インディーズながら驚異的なロングヒットを記録した『SR サイタマノラッパー』シリーズ、時代を象徴するロックンロールムービー『劇場版神聖かまってちゃんロックンロールは鳴り止まないっ』で、映画ファン&音楽ファンを熱狂させ、一躍時代の寵児となった入江監督の最新作がいよいよ劇場公開。シリーズ第3弾にして、北関東三部作の完結編となる本作は、舞台を栃木に移し、男たちの壮絶な再会と夢の果ての物語が描き出される。インディ規模では、類をみない巨大フェスシーンロケ。炸裂する切れ味鋭いラップ・ミュージック。ラストの驚異的な長回しなど、映像表現の臨界を突破した、怒濤の音楽エンタテインメント映画が誕生した。

そして本作には、主人公・マイティの前に立ちはだかる人気ユニット“極悪鳥”のメンバーMC林道に、カルトムービー『ムカデ人間』で脚光を集めた北村昭博も参戦。混迷、閉塞極まる現代社会をあがく主人公たちによる、鬱屈を掻き消す熱いライムが観る者を圧倒する。そこで今回はアメリカから来日したばかりの北村昭博と、入江監督の両名にインタビューを敢行した。



−−二人の出会いは2010年のゆうばり国際ファンタスティック映画祭でしたね。

北村:そうです。そのときはもう入江君はスター監督だったんで、ゆうばりで一番仲良くならなきゃいけない人は入江君だった(笑)。ぼくはハリウッドでもそうなんですけど、出たいという監督のそばに行くようにしているんです。そうしたら初日に一緒に飲めることになって……。

入江:その日は夜を徹して飲みました。同い年ということで盛り上がりまして。

北村:同い年だと共通点もありますからね。

入江:実はその前に、ある雑誌で北村君の記事を見たことがあって、彼のことは知っていたんですよ。僕と同い年で、夢を追いかけてアメリカに行っている人がいると。だから、ゆうばりで会ったときは、「あ、北村君だ」と。

北村:そう言ってもらえるとうれしいですよ。僕は映画監督を志してアメリカに行ったんですけど、『SR サイタマノラッパー』を観たときの衝撃は半端なくて。クオリティが高くて、何度も泣かされた。分かるんですよ、こいつには勝てねぇなって。

入江:ぼくもアメリカ映画を観て育ったんで、実は高校を卒業してからニューヨーク大学(※1)を受験しようと思って資料を取り寄せたんですけど、ニューヨーク大学の映画学科って4年制の大学を卒業しないと入れないらしくて。募集要項を読んでこりゃダメだと。だから、北村君の記事を読んだときはとんでもない奴ががいるなと思って。北村君に対してはそういうリスペクトの気持ちがあったんですよね。
 それから1年後くらいたって、『ムカデ人間』で北村君が華々しく日本に凱旋してきて。映画が大ヒットしたんで、僕もトークショーに呼ばれたんですよね。

北村:そのときは3があるかどうかは知らなかったですけど、たぶんあるだろうなという予感があったので、トークショーの最後の最後で、ラップを披露しますと。満員のお客さんの前で『SR3』の公開オーディションですと言ったらプレッシャーがかかるじゃないですか。ここでぶちかましとかなきゃいけないなと思って。

入江:そうそう。いきなり満員のお客さんの前で歌いだしてね。そうしたら、お客さんもワーッと盛り上がっちゃってね。これは後にひけないなと。

−−するとあのトークショーがきっかけになったわけですか。

入江:そうですね。ちょうど脚本を書いていたんで。ちょうどいいキャラクターがいるなと思って。もう彼はアメリカに帰っていたんですけど、またアメリカから日本に来れないだろうかとオファーして。

北村:トークショーのときには、「ニューヨーク編があったら、そのときに出てください」なんてテキトーなことを言ってたんで、もうないのかなと思ってました。でも、あのラップをしてから空気が変わったのを感じましたね。

