韓国で初登場ボックスオフィスNO.1獲得!韓国全土を震撼させた驚異のサイコスリラー『ミッドナイトFM』が5月26日(土)より新宿武蔵野館、シネマート心斎橋にて公開となります。(ほか、全国順次公開)
本作は主演に母親役のスエ(『夏物語』)、そして『オールド・ボーイ』以来、強烈な殺人鬼を演じるユ・ジテと韓国を代表する演技派俳優が競演。スエは、本作でスリラー初主演にして、見事、韓国のアカデミー賞といわれる青龍賞映画賞にて主演女優賞を受賞し、名実ともにトップ女優の仲間入りを果たしました。監督は本作が2作目というキム・サンマン。冒頭からエンディングまで一瞬たりとも息をつかせぬ見事な演出で、ある日の深夜に起こる恐怖を描きます。



── この作品を監督されたきっかけは?
キム 私の監督デビュー作『ガールスカウト』(08)はコメディと犯罪映画が混ざったような作品でしたが、私自身があまりコミカルな性格でないせいか(苦笑)、個人的には悔いの残る仕上がりでした。だから次回作では自分の好きなジャンル映画に挑戦したいと思ったんです。そんな時、たまたまプロデューサーから本作のシナリオを手渡され、読んでみたら内容的にも気に入ったので、監督をすることになりました。

── 最初に渡された脚本と、完成した映画との間で、何か違いはありますか?
キム 切り離されたふたつの空間にいる人物を対比させながらスリルを盛り上げていく、という基本的構造は変わっていません。ただ、初稿の段階では今よりもっと大勢の人が凄惨に殺されるホラー映画的な内容だったんです。そこから自分の好きなスリラーに寄せていき、メディアと受け手の関係というテーマを加え、改稿を重ねました。さらに、これは非常に珍しいケースだと思いますが、撮影中にラフな編集映像を観たスポンサーの方が仕上がりを気に入ってくれたらしく、「もっと出資するから内容をスケールアップしてくれ」と言われたんです(笑)。後半のカーチェイスのくだりは、元のシナリオにはなかった場面です。そういう新たな追加シーンを撮影の合間に考えなければならず、とても大変でしたね。

── 主演のスエさんはどんな経緯で起用されたんですか?
キム 主人公のコ・ソニョンは元ニュースキャスターという設定なので、知的なイメージがあり、磨かれた声の持ち主という条件がありました。そのためキャスティングの幅がだんだん狭まっていったんですが(笑)、最終的にはどちらの要素も兼ね備えたスエさんにお願いすることになりました。韓国では彼女に対して「落ち着いていて優雅で清楚」というイメージがありますが、そういう先入観を払拭したいという本人の希望もあり、また私も彼女に巷のイメージとは異なる「芯の強さ」を感じていたので、本作ではその内なる強さを存分に表現してほしいと思ったんです。── 悪役にユ・ジテさんを起用された理由は?
キム シナリオの仕上げ段階で、ハン・ドンス役として真っ先に思い浮かべていたのが、ユ・ジテさんでした。劇中でドンスは詭弁を用いますが、それを聞いた時に相手が思わず納得してしまうような説得力が欲しいと思ったんです。もちろん台詞の内容も重要ですが、それを喋る声自体にも魅力がなければならない。ユ・ジテさんは韓国ではドキュメンタリーの語り手を務めるほど魅力的な声の持ち主ですし、画面に出てくるだけで優しさが伝わるような存在感のある俳優です。私は劇中でハン・ドンスの過去について全く説明しないつもりだったので、出てきただけでオーラを見せつけるような俳優が必要だと思い、彼に出演をお願いしました。

── 脇を固めるキャスト陣も魅力的ですね。
キム ドクテ役のマ・ドンソクさんは、この映画のプロデューサーと知り合いで、企画を知った時から「自分も何かの役で出たい」と言ってくれていました。ただ、私自身はその時点で、刑事や暴力団員といったタフな役柄を演じていた印象しかなかったんです。ところが実際に会ってみると、意外にもユーモアや優しさを感じさせる方で、まさに見た目と中身がアンバランスなドクテ役にぴったりだと思いました。同じく、屈折したプロデューサー役のチョン・マンシクさんも、それまで抱いていたイメージと、実際に対面した時の印象の違いが面白くて、これまでにやったことのない役柄をお願いしたんです。

── 今回の作品では、メディアと受け手の間に起こりうる問題が描かれていますが、それはリアルな社会問題だと思われますか。
キム 今の質問の中に、おそらく本作の答えが隠されている気がします。この作品は、きっと観る人の立場によって感じ方が違うはずです。メディアの仕事に携わる人や、クリエイティブな仕事を生業とする人は、自分たちが世に出したものが他人にどう受け入れられるのか、どんな影響を与えるのかを考えながら観てくれると思います。逆に、それを受け取る側の人たちは、メディアが発信したものを闇雲に受け入れてしまった時に生じる「副作用」について考えながら観てくれるでしょう。かつてのメディアは発信する側からの一方通行でしたが、今はインターネットや移動通信が発達したことによって受け手も活発に意見を言えるようになり、互いに大きな影響を及ぼし合う関係になりました。そんな時代に我々はどのようにメディアと接していけばいいのか。そんな趣旨で私はこの映画を作りました。

── 監督はその関係の中に、ある種の危険性を感じていますか。
キム クリエイティブな立場にいる人間が大衆に向かって何を送り出すのも、私自身は自由だと思います。逆にその自由を奪ったり、抑圧するのはよくない。だからこそ、受け手もちゃんと主体性を持ち、批判精神をもって受け取れば、メディアのあり方も互いの関係性も、健全に発展していくのではないでしょうか。

執筆者

Yasuhiro Togawa

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