「冗談半分で『脚本書きますよ』なんて話をして、冗談半分で『哀川さんと浅野さんにやらせたら面白いよね』なんて話をしていたらそれが本当になってしまった」。『東京ゾンビ』で監督デビューした佐藤佐吉さんは言う。『金髪の草原』(犬童一心監督)や『極道恐怖大劇場 牛頭』(三池崇史監督)などの脚本家であり、『アカルイミライ』(黒沢清監督)や『キル・ビル』(クエンティン・タランティーノ)などインパクトあるチョイ役としても知られる佐吉さん。満を期しての監督デビュー作がガロ系漫画家、花くまゆうさく氏の『東京ゾンビ』とはファンの期待を裏切らない展開というか。「花くまさんとは整骨院で知り合いになったんですよ。彼は柔術家ゆえの整骨ですが僕の場合は単なる肩こりで通ってたんですけど(笑)」。この時、世間話から『東京ゾンビ』の脚本を手掛けることになった。というわけで、公開直前の佐吉監督インタビューをお届けする。冗談半分から出発した企画が監督デビュー作に至るまでの軌跡、執筆のエピソードから撮影の舞台裏まで、のほほんと語ってもらった。

 ※『東京ゾンビ』は12月10日、シネセゾン渋谷、テアトル梅田ほかにて全国順次ロードショー!!





−−『東京ゾンビ』が映画化されると聞いた時、「あれを映画にするなんてどうかしてる」と思ったそうですね。そこからどういう経緯で監督に?
どうかしてるっていうのは言いすぎですけど(笑)、花くまさんの漫画だからこそ楽しめる世界観というか、一般映画で成立させるのは困難だろうと思いましたね。でも、プロデューサーの豊嶋さんがーーこの人は本当にどうかしてるんですけど(笑)ーー「どうしてもやる」と言い、「それなら脚本は僕がやる」って。プロデューサーが「アフロは浅野さんにお願いしたい」と言えば、僕が「だったら対抗できるのは哀川さんしかいない」って言って……まぁ、このへんまでは冗談半分で話してたんですけどね。
ところが、浅野さん、哀川さんに話を振ったら案外、反応がよかったんですよ。そうなると絶対に脚本は仕上げなきゃいけないじゃないですか。書く最中から撮影時の大変さは見えていた。自分にしかわからないようなギャグも入れていたので、他の監督が演出するのは難しいだろうなと思ったんですよ。それで、監督やりたいと言ってみたら、いいですよって言われて……。正直、どんどんそういう風に流れてしまったというか、最初は絶対映画化なんてできないだろうと思ってたんです。お金を出してくれる人がいるとは思わなかったし。

ーーところで、哀川さんは当初ハゲになることに葛藤があったようですが。
まぁね、「哀川翔がハゲになっていいのか」という思いはあったと思いますよ。ハゲっていうビジュアルだけで役柄としておいしいというのか、インパクトがあるじゃないですか。そういうインパクトに負けないハゲになれるかどうかってところがあったんじゃないかと。

−−前半のクライマックス(?)はミツオこと哀川さんの歌う告白シーン。あの節は誰がつけたものなんですか。
 歌詞だけ考えるから、どう歌うかは考えてくださいって言ったんですよ。事務所の社長に聞いたところ、毎日、家でいろんなフレーズで歌ってたらしいです。あのシーンは現場では感動的ですらありました。あれを乗り越えてミツオとフジオの関係が固まるというか、そういう山場でもあったので。

−−柔術シーンは原作者の花くまさん自ら指導にあたったそうですが。
 そうです。柔術にからむシーンはすべてプロモーションビデオを作ってくれてーーちゃんとハゲとアフロの鬘を被ったものだったのですがーー現場にも何度も来てくれました。哀川さんも浅野さんも一般レベルより運動神経のいい人たちなので上達は早かったみたいですね。ただ、哀川さんは柔道では全国大会レベルの腕前だったのが、かえってやりづらかったか。柔道と柔術って似ているようで非なるものなんです。

 −−監督も習いに行ったそうですが。
 柔術の知識は普通の格闘技ファン程度のものしかありませんでしたからね。2、3回道場には行きました。傍で練習を見てると「そんなんで苦しいのか」とかって思うわけですよ。でも、やってみたら本当に苦しかったり(笑)。

−−自分で監督する脚本とそうでないもの、執筆の方法は微妙に異なりますか?
 そうですね。他の監督が撮るものってむしろいい加減に書いてたなぁって(笑)。演出の自由がきくように余裕を残してたってこともあるんですけど、自分で撮るとなるとかなり細かいところまで書き込まないと、って思っちゃったんですね。いや、そうなったけれど、行き詰って、最終的にはやっぱりいい加減になったのかな(笑)。

 −−その中で自分にしかわからないようなギャグも。
 これ、誰にも聞かれてないんですけど、冒頭で「あっ、鼻毛が白い」ってシーンが出てくるじゃないですか。あれってわかる人にはわかるショックだと思うんですよ(笑)。僕自身の経験でもあって、年とったら鼻毛でさえ白くなるのかってびっくりしたことがあったんです。

 −−脚本は何度も書き直したそうですね。
最初にプロットをーーといっても小説に近い形でーー10稿くらい書いてますね。そこから細かい直しでさらに10稿くらいですかね。プロデューサーと「ここはいらんのじゃないか」というやりとりを何度もやってるうち、やっと映画としての方向性が見えてきたというか、必要なシーンとそうでないシーンとがわかってきたというのもありますね。
 
 −−作品を見て、後半はもっと長かったんじゃないかという気がしましたが。
 メチャクチャ削ってますね。フジオがゾンビとだらだら格闘しているシーンを結構撮ってたんですよ。でも、編集の時ににこれはやっぱりフジオとミツオの映画だろうって。僕としてはだらだら格闘してるっていうのもそれはそれで面白いんじゃないかと思ったんですけど、やっぱり観客の皆さんはミツオに早く会いたいだろうなと。

 −−三池崇史監督をはじめ、いろんな監督と組んで脚本を書いてきましたが、そうした経験が今回の監督業につながったとは?
 ありますね、それは。僕は恵まれていて、すごいなっていう監督と仕事をしてきました。逆にそうでもない監督とは適当に仕事しちゃいますけどすごいと思う監督で僕の脚本をわかってくれるからこそ、(求めるものも大きく)微妙な解釈の差異に気づくこともあります。三池さんもその一人ですね。たとえば、三池さんは松竹新喜劇が好きで、僕は吉本が好きでっていう差がある。当たり前ですが、三池さんですら100%の一致は起こりえない。そういうこともあって、自分の脚本を自分で映画化してみたいって思ったのかもしれません。

執筆者

寺島万里子