原作は第23回東京国際映画祭で最優秀監督賞と観客賞のW受賞した『サラの鍵』の原作者タチアナ・ド・ロネのベストセラー小説。監督は2004年フランス映画祭出品作品「彼女の人生の役割」を手掛けたフランソワ・ファヴラ。キャストには『クリムゾン・リバー』のローラン・ラフィットや『人生はビギナーズ』『複製された男』などのメラニー・ロランなどフランスの実力派俳優が出演。

物語の舞台はフランス大西洋に位置し、冬に咲くミモザの花から『ミモザの島』と呼ばれるノワールムティエ島。30年間、母の謎の死により心に深い傷を抱えて40歳になったアントワン(ローラン・ラフィット)。だが、重大な秘密を隠すかのように口を閉ざす父と祖母、そして目を背ける妹。“家族は何かを隠しているー”。確信めいたものを感じ、真相を追い求めるアントワンは恋人アンジェルと妹の協力を得て、故郷のミモザの島を調べ始める。映画は30年前の母の謎の死とその裏に隠された「秘密」を覗き見する、大人の為の珠玉のサスペンス・ドラマであるとともに、心の奥底の機微を丁寧に描き出した上質な人間ドラマに仕上がった。


Q:原作者タチアナ・ド・ロネの作品が本作以外にも映画化の準備がすすんでいるそうで、本作を映画化するにあたって敬意と一番、気をつけた点があれば教えてください。

フランソワ・ファヴラ監督:
もともと、家族、家族間の緊張や家族間の秘密というテーマに興味をもっていて、また昔から映画を観ていてその様なテーマにも興味があった背景から、パリに行きつけの本屋さんがあって、その本屋さんの店員さんに、興味があったテーマを探していると伝えたところ紹介されたのが、ロネの書籍でした。
読んでみて、とても良かったのと、彼女の小説ですが、自分の描きたい世界を映画を通じて語る事もできると思いました。
言われるようにフランスだけでなくヨーロッパで人気のある作家さんで、読みやすいけど深いテーマの内容であり、たくさんの方に親しんでいただけるのではないかと思いました。
原作者のロネ本人とも何度か話しをして作りました。
もう一つは、本の中にも幾つかあるのですが、スリラーやヒッチコック的なサスペンス要素が本を読んで感じたのですが、シナリオを書いていてさらに強く感じました。

Q:本作では秘密を探ろうとする人と秘密を隠そうとする人がいるわけですが、その人物が心苦しいと感じるのか、どちらに共感を持ちますか?

ローラン・ラフィット:
真実の追求は苦しいと思いますが、先には進めると思います。ただ、真実が全てとは思っていなくて、完全な価値であるとは思ってません。自分にしか関わらないような秘密であれば明らかにする必要はありませんが、家族の秘密の場合は色々な人が関わるため、影響を考えながら判断すべきだではないかと思います。個人的には秘密は口に出す方です。秘密によって何かブロックされて障害が生じるとか、“言外の意味”などは好きではないですね。私は真実を追求するタイプです。作品でいうなら、妹よりも自分が演じた主人公に近いです。

フランソワ・ファヴラ監督:
皆が可能であったら、毎日同じような小さな幸せでもいいので、ゆったりと暮らしたいというのが本音だと思います。しかし、それが本当に幸せであるかは分からないですよね。家族のタブーとか秘密というのは、避けられない部分で、作品の中を交通事故ではじめたのも、家族の秘密というのはどうしてもついて回るもの、隠せば隠すだけ重たいものになってくるので、精算しない限り、そこに光を当てない限りずーっと追いかけてくるものであり、明らかにする以外、選択肢は無いと思っています。
この物語では、子供の存在が重要で、主人公が自分の抱えている悩みを乗超えるために、主人公が子供として親に悩みを打ち明けるというシーンで大きな流れを作ることができました。よって、子供という存在はとても重要だと思います。

Q:主演のローランさんが役を演じるにあたり注意した、気をつけた部分はありますか?
とくに本作では、繊細な感情表現が必要だったのではないかと思います。
また、監督からは、どのような指導があったのでしょうか?

