「どうやったらなれるかなんて、なんだかよくわかんないじゃないですか、映画監督って」(飯塚健監督)。人生はアミダクジ。真夏の石垣島で起こるたった一日の、いろんな人の悲喜こもごも。飯塚健監督のデビュー作「サマーヌード」を解説するならこんな具合になるだろうか。出演は野波麻帆、古屋暢一などフレッシュな俳優陣と、きたろう、具志堅用高ら個性的な顔ぶれ。作品のユニークさはさることながら、映画がちょっと好きなだけの一学生に過ぎなかった飯塚監督が自分の足で完成させたと聞き、もう一度目を見張る。学生時代に脚本を執筆、まったくのコネなしで200人以上に会いに行き、ロケハンからスタッフィング、キャスティングまでやってのけたのだ。「何度も何度も足を運びました。最初は誰も相手にしてくれませんでしたから(笑)」。映画監督志望の読者にとっては特に見逃せない作品になりそうな「サマーヌード」。読むだけで士気が高まるインタビューをここに紹介しよう。

※「サマーヌード」はテアトル新宿にて7月12日から8月1日まで3週間限定レイトショー!!

 







——初めから監督志望だったんですか。
飯塚 高校の頃は体育会系だったんですよ。あとはバンドやったり…。大学の時は映研に入ろうと思ってたんですけど、なんか肌が合わない感じがしてやめたんです(笑)。でも、漠然と映画監督になりたいっていうのはありましたね。カメラを買ったりもしましたし。でも、どうやったらなれるのか、なんだかよくわかんないじゃないですか、映画監督って。

 ——そうですよね。だから、今回いきなり「サマーヌード」で劇場デビューするってことがすごいなって思うんですけど。
飯塚 監督になるにはまず長編を撮らなきゃダメだろうって思ったんですよ。で、「サマーヌード」の脚本を書いて、プロデューサーを探して…。でも、やっぱり実績も何もない人間のために動いてくれる人なんていないじゃないですか。とりあえず、仲間うちで「沖縄行ってロケハンしよう」って話になって、バイトしては沖縄に行くという生活を半年間くらい続けたのかな。その時にいろいろな島を巡り、協力をあおぐため200人、300人の人には会いましたね。役所にも何度も通いましたし、最終的に助役クラスの人と会うことができて…。ホテルの人たちにもですね、最初は相手にしてくれなかったんですけど何度も行くうちに「じゃあ…」って少しづつ具体的な話が出るようになっていったんです。

 ——製作費の一部、1500万円近くの資金を自分で集めたそうですね。
飯塚 友達400人くらいに一口1万円くらいで援助をお願いしました。なかには五万円くらい出資してくれる人もいて、だいたい全部で1500万円ですかね。実は知らない人も多いんですよ。直接は知らないけど友達の友達みたいな感じで出資してくれる人もいましたね。

 ——スタッフ探しも自分で。撮影監督の長田勇市さんもその一人ですね。
飯塚 長田さんに撮ってもらいたいってずっと思ってたんです。でも、連絡をしようにもどこに連絡したらいいのかわからない(笑)。長田さんが所属している撮影協会に電話して「連絡先教えてもらえませんか」って聞いたら、「何言ってるの」とばかり、電話取った人にちょっと怒られた…。その後はどうしようかって思ったんですけど、長田さんが関わった作品の製作会社に電話してどうにか連絡先を教えてもらったんです。それで、脚本を送ったんですけど、実際に会った時は五分で「じゃあ、やろう」って言ってくれたんですよ。

 ——主演の一人が野波麻帆さん。もともと起用したかったそうですが…?
飯塚 キャスティングはロケ地探しと同時進行で、芸能プロダクションに脚本送ったりしてたんですね。野波さんは脚本が出来た段階で彼女にやってもらえたらいいなって思ってたんですけど、実際の現場でもすごく柔軟性のある人で助かりましたね。ラストで彼女が闊歩するシーンは「ロンドンみたいな感じでやって。クリスティーナ・リッチが隣にいるみたいに」って曖昧な指示を出しただけなんですけど「わかった」って(笑)。それであのシーンが出来上がったんです。

 ——撮影中はアドリブも多かったんですか。
飯塚 いえ、基本的には脚本通りですよ。きたろうさんはアドリブが好きなんですけどアドリブが出てきたら「はい、カット!」って(笑)。すぐに切ってましたね。自分でお金の管理もしていたので、余分なフィルムは回せないですから(笑)。
それと、無茶苦茶細かく指示を出す場面と野波さんが闊歩するシーンみたいにざくっとした演出をする時と両方ありましたね。たとえば、閉店した食堂で兄と妹が言い合いつつ、椅子あげたり下げたりっていうシーンは、右から2番目のこの椅子を上げる時にこの台詞、下げる時にこの台詞ってかなり細かに演出してるんですよ。






——初の長編でプロの役者さんとスタッフを起用し、プレッシャーのようなものは感じなかったんですか。
飯塚 プレッシャーは感じなかったですね。ただ、撮影中は「そんなことも知らないのか」ということはしょっちゅうありましたよ。特に長田さんには言われました。喧嘩もしましたし…。

 ——たとえば、どんな?
飯塚 脚本が読みづらいって。僕の脚本ってスタッフに読みづらくて、キャストに読みやすいらしいんですよ。具体的な描写じゃなくて物語的な描写をしていますから。例えば登場人物が悲嘆に暮れるようなところでも「ああ、哀愁、ああ、哀愁」っていうような書き方(笑)。こんな書き方はダメだってさんざ言われましたから結構落ち込んだんですけど、あとで役者さんに「わかりやすい」って言われて、ああ、そうか、こういうのでもいいのかなって思い直したんですけどね。

 ——脚本といえば、町の警官が辿ったラストは当初から決まっていたことなんですか。
飯塚 あれは・・・賛否両論あるんですよ。でも、僕としては最初から決めていたことです。たった1日の中でもいろんなことが起こるということ。映画のコピーにもなっていますけど、人生はアミダクジだって思うんですね。たとえば、今日1万円拾ったとする。1万円を見つけて拾うか、拾わないか、小さいけれど分かれ道ですよね。で、拾ったとして届けるのか、自分のために使うのか、何を買うのか…延々と選択肢が続くわけです。その小さな選択で未来が180度変わってしまうかもしれませんから。

 ——なるほど。そう思って見るとまた違う感慨が湧きますね。
飯塚 でも、別に考えなくてもいいんです(笑)。とにかく頭をカラッポにして見てください。見た後はさっと忘れて欲しい。ポップコーンでも食べながら軽い気持ちで楽しんで頂ければ嬉しいです。

 

執筆者

寺島万里子

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