落ち着いた中に男の色気を感じさせる若手実力派俳優イ・ジョンジェの主演作が久々に公開されている。この『オーバー・ザ・レインボー』で彼が演じる役は、交通事故で記憶の一部を失くした気象キャスターだ。天気予報で未来を語りながら、自分は大学時代の同級生だった女友達と失くした過去を捜す。手がかりは、現像ミスでぼやけた1枚の写真。そこには、忘れてはならない大事な愛があるはず……だが、やがて、彼は過去より目の前に愛に気づく。
 俳優としてかなりのこだわりを持ち、一定水準のシナリオでないと受けない(アン・ジヌ監督談)という彼にとってこの作品の魅力は何だったのだろうか?
 共同取材の現場に現れたイ・ジョンジェは、劇中のほんわかムードとはまったく違う黒革のブルゾンにストールというワイルドなファッション。短い時間だったが、誠実な人柄が感じられるコメントの数々を残してくれた。

$blue ●『オーバー・ザ・レインボー』は、キネカ大森、池袋シネマ・ロサにて公開中!!$




——この作品への出演を決められたのは、シナリオの最後の部分が気に入ってのことだと聞きましたが、どういったことだったのでしょうか?
「おっしゃるとおりですね。本当にシナリオがよかった。最後の部分でジンスという人物の成長が見える作品でした。もともとは小心者で自己表現も主張もできない、恋愛に関しても自分の感情をまったく伝えられない彼がだんだん成長していく、その過程がとてもよくて、また、そんな彼が気象キャスターとしては少しでもわかりやすく面白く表現しようと努力していることも面白く思いました。そういうことが理由になります」
——学生時代と社会人になってからを演じ分けるにあたって難しかった点、面白かった点はありますか?
「学生時代を撮っていたときは、出演者のなかに自分の友人がいてワイワイとにぎやかな感じで撮影自体が面白かったですね。社会人のパートになると、若干メロドラマ的要素が入ってくるので、そういう差はあったと思います。映画というのは順番どおりに撮っているわけではないので、午前中に学生の役、午後に社会人、また夜に学生ということもあって、たまに頭の中で混乱してしまって、あれ、いまどっちだっけと、そういったこともありましたね」
——社会人になってからは気象キャスターという役でしたが……。
「この役を演じるまでは気象キャスターという職業の魅力がわからなかったのですけど、ジンスのセリフの中に、ニュースが過去を扱うのであれば天気予報は未来に関することを扱うから少しは明るい感じでできる、そういったセリフがあるのですけど、本当にその通りだと思います。どこの国でもそうだと思うんですけど、ゴールデンタイムのニュースの後に天気をやりますね。今年は日本も台風が多いと聞いたんですが、仮に台風なら台風にどういうふうに備えればいいか、雨が降るのであれば傘をお持ちくださいとか、そんなふうにこれからのことを予測するわけで、ある意味で彼らは自負心を持っていると思います。人々は彼らの話を聞いて準備したり新たに計画したりする、そういったところにこの職業の魅力があるのでしょうね」
——天気予報で踊るシーンも印象的でしたが、このキャスターの役作りで苦労されたことはありますか?
「特別に苦労はありませんでした。いつも思うことなんですけど、俳優として今まで経験できなかったことを経験できる、今まで学んだことのないことを学べる、そういったことがいつもあるから俳優というのは面白いんですよ。ある意味、それが俳優の醍醐味ではないかなと。今回は、浅くですけど、気象キャスターの生活を経験できたし、今までやったことがなかったけどタップダンスを習うこともできました。本当にいろいろな経験ができてよかったと思います」
——「愛は雨とともに訪れます」というセリフがとても印象的ですが、イ・ジョンジェさんご自身が雨について何かイメージをお持ちですか?
「個人的には、晴れの日よりは雨の日のほうが好きです。これといった理由はないんですが、雨の日は感傷的な気分になれるところが気に入っています」





——イ・ジョンジェさんは、いつもとても自然な演技で観客を切なくしていると思いますが、敢えて意識してらっしゃることはありますか?
「できるだけ意識しないということを意識しているんです。特に恋愛に関しては本当に自然な感情が出なければいけないですし、人間には常に人を好きという感情があるものですから、そういったことを敢えて意識しないで演じるということを意識しています」
——この役を演じようと決めるいちばんのポイントはどういう部分でしょうか?
「私は、出演を決める際に4つの要素を見ます。シナリオ、キャラクター、そしてそのキャラクターが自分にきちんと合うのか、自分が最後まで演じきれるのか、この4つを基本に映画に出るかどうかを決めます。このうち3つがよければだいたい出演しますが、なかなかこの3つが揃うシナリオがないのです。ですから、私は芸能生活が長い割りには出演作品は少ないと思います。この4つがすべて揃ったのは、この『オーバー・ザ・レインボー』とこれから撮る『台風』です(編注:取材後クランクインした)」
——第一線の俳優として続けていく上で大事なものは何だと思いますか?
「本当は才能なんでしょうけど、私は才能だとは敢えて言いません。誠実であること、それがいちばん大事だと思います。才能というのはゆっくり積み上げられるものではないと思いますが、誠実さというのはひとつひとつ大事にこなすことで積み上げられると思いますから」
——今、日本の韓流のことはお聞き及びのことと思いますが、俳優として日本の市場は意識してらっしゃいますか?
「ひとことで言うと、特別に市場を意識してはいません。ただ、今、この日本で起きているブームは、文化には国境がないということを表してくれたと思っています。かつて韓国では、私が中学生のころに日本ブームがあり、日本の音楽や映画が多く入ってきました。そのころは、日本には韓国のものがあまり入っていっていなかった。何故かというと、まだまだ韓国の文化的水準が低かったということもあったと思うんです。それが時間を経て、今はどちらも門戸を広げて、どちらも同じ水準でやりとりできます。そういった水準に達したことはいいことです。韓国の歌手・俳優をはじめいろいろな方たちが日本で人気を得て活動できるのは本当に喜ばしいことです。私自身は、特別意識がしていないのですけど、今後こういう場で自分も活躍できればいいかなと思います」
——今回の作品は、どんな人に見てほしいですか?
「自分の表現がうまく出来ない人、もしくは自分の表現がきつすぎる人が見ると、愛を伝える方法が学べるでしょう」

執筆者

稲見 公仁子

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作品紹介『オーバー・ザ・レインボー』
公式サイト