「ギア様、だって?『さま』をつけられたのは初めてだよ(笑)。ドウモアリガト」。「運命の女」(エイドリアン・ライン監督)でリチャード・ギアが9年ぶりの来日を果たした。いつもの伊達男ぶりとは好対象に役柄は妻の浮気に苦悩する平凡な男。内容が内容だけに記者会見では「家庭生活を円満にする秘訣は?」なんてのも飛び出した。冒頭コメントは「ギア様」と呼びかけた女性記者への返答。場内の既婚者を数えてみたりのパフォーマンスで気さくな人柄を印象づけたのだった。

※「運命の女」は2003年1月より日比谷映画ほか全国東宝洋画系にてロードショー!!







——今回演じたエドワードはどこにでもいるような人物だけに役作りは困難だったのでは?
それはいろんな人に聞かれた。確かに特徴のある人物の方が役を組み立てていきやすい。エドワードのような男を演じるのは様子を見ながら種をまいていくようなものだし、とてもデリケートな作業だよ。だけれど、普通の男、というのはどういう定義なんだろうね。うわべはノーマルでも、誰しもがその奥底に違ったものを抱えているものだと思う。本当の意味でのどこにでもいるような人間なんていないんじゃないかな。

ーー劇中の夫婦をどう思いますか?
この映画に描かれた夫婦は理想的な関係だった。夫が妻を殴ったり、性生活がないとか、何がしかの問題のある夫婦の物語ならこれまでもたくさんあった。監督のエイドリアンはそうじゃない、見たところパーフェクトな夫婦がどのように破綻していくのかを描いたんだ。もうひとつ、この話の重要な点は風が吹かなかったら、通りで強風にあおられなかったらこういう展開にはならなかったってことなんだよ。チベットの教えには人の体のなかを風が吹いているっていうのがあるんだけどね。

——ギアさんは熱心な仏教徒でもありますが、役選びに影響を与えることはありますか?
もちろん、仏教があって僕があるわけじゃない。僕にとって仏教はいろいろなことの一部に過ぎない。だから、スクリプトを読んで仏教とどうつながりがあるんだ、なんてことは考えたりしないよ(笑)。役選びは言ってしまえば勘だね。恋に落ちるのと同じ。一目ぼれに近いんだ。

ーーエドワードを演じるにあたり、エイドリアン・ライン監督からは何かアドバイスはありましたか?
 これはとても珍しいことなんだけど、今回の撮影現場は僕の家からごくごく近いところにあったんだ。で、撮影の合間にランチを食べに家に戻ったりもした。ある時、着替えもせずに劇中の服のまま帰ったことがあったんだ。それを見た妻が「あなた、いいじゃない!!普通の人みたいでとっても素敵よ」と言ったんだよ。このエピソードをエイドリアンに話したら大喜びしてねぇ(笑)。「そうなんだよ、リチャード。そのイメージなんだ」って。







——家庭生活を続けていく秘訣ってあるんでしょうか?ギア家のルールを教えてください。
僕の実家では皆が歌を歌うんだよ。18人くらい大家族だったんだけどピアノの前に集まってね。家にきたガールフレンドは最初、みんなびっくりするんだけど、そのうち慣れてしまう。皆で歌を歌う、それはとても大切なことなんだよ。
この会場には家庭を持っている人はどれくらいいるのかな?手を挙げてください・・・(手が挙がるのはごくわずか)2、3、4…8、9、10。たった10人?ウソだろう(笑)!!・・・ということは、皆さん、人生をなーんにも経験してないってことですよ(笑)。というのも、子どもがいる生活というのは・・・何もできないんだよ、ほかのことは何も。日常に追われるのみです(笑)。でも、たった10人というのは信じられないな。ウソついてるんじゃないかな。それともシャイで手を挙げられなかったのかな。

ーーもうひとつ、ギアさんに男のダンディズムを伝授して頂きたいのですが。
ダンディズムだって?20年前は確かにかっこいいとも言われたけれど、今はそんなこと言われなくなったな(笑)。皮ジャンも着なくなったし。年を取ってくると若い頃にやっていたことが無意味に思えてくるんだよ。
ただ、かっこいい人っていうのは人間自体がクールってことだと思う。あと、姿勢だね。姿勢には気をつけるべきだろう。

執筆者

寺島まりこ

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