める日系アメリカ人女優です。11月3日の上映前の舞台挨拶時に、今回のインタビューで通訳をしてくださった、『パップス』のプロデューサーでもある奥平謙二氏は、アッシュ監督が彼女を起用した理由(の一つ)に関して、「白人の女優じゃつまらないと感じていた。彼女の祖父は、アリゾナの収容所に入れられていた世代。そのお孫さんが、アメリカのスクリーンに映り女優として脚光を浴びたら、カッコイイじゃないか」と語ったそうですが、実際『BANG』の彼女の演技は、ハリウッドの女優陣からも絶賛されたそうです。そんなナリタさんに、まずはアッシュ監督との出会いから尋ねてみました。



——まず、アッシュ監督の作品に出られることになったきっかけを教えてください。

ダーリン・ナリタさん(以下D.N.)——私は、アッシュの両親が滞在していたホテルで働いていました。その時にアッシュの方から声をかけてきたんです。話が盛り上がって、1時間くらい話しつづけているうちに、彼の方から「貴方は女優なの?」と聞いて来て、「そうよ」と答えると、「今新作のキャスティングをしているんだけど、出てみないかい」…って。それで、オーディションを受けたんです。

——ご自身も脚本を書かれるということですが、『BANG』でダーリンさんはスクリプト・コンサルタントとしてもクレジットされてますよね。これは、ダーリンさん自身が作品のキャラクター設定等に深く関わられていたということでしょうか。

D.N.——脚本はアッシュと一緒に二ヶ月ほどかけて育てていったのです。私たちは、一生懸命守っていかなくてはならない子供に接するような気持ちで、脚本を育てていったんです。それで、彼はスクリプト・コンサルタントというクレジットをくれたのです。


——ロスの描写が実にリアルに感じられましたが、市内の撮影に関して無許可で行われたそうですが、苦労されたエピソードなどありましたか。

D.N.——ロスでは撮影許可を取りますと、現場に警官が1人つくことになるのですが、丁度私が警官のコスチュームを着ていましたので、何をやっているのかと通りかかったパトロールカー等に、私が挨拶を返すとちゃんと許可を取ったプロダクションだから私がいると思ったらしく、向こうも挨拶を返して去っていってしまったんですよ。役の上で制服を着ていたことで、本当は許可なんかなかったのに、許可があるように見える状況を見出していたのね。それから、制服を着ているということは、とても便利でしたよ。例えばトイレに行きたくなった時など、レストランなんかに入っていくととても親切に教えてくれるの。みな、制服には非常に気を配ってくれたんです。そんな時、制服を着ていることのパワーを感じたの。

——まさに、映画を地で行くような状況ですね。『BANG』では、ヒロインが制服を手にしたことによって、彼女自身が事件を積極的に起こすわけではないにしろ、事件を巻き起こしてしまうような状況で、一方次作の『パップス』は銀行強盗に巻き込まれていく役柄でしたね。

D.N.——二本の作品は、プロダクションの規模から全く違いましたからね。『パップス』はセットがきちんと出来上がっていて、仕事をすれば食事もちゃんと出たわ。でも、『BANG』の頃は、朝いきなりアッシュから電話がかかってきて、「今日は撮影だよ。それで、今日は皆の昼食用に何を持ってきてくれるんだい…」ってね(笑)。役柄は『BANG』では穏やかで優しい女性が、そのままだと悪い人の食い物にされてしまい生きていけない。そんな状況をいかに生延びていくかという過程の中で銃と制服を手に入れますが、その力はマスクのようなもので、更に自分自身が秘めていた力に最終的に気づき、弱い女が強い女へと変わっていく物語です。一方『パップス』の方は、むしろ観客の皆さんと同じ目線にあるキャラクターで、銀行の中で起こっている事件を見つめていきながら、心の中ではそこから逃れたいという役柄でした。


——ところで、『BANG』にはジュード・ナリタさんという方が、エグゼクティブ・プロデューサーとしてクレジットされていますが、ダーリンさんとご関係が…

D.N.——ジュード・ナリタは母です。この作品は、当初1万ドルしか製作費が無くて、アッシュから兎に角お金を出してくれたら、エグゼクティブ・プロデューサーのクレジットをあげるよという話があって、私が母に話したところ5000ドルを出資してくれたの。それで、クレジットがつきました。

——ジュード・ナリタさんは、女優としても活動されているようですが、ダーリンさんが女優をされるにあたって影響された部分のようなものはありますか。

D.N.——はい、私はジュード・ナリタという女優から影響を受けています。最初の頃の影響は、母が仕事をしながらニューヨークのステラ・アドラーという演劇クラスで勉強を続けていた頃で、そこへ母について行き外で遊んだりしながら、その場の雰囲気を感じていました。そんな子供のころに「母さんのように、女優になりたい」と言ったそうです。すると母は、「私はステージママみたいになるのは嫌よ。ステージママの悪い面をいくつも知っているし。女優になりたいのなら、お前が大きくなってから自分で女優を目指して頑張りなさい」とアドバイスしてくれたのです。母はプロデュースもやっていますし、脚本を書いていますしし、そういう部分でも影響を受けていますよ。



——変にベタベタしていずに、作品からお見受けするようにいい意味でクールな関係ですね。ところで、今回映画祭で来日されて、ご覧になられた作品で気になった作品などありましたら、教えてください。

D.N.——まず、頭に浮かんだのは韓国映画の『ガソリンスタンド襲撃事件』です。非常に面白い作品でした。ただ、韓国映画や日本映画は英語字幕がありませんから、意味が取りにくかったりしたものもあります。例えば、『天国からの100マイル』は、周りの人は皆泣いていましたが、自分ではよくわかりませんでした。エンディングで母が生きていたことも、きちっと判らなかったりもしましたが、楽しみましたよ。また、これはカネボウ国際女性映画週間の上映作品ですが、『ガールファイト』という以前から観たかった作品を観ることができ、女優さんのミシェル・ロドリゲスさんと友だちになりました。それから『処刑人』もよかったですね。監督のトロイ、プロデューサーのクリスとも友だちになりました。それと昨晩の”Digital@Fanta!”も凄く感激しました。深夜であるにも関わらず、会場があんな時間でも満員の盛況だったのにで、びっくりです。

——最後に、ダーリンさんの新作のご予定などをお願いします。

D.N.——今、脚本を書いたものがありまして『スラム・ゴーダマ』というタイトルです。それを、様々な製作会社にプレゼンテーションしていまして、ベン・スティーラーの会社やスパイク・リーの会社が検討してくれています。低予算作品になるかとは思いますが、できれば来年の春にはクランク・インする形で進め、ライター・プロデューサーとしても作品に関与し、編集権やキャスティングにも影響を持ちたいと思っています。そうして映画と関わりながら、将来的には映画を監督することもやっていきたいと思っています。

——それは、非常に楽しみですね。映画化された時には、是非とも再び東京ファンタの舞台に帰って来てください。お待ちしています。今日は、お忙しい中、ありがとうございました。

2000年11月3日東京ファンタ2000『BANG』上映時、渋谷パンテオン2Fロビーにて

執筆者

HARUO MIYATA