入江:トークショーが去年の7月。で、サイタマノラッパーの撮影が9月からだったんで。撮影の1ヶ月前に来てもらって、役作りからずっとやってもらいました。

北村:いや、厳しかったですよ。ラッパーになるための役作りから鍛えられましたから。育ててもらったと言ってもいいくらい。リハーサルのときも涙目になりましたからね。縦の動きが重要だと言われて、稽古場で「さんぴんキャンプ」(※2)という伝説的なDVDをずっと観ていました。

入江:ぼくが10代のころにあったライブで、ヒップホップの伝説的な人たちが勢ぞろいしているDVDがあったんですよ。

北村:それを観ながらずっと縦の動きをやらされて。やっぱりラッパーになるには、そこから始めなきゃいけなかったんで。それから歯のアクセサリーをはめさせられたり、杖をつかさせられたりもした(笑)。

入江:やっぱりキャラだちしてほしいじゃないですか。登場人物もたくさんいるんで。ワン・オブ・ゼムになってほしくないというか。これもいいんじゃないか、あれもいいんじゃないかとやっていたらだんだん楽しくなってきちゃって。どんどん足していった。

北村:でも、監督からそうやって個性を引き出してもらえるのは役者冥利につきますよ。ただ、歯のアクセサリーをつけると滑舌が悪くなるんですよ。これ、俺の日本映画デビューなんで、滑舌の悪い役者だとな思われるかもしれないなと思って、すごく不安だったんですけど、入江君は「北村君は声がでかいから大丈夫だよ」って。それを信じてやりました。

(※1)ニューヨーク大学:ニューヨーク市にある私立総合大学。芸術学部映画学科は世界的に有名で、マーティン・スコセッシ監督、スパイク・リー監督、オリバー・ストーン監督など、数多くの映画監督や有名俳優を輩出している。

(※2):1996年7月7日に日比谷野外音楽堂で開催された伝説的なヒップホップイベント。ECD、YOU THE ROCK、LAMP EYE(KAMINARI-KAZOKU.の前身)、ZEEBRA(キングギドラ)、Rhymester、DEV LARGE(BUDDHA BRAND)、SHAKKAZOMBIE、SOUL SCREAMといった日本のヒップホップアーティストが多数集結。日本で初めて大会場で開催されたヒップホップイベントとして位置づけられている。



−−もともと日本の映画に出たいと言っていた北村さんですから、日本映画デビューが入江監督の作品というのは幸先のいいスタートとなったんじゃないでしょうか。

北村:夢がかなってよかったです。最後のフェスシーンまで、ぜんぜんほめてもらえなかったんですけど、最後に「北村君すごかったよと」と言われて。俺、号泣したんですよ。普通の映画で監督に一回だけほめられて号泣するなんて絶対にないじゃないですか。幸せな経験でしたね。なかなかないと思いますよ。俺だけでなく、みんな泣いてましたから。

入江:クライマックの撮影での盛り上がりは、僕の映画人生の中でも、ないだろうなという感じですね。一体感がありましたから。

北村:大の大人がみんなでハグしたり、泣いたりするなんてなかなかないですよ。入江君には本当に感謝しています。入江君に嫉妬して何か言うやつがいたら、俺が行ってしとめるというか、鉄砲玉になります(笑)。

−−鉄砲玉といえば、先日発売された「SR」本に掲載されていた中森明夫さんの評論が、東映の仁侠映画との関連性を指摘しており、鋭い指摘だと思ったのですが。

入江:僕は昔から東映の仁侠映画というか、プログラムピクチャーが好きなんですよ。

−−北村さん演じるMC林道の極悪ぶりに思わず拳を握ってしまって。だからこそ主人公のマイティが林道に反撃するシーンは、鶴田浩二さんや高倉健さんが殴り込みに行くシーンに通じるカタルシスがありました。

入江:もろに影響を受けてるのは『仁義の墓場』なんですが、『仁義なき戦い』の山守親分もありますよね。ああいう悪役に徹してくれる人が今の日本映画には少ないんで、そういう意味で北村君はパワーがありましたね。

北村:ただ、ツイッターなんかでも、(IKKUとTOMが出会うラップユニットの)征夷大将軍がものすごく愛されてるじゃないですか。それなのに(MC林道が所属する)極悪鳥は、マイティをあんな風にして、とめちゃくちゃ嫌われてて。結構へこみましたもん(笑)。