ローラン・ラフィット:
監督の演出手法は、最初のテイクでは俳優が思う通りにやらせてくれて、必要であれば調整するといった形でした。俳優から提案があれば聞いてくれますし、すごくバランスがよく、我々俳優としてはやりやすかったです。繊細な感情表現は監督と二人で相談して作ったものです。

フランソワ・ファヴラ監督:
自分がシナリオを書いている段階で、細かい感情表現など、これくらい必要だろうと思っていた部分などは、ローランと二人でシナリオを読む時間を作って、調整して詰めていくという感じでした。
撮影現場でローランや他キャストからも提案があれば話を聞いて、どれくらいの感情が必要なのか、調整しました。また、編集の段階で感情表現に強弱をどうつけるかを調整しました。

Q:撮影場所であるノワールムティエ島についての感想をお願いします。

フランソワ・ファヴラ監督:
原作に実際に登場する島です。一般的に、フランス人がバカンスで訪れる島です。私はロケハンに行くまでは、一度も行ったことがなく、本に登場するだけあって、驚きと魅了されました。
ヒッチコックの『レベッカ』を思わせるような断崖絶壁に立つ家々、繁る木々の迫力に、撮影できたら凄いだろうなぁ一と思いました。また“ゴア通路”は、確か、ヨーロッパでは、潮の満ち引きで消えたり現れたりする道路としては、最長のはずです。

Q:有名な観光地で撮影は大変ではなかったでしょうか?

フランソワ・ファヴラ監督:
そうですね。撮影期間を4月〜5月の人が少ない時期に行いました。
イースター(復活祭の記念日)の週末が気になったのですが、アシスタントのスタッフがいつ人が少いか、綿密に調べてくれたので、人の少いビーチで撮影できました。8月なんかに撮影していたら大変だったと思います。

Q:全編通して、惹きつけられるようなエモーショナルな作品でしたが、心に残るシーンはありますか?

フランソワ・ファヴラ監督:
作品の中でこのシーン、というより、いま質問されたように観客が、最初から最後まで惹き付けられ、エモーショナルだと言われるようなシーンが、私にとっては一番のシーンです。(笑)

ローラン・ラフィット
自分が登場はしていないのですが、メラニー・ロラン演じた妹のアガットと父親が墓地で言い争いをするシーンと、教会のシーンです。父親をもう擁護出来ないというシーンです。

Q:本作に込められた最も伝えたいメッセージとは何だと思われますか。

フランソワ・ファヴラ監督:

観客に問題を提起することです。この作品を見た人で、自分に相談される人がいました。私には何も出来ないのですが・・・。こんな家族もいて、問題を抱えているんだなぁ。そして乗り越えているんだなぁと問題提起が出来てよかったです。

ローラン・ラフィット
映画は伝えたいことを伝えますし、あとは観る人が解釈し、判断することだと思います。解釈は人によって違うので、これでないといけないというメッセージは無いのではないでしょうか。

Q:日本の観客にメッセージをお願いします。

フランソワ・ファヴラ監督:
2004年のフランス映画祭で来日した時に鎌倉に行ったことがあって、とても素敵な街でした。今回が2回目の来日で、京都に行きたいと思っていますが実現していません。
20歳の時、川端康成の作品を読んで遠い国の人が書いたのに、なぜ私はこの人の気持ちが分かるのだろうと思いました。同じように日本の観客の皆さんにもフランスの映画の話なのに、なぜ気持ちが分かるのだろうというふうに観ていただければと思います。

ローラン・ラフィット
日本映画は、家族をテーマにした作品は多いと思いますが、フランス映画で家族をテーマにしたらどんな作品になるのかと観ていただければと思います。家族間の問題は世界中の人が経験する普遍的なテーマだと思います。もう一つ、本作には同性愛というテーマもありますので、国・地域に関わらず、タブーとなっているテーマですから、そこも注目していただきたいです。

執筆者

Yasuhiro Togawa

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