映画は、ダンサーたちが集う船上ダンスのシーンから始まる。ジャマイカで最も偉大なダンサーと言われるボーグルが、銃殺されたのは、2005年1月の夜の事だった。
フランス人であるジェローム・ラペルザ監督は、80年に世界的人気を誇るレゲエ・アーティストサードワールドのドキュメンタリー『Third World -Prisoner in The Street』を監督して以来、ジャマイカのレゲエ・アーティストたちと信頼関係を築いてきた。
今回の『メイド・イン・ジャマイカ』には、エレファント・マン、バウンティ・キラー、サードワールド、グレゴリー・アイザックスといった、人気アーティストたちはもちろん、アレーン、クーラントなどの新鋭アーティストたちも登場するのは、長年レゲエシーンを追い続けてきた監督ならではの幅広さ。
彼らはカメラの前で、パフォーマンスでは見る事のできないくつろいだプライベートな姿で、ジャマイカのありのままの様子を語る。貧富の差、性差、暴力—。
そこには当事者たちだけが知っている、徹底したリアルがある。
様々な思いがビートに乗り、レゲエという音楽に集約する時の圧倒的な生命力とパワーが生まれる瞬間をスクリーンで表現する事に成功したジェローム・ラペルザ監督にインタビュー。レゲエを30年間という間、見つめてきたという熱き思いを伺った。


——この作品を通して伝えたかった事、そのテーマが決まった経緯は?

「レゲエというのは、色々な要素からできています。アーティストたちはゲットーの出身であり、音楽もゲットーから出てきました。そこで、まずゲットーの問題について語っていこうと思いました。
基本的に、レゲエというのは闘争の音楽であり、反逆の音楽です。そういったものを集めて扱っているという事がユニバーサルな意味で人々に伝わっていくのではないかと思います。
まず、ジャマイカというテーマ自体がやる価値があるのではないかと思います。レゲエはアメリカ、フランス、オーストラリア、ブラジルなど世界中に広がっています。
ボブ・マーリーの音楽というのは、音楽界のチェ・ゲバラのような存在であると言えます。この音楽は三世代に渡って伝わり、60代のボブ・マーリーの世代、30〜40代の人たち、そしてティーンエイジャーは部屋にポスターを貼っていたりする訳です。
そういった意味で、この『メイド・イン・ジャマイカ』という映画を作る価値があったのではないかと思ったのです。
レゲエというのは、新しいテクニックとして生まれている訳ですよね。そもそも、テクノロジーをもって生まれている。ロック以外では、音楽の世界では最も広がった音楽だと思います。音楽は、それを新しいメディアとして選んでいきました。
ジャマイカにいる彼らが、どこから来たのかという事も大事で、例えばアフリカからの奴隷がアフリカから引き離されてしまった時に、彼らはアイデンティティを破壊されてしまいました。そして、自分たちのアイデンティティーを、音楽を通して探っていったのです。それをどうやって見つけていくかは、社会的な発言で、音楽をとおして自分たちの日常を語る事によってなされていきました。
ダンスにも言える事で、ある意味のメッセージとして社会的に彼らが言いたい事が伝わっていくのです。」

——この作品を撮った事で、レゲエへの印象に変化はありましたか?

「実際は変わらないですね。やはりレゲエを自分が30年間見つめてきて、作品を作り続けてきたからでしょう。
私が撮った『Third World -Prisoner in The Street』という映画は、カンヌで80年に上映され、世界的に配給され大きな成功を収めたのですが、この作品を踏まえたうえで、今度はより大きなスクリーンで発表したかったのです。
今に至ってこの作品を撮ろうと思ったのは、レゲエが世界的な現象になってきており、これは描くべき価値があるのではないかと思ったからです。
観客は、音楽に対して心地よさを求めて身を任せる事もできますが、有名なアーティストが沢山出演している中で、例えばゲットーの叫びのようなものがあったり、様々な音楽があると思います。
70年代にそういったものを感じて撮ってきましたが、ジャマイカという国自体は現在もあまりよくなってはいません。とても美しい国で、こんない小さな島から世界的に伝わるものが出てくるのは凄い事だと思います。
ジャマイカは世界の実験場のようなもので、グツグツと煮えたぎる中で生まれるもの、それは大きな矛盾を抱えていて、それは宗教だったり、犯罪、暴力、ダンス、ボディ・ランゲージ、エロスとタナトゥスが共存しているような状況で、様々な要素が音楽から感じられます。」

——自転車に乗った男性が“セラシエ・ラスタファイ”と言っていますが、あの言葉の意味は?

「マーカス・ガーフィという人が、“アフリカの奴隷制度などの歴史をふまえて、アフリカの王が王として君臨する事となり、その人を見よ。その人が、アフリカの民を、アフリカへといざなってくれる人間であり、その人の目を見よ”という予言を行っています。実際に、アフリカで皇帝となり、ヨーロッパでも予言された人物の存在が認められました。人権問題や平等を認めようという振る舞いを大切にしようという意を込めて、アーティストたちが支持して広めていった言葉が“セラシエ・ラスタファイ”なのです。
ボブ・マーリー、サード・ワールド、トゥー・ハーツ、グレゴリー・アイザックなどや、新しい世代たちも敬虔な信者として意識的なレゲエという意味で使っています。」

#——日本公開に際してメッセージをお願いします

「日本の観客の方たちには、音楽好きな方だけではなく、そうでない方にも楽しんで頂けるのではないかと思います。彼らがどういう人間か、理解できるのではないでしょうか。ジャマイカのポートレイトでもありますし、第三世界についてのポートレイトでもあります。ゲットーで起きている事の表現でもありますし、それが全て音楽によって体現されています。人々の声が存在していて、それが世界中に伝わっていくという事を理解して頂けるのではないでしょうか。
アートの世界というのは、とてもリアルで、より近くにあると感じて頂けるのではないでしょうか。」

執筆者

池田祐里枝

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