入江:でもね、やはりちゃんと憎まれる悪役がいないと、映画って面白くならないんですよ。アメリカ映画ってちゃんと悪役は悪役としてあるじゃないですか。もちろん『ダークナイト』のヒース・レジャーみたいに、めちゃくちゃキャラが立つときもあるし、典型的な悪役になることもあるけど。そこはパワーが必要なところなんですよ。

北村:だから今回は『仁義なき戦い』を観るようにと言われたんですよ。あの当時の役者さんはギラギラしてるじゃないですか。すごい勉強になりましたね。最初に脚本を観たときに、「おぅ!」と言っているところの意味が分からなかったんですが、『仁義なき戦い』を観たら、ああ、なるほどねと。

入江:昔の東映の任侠映画って短い時間の中で、ものすごくドラマが凝縮されていて、無駄がないんですよ。あれは職人技ですよね。あれは日本映画のひとつの到達点だと思っています。

−−ところで後半のマイティの衣装。腹巻して、帽子をかぶってというのは。

入江:あれは寅さんです。僕は昔のテキヤみたいな、ああいうのが好きなんですよね。東映の『仁義なき戦い』シリーズや『トラック野郎』の衣装を参考にして、どれがいいかなと考えたんですが、最終的には寅さんがいいだろうということになりました。

−−ある意味、彼も柴又からの逃亡者ですからね。

入江:この映画には美保純さんが出ていて。彼女も寅さんに出ていた人ですからね。

−−たこ社長の娘の。そういう目配せもあったんですね。ところで今回の新作は、前半はマイティのハードな物語で、後半は今までにテイストが近い、IKKUたちの物語という構成でした。それはどういう意識があったのでしょうか。

入江:それはやはり震災以後の意識の違いが出たからですね。2009年あたりから、サブプライムや、アメリカの格差の問題が出始めてきて、日本でもスラム的なところをバックボーンにしたラッパーが増えてきたんですよ。その極め付けが2011年の震災。生きるか死ぬかみたいなところがむき出しになって。今、映画を作る意味はどういうことかと考えましたね。でも、今までのぬるま湯的だった田舎の息苦しさだったものが、生がリアルにむき出しになったところはあって、そこから脚本を書けるようになった部分があります。



−−続編の作り方にもさまざまなバリエーションがあると思います。1の主人公であるIKKUとTOMを狂言まわしに、新たなキャラクターを主人公にした物語が2だとしたら、3は、1の登場人物であるマイティを主人公にした物語となっていました。そこに込めた思いというのは何だったのでしょうか?

入江:ここ数年、僕はインディペンデントで映画を作ってきた一方で、テレビなどのメディアで、松田龍平や藤原竜也といった名のある俳優たちとの仕事もしてきました。そういったメジャーとインディペンデントを行ったり来たりしている中で、どちらが正解なんだろうと思ったんです。これからもっと大きな予算でやることを目標にする方が正解なのかもしれないし、インディペンデントで自分のやりたいことを追求していく方が正解なのかもしれない。それはまだ答えが出てないので、映画の中でも答えを出してはいないですが。

 SHO-GUNGのIKKUたちはある種インディペンデント。ローカルな場所でコツコツやっていくタイプですよね。一方のマイティはいきなり東京に出てきて、シーンのど真ん中に入っていくというのが、ある種のテーマだったんです。そういう意味では、北村君には、メジャーど真ん中のところを演じてもらったという面はありますよね。

−−自主制作というと、良くも悪くも、ある種閉じたところで完結してしまう作品が多い中で、お二人の活動は人を楽しませたいことが根っこにあって、エンターテインメントとして開かれているように感じるのですが。

入江:実際、僕も『ターミネーター』で育った人間ですから、目標はそこなんですよ。今のスピルバーグのようなところまで行きたいと思っているんです。だから閉じている暇がないというか。北村君もアメリカに行っているんで、似たようなところだと思いますが。

