「幸せを探すのは銀のエンゼルを集める作業に似てる気がする。集まったかと思ったら一枚どこかになくしてしまったり・・・」、『銀のエンゼル』の鈴井貫之監督は言う。鈴井監督といえば北海道発の深夜番組「水曜どうでしょう」のプロデューサー(出演兼務)であり、関東でもカルト的な人気を誇る人物。同番組のDVDは25万枚ものセールスを記録したといえばそのスゴさがおわかりになるだろうか?さて、そんな鈴井監督の長編映画第三作目は北海道のコンビニを舞台にしたハートウォーミングな人間ドラマである。しがない父親としっかり者の母、父を醒めた目で見る娘、ちょっと変わった客や店員、ほのかな恋・・・すれ違いばかりのバラバラな人間関係だけれど、寄り添う瞬間もある。主演はバイプレイヤーとして活躍してきた小日向文世。以下、鈴井監督の秘蔵ッ子でもある大泉洋ほか、西島秀俊、浅田美代子、山口もえ、佐藤めぐみらベテランまたはフレッシュな面々が揃った。観終わった後には日常の中の、小さな幸せを見つけたような気分になる。

※『銀のエンゼル』は12月18日より新宿シネマミラノにてお正月ロードショー!!

 








——孤独と復讐をテーマにした青春映画「river」とは全く違うタッチの作品ですね。そもそもコンビニを舞台にしようとしたのは?
 コンビニがない生活ってもはや考えられないですよね。で、実際に経営するとなると地域によってばらつきがあるんですよ。田舎ならたいていの場合が家族経営、1階がストアーで2階が家っていう・・・。深夜は客があまり来ないし、かといって店を閉めるわけにもいかないから、人件費を浮かせるために家族の誰かが交代で店番をやる。となると、一緒に食卓を囲むとか、ちょっと家族で温泉に行くなんてことはこの家庭では成立しないわけですよ。なおかつ、田舎においてのコンビニは一種の社交場と化します。家の前で中・高校生がたむろするってシチュエーションは想像がつくでしょう。その家に高校生の娘でもいようものなら、いい迷惑ですよね。同級生が自分の家の周りにたむろってるなんてうざったくてしょうがない(笑)。とまぁ、そんな想像を膨らませるうちに話が出来上がっていったんです。

——劇中のコンビニは実在する店舗だとか。
清里町(シャリ町)って町にあるコンビニです。知床の付け根にある、札幌から車を飛ばしてざっと7時間くらいですかね。畑のなかにポツンとあって、思い描いていたイメージそのまま。でも、見にいったのは一番最後でした。というのも、撮影の利便性を考え、最初は空港近辺をあたってたんですよ。週末を利用して100店くらいは見たんですけど、気に入ったものがなかなかなくて・・・。架空の店を作っちゃおうかなと思ってた。そんな時に「遠いけど、一応見てみようか」って気持ちで行ったのがあのコンビニだったんです。

——撮影は昨年の11月。例年より10日も早いドカ雪に悩まされたとか。
 脚本では雪のシーンはラストだけ。なのに、撮影中盤で大雪に降られた。まぁ、結果オーライだとは思ってますけど、除雪は大変でしたね。先に撮ったシーンとのつながりを持たせるため、スタッフで一気に雪を溶かした。関係のない録音部さんが大活躍してくれましたよ、「体、動かした方が暖かいから」って(笑)。ジェットヒーター、ストーブと4台ほど並べてたんですけど−10℃の寒さですから、溶かした矢先で凍っていく。最終的に車のウインドウォッシャー液を使ってね、まぁ、なんとかなりましたけど。

——小日向文世さんの主演デビュー作としても注目されていますね。
 小日向さんのキャスティングは即決しましたね。思い描いていた父親像と被るんです。あとでプロフィールをよく見て、北海道出身と知り、びっくりしましたけど。

——タイトルにもなった「銀のエンゼル」、監督も集めてたんですか?
 集めてました。でも、集まんないんですよね、あと1枚ってところで紛失しちゃったり(笑)。今回、ファンの方から銀のエンゼル5枚を頂いたんですけど、勿体なさ過ぎて賞品と取り替えられない。というわけで、あの謎のおもちゃ缶の正体はいまだにわからないんです(笑)。
でも、僕が思うに幸せというのは銀のエンゼルを5枚集める作業に似てるんじゃないかと。これも持論ですけど、幸せって誰しもが一定量決まってる気がするんですね。鞄に入る幸せは決まってるっていう。どんなに傍から見えて恵まれてるように見える人でも実際は自分と変わらないんじゃないかと。新しい幸せを手に入れるためには何かを捨てなくちゃならないっていうね。
 
——本作は父と娘のドラマでもありますけど、鈴井監督自身、娘さんがいらっしゃいますね。自分の家族を投影した部分も?
 意識はしてるでしょうね。娘はまだ10歳なんですけど、声を掛けようにも部屋にこもって「今、忙しいからほっといて」って言われたりしますから。

——でも、父親がテレビの人気者ということは娘さんにとって嬉しいはずでは?
とんでもないです。さっきの幸せかばんの話じゃないですけど、傍からそう見えるだけですよ。たとえば娘の運動会に行くじゃないですか。親子競技の時なんかでも、周囲がムービーまわして撮るのは僕の方だったりするんですよ。そんな調子ですから、娘に「参観日に来ないでいい」とか言われたりね。家族でご飯食べに行っても僕だけが妙に注目されたりでね。

——うーん、切ないですね・・・。
切ないですよ、ほんとに。

——ちなみに、娘さんはこの映画を見たんですか?
見ましたよ。生意気にも「なかなか、いい映画じゃない」って言ってましたけど(笑)。

——確かにいい映画ですよ(笑)。ただ、おにぎりを電子レンジで温めるか、否かは関東では反論者が多い気がしますけど(笑)。
それ、自分の番組で10年くらい前にリサーチしたことがあるんですよ。北海道のコンビニではおにぎりを出されたら、当たり前のように「温めますか?」って聞くんです。でも、東京のスタッフに言っても信じてくれない。実際に道内のコンビニに行って初めて納得するんですね。で、食べてみると「おっ、なかなかイケるじゃない」って言う(笑)。最近は東北でもおにぎり温めるコンビニが増えてきたらしいですし。

——そうなんですか!最後にこれから見る観客の皆さんにメッセージを。
今、人と人との関係性が希薄になって面と向かって話し合うことも少なくなってるかもしれません。そうした中で感情の行き違いもあるかもしれない。でも、実際に話してみればなんてことなかったりするってことも多いじゃないですか。それは親子であっても夫婦であっても、親友であっても同じ。そういうことを伝えたかったというのもあります。そして、この映画を見て、昔なじみの友達を「あいつ、元気かな」って思い出してもらえればそれもまた嬉しいですね。

執筆者

寺島万里子

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