誇りや品格を忘れてしまった現代。岡田資の誇り高く生きる姿に込められたメッセージ=次の世代への「遺言」。今この時代に一石を投じる、潔く人間味溢れる映画の誕生である。

『雨あがる』から『阿弥陀堂だより』『博士の愛した数式』と、日本中に温かい優しさと感動を届けてきた小泉堯史監督。満を持しての映画化となる本作『明日への遺言』の原作は文学界の巨匠・大岡昇平の名著「ながい旅」。

理想の上司No.1ともいえる岡田中将を演じるのは「この役に運命を感じる」と力強い意気込みで挑む藤田まこと。第四十二回文化庁芸術祭・芸術祭賞をはじめ数々の受章暦に裏付けられたと演技力と存在感で、外国の弁護人、検察官、裁判官を相手に堂々の裁判を戦い、人間の優しさと厳しさ・人生の機微を見事演じきる。「法戦」に挑む夫を見守り続ける妻・温子役には、06年『フラガール』で各助演女優賞を受賞、07年紫綬褒章受章が記憶に新しい富司純子。夫を凛々たる態度で支える妻を表情と佇まいのみで表現する難役でありながら、スクリーンで圧倒的な輝きを放つ。裁判の証言者として西村雅彦、蒼井優、田中好子らが参加、静謐ながら堂々とした演技が胸を打つ。そして『冷静と情熱のあいだ』以来6年ぶりの映画参加となる竹野内豊がナレーションに初挑戦。

フェザーストン役には『GODZILLA』『エンド・オブ・デイズ』のロバート・レッサー。敗戦国の岡田資を弁護する米国主任弁護人を熱演。バーネット主任検察官役にはあのスティーヴ・マックィーンの息子、フレッド・マックィーン。俳優に転進後『ローレライ』に続き2本目の映画出演となるが、その演技力とスター性は必見。裁判長のラップ大佐役をリチャード・ニール。裁判中の駆け引き、岡田の判決を下す表情が素晴らしい。

今回はこのアメリカ人キャスト3人のインタビューをお届けしよう。







日本の映画に出るということについてはいかがでした?

ロバート・レッサー(以下、ボブ)「日本の映画だと聞いて、何の躊躇もなかったですね。日本に行ったこともなかったし、アメリカ以外での撮影経験もなかったので。エージェントからこの話があったとき、いい経験になるだろうと思って、オーディションを受けました」

リチャード・ニール(以下、リチャード)「小泉監督は黒澤明さんの助監督を20数年間やられていた方だとキャスティングディレクターから聞いて、余計興味深くなったんですよ。伝統的な黒澤組と一緒に仕事が出来るというのが頭にあったので、参加させてもらったんです」

フレッド・マックィーン(以下フレッド)「最初のうちは日本で撮影されるなんて知らなかった。オーディションに行ったときに初めて、これが日本で撮影される映画だと知らされた。ただ、オーディションは一生懸命やったんだけど、最初はエキサイトしなかったんだ。だからおそらく自分にはこの役はまわってこないだろうなと思った。たぶん他の人に決まるだろうなって。
 実は自分が日本に行くと聞いて、エキサイトしなかった理由というのが、私が大の飛行機嫌いだからなんですよ(笑)」

台本を読んでどうでした?

ボブ「台本を読み始めたときに、これは事実なんだと聞きました。戦争の後という大変な時代で、こんな皆に平等な裁判が行われていていて、被告人も平等に扱っていたのかということに感動したわけです。アメリカ人として、当時のアメリカの法制度の公平性に関心を持ちました」

フレッド「自分も台本を読んで驚いた。ドイツのニュールンベルグ裁判では、一般市民が法廷で悲しい話を語ることは許されてなかったと思う。それとは違って、日本では一般市民の被害者を裁判に連れてくることが許されたために、ものすごく平等な裁判が行われたと思う。だからこそ、自分がやったことが正しいと信じきっていた岡田を、私が演じた検事は絶対に有罪にしたかったのではないかと思った」

弁護士役のボブさんにとって、検事役であるフレッドさんとのバトルはどうでした?

ボブ「フレッドはもちろん、役柄の上で岡田被告を有罪にすることに一生懸命になっていたわけです。そして私の側は、彼を守らなくてはいけないと。そこは結構、感情的になってましたね。
 ただ、ふたりの間でリハーサルをしたわけではなかったんです。それでも二人でやりあった部分はテンションの高いシーンになったと思います」

フレッド「台本を読んでいたから、もちろん最後にどうなるかは分かっていた。だから演じている間は頭にきていたんだ。弁護側を軽蔑するようになった。もちろん彼らだけでなくて、裁判官などに対しても頭にきた。どうしてこういう事件を許すことが出来るのか、と考えるとね。それは60年前に起きたことだし、今となっては歴史を変えることは何も出来ないんだが、そういった怒りを演技に役立たせることが出来たんだ」

リチャードさん、裁判官の立場としては?

リチャード「基本的に私の役はあまりセリフはなかったんでね(笑)。ただ、役者として大切なことのひとつとして、聞くことがある。相手がやっていることを聞く、見る、ということだね。二人のやりとりを通じて、裁判官の考えが変わっていく、ということも大切だと思います。
 特に今回は、小泉さんが順撮りで、時間経過に沿って撮影を進めてくれたので、私たちのキャラクターも少しずつ発展させることができた。ボブと藤田(まこと)さん、弁護人と被告人の関係が深くなんっていくのが分かったし、それを観察することが出来た。被告人の奥さんである富司さんがいつもそこにいたように、いろいろなドラマが法廷内にはあった。そういう風に、どういう風にキャラクターが発達していくのか観察することも、自分の仕事であったと思います」

小泉監督の現場はどうでした?

ボブ「毎日現場に来て、好きなことが許された自由な現場だったと思います。それだけの自由を与えられたからこそ、自分に課せられた責任感も大きかったかもしれないですね」

リチャード「自由はものすごくあったけども、当然、締めきりはあるわけですよね。でも、スタッフみんなきちんと準備をしていたし、小泉さんもきちんと準備をしてきたわけなので、彼らの動きはテキパキしていました。しかし、助けが必要になったときには、常に小泉さんが相談に乗ってくれたんで、そういう意味では助かりました」

フレッド「とにかくセットがとても気に入ったんだ。そのセットに入ると、容易にその世界に入ることが出来るからね。
 ただ、僕はこのふたりほど自由を感じなかった。それは軍人の役立ったからね。叫ぶことも出来ないし、飛び跳ねることも出来ない。軍人は軍人らしく、ちゃんと仕事をしなければいけないからね」

執筆者

壬生智裕

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