北村:入江くんがハリウッドで撮る作品に出たいですよ。100億円くらいの予算で好きなことをやってもらって。

入江:日本って、いっても予算は30億円くらいじゃないですか。もちろんそこでできる、日本映画ならではの豪華な絵作りというのはあると思いますけど。僕はスピルバーグの『宇宙戦争』が大好きで。あれこそ究極の自主映画だと思うんですよ。あれはスピルバーグがやりたいことを自分のプロダクションを使ってやったと思うんです。そういうのが夢ですよね。最近のタランティーノやピーター・ジャクソンもそうですね。だったら一気にそういうところを目指した方が夢があると思うんですけどね。

−−入江さんなら、もう少し、バジェットの大きな作品をという声もあるんじゃないですか。

入江:ぶっちゃけて言うと、大きなバジェットの日本映画のオファーはありません。むしろ、小さなこのクオリティの話が撮れるなら、ということで、似たようなバジェットのオファーが多くなっています。

−−そういう思考なんですか。

北村:たとえば『(500)日のサマー』を撮った監督(マーク・ウェブ)が、すぐに『アメイジング・スパイダーマン』を撮るわけじゃないですか。アメリカは、インディーで個性を出した奴はしっかりとメジャーがすくいあげてくれるんですよ。それで自分の色を出せるじゃないですか。それがないのは問題だなと。入江君は、すごいバジェットで大きなことをやるべきだと思う。

−−宣伝についても聞いておきたいのですが。自主制作の場合は、有名な俳優が出ているケースは少ないため、宣伝が難しいという側面があります。そういう意味で『SR サイタマノラッパー』シリーズの宣伝のやり方というものは、自主制作などで上映をする人たちのモデルケースとして興味深いものがあります。

入江:僕らは、ヒップホップを聴かない人や、映画を観ない人にこそ、むしろ見てもらいたいと思って宣伝をしています。昨日も原宿で宣伝をしたんですけど、下にジャニーズショップとかあるわけですよ。もちろんジャニーズの人が一人でも出ていたら、ちょっとは宣伝のやり方も違ったんだろうなとは思いますけども。でもやはり持たざる者として、思いついたことは全部やればいいと思うんです。やらないと後悔しますからね。工夫次第でなんともなると思うんで。

−−主演のマイティさんを筆頭に、スタッフのみなさんの映画を観てもらいたいという熱量を感じます。

入江:映画館で観てもらうために作っているのに、「DVDで観ます」とか「見逃した」とか言われたら悔しいじゃないですか。映画館で観るとそれなりの発見があるんで。

北村:ディテールも半端ないですからね。

入江:今回も予算を度外視して、(音響も)5.1チャンネルにしちゃったんで。クライマックスのフェスシーンをワンカットで15分くらいでやっているんですけど、これは5.1チャンネルで四方八方から音を出したいなと。劇場に対応させて作ったので、ぜひ劇場で観てもらいたいですよね。

−−それではこれから映画を観る人に向けてメッセージを。

入江:作り手側からいえば、最後のフェスシーンはある種の音楽映画の到達点だと思っているんです。『ソラニン』や『BECK』といった映画がやらなかったことをやりたかった。いわゆる演者がステージから下の客席に向かって歌って、映画のクライマックスにするという図式を壊したくて。
あのシーン、かなり豪華なんですよ。ステージや屋台のセットを組んでいるんですけど、それをすごく豪華に使っていて。ステージなんてあまり映らないですからね。それはフェスシーンだけど、違うクライマックスシーンにしようと。

北村:エキストラさんも共演者ですからね。完全に芝居をつけてましたから。

入江:あのシーンはエキストラも芝居をしてないと成立しないシーンだったんで。ステージで歌っているのを聞いて、ワーッと盛り上がるだけでは成立しませんからね。あのクライマックスのフェスシーンは是非観てもらいたいですね。

北村:入江君の映画のすごいところは、カメラが向いていないところでいろんなことが起きていて、映画館で観ないと分からないことがたくさんあるんですよ。これ映画館で観ないと一生後悔すると思います。心にズシンとくるものもありますし、映画館でお客さんが見終わった後で震えてたりしていますからね。一生の宝になる映画だと思います。

執筆者

壬生智裕

関連作品

http://data.cinematopics.com/?p=49686