ドリアンは香港に似ている。強烈な臭気を放ちつつも、人を惹きつけて止まないあの雑踏に…。フルーツ・チャン監督「ドリアン・ドリアン」が来春、恵比寿ガーデンシネマほかで公開になる。職業俳優を決して起用しないチャン監督のこと、今度はどんな主人公かと、興味津々ではあったのだが…。率直に言って、チン・ハイルーの存在感は期待以上。香港で出稼ぎ娼婦を、故郷で無垢なイメージの少女を、と女性の相反する面を見事引き出してくれた。「チャン監督の映画は撮影が終わるまで敢えて観なかった」という彼女は初主演ながら、自分のなすべき演技を直感的に理解していたようだ。11月6日、徳間ホールで行われた試写会の後、会見&ドリアン試食会でほがらかな笑顔を見せてくれたハイルー。2年後、3年後には間違いなくビッグになってるだろう新進女優の初来日会見をレポートする。






——映画初出演ということですが、フルーツ・チャン監督とはどのように出会ったのですか。また、監督の映画作品は観ていましたか。
プロデューサーが私を監督に推薦してくれたんです。結局、3回ほど面接して、決まりました。このお話がある以前、チャン監督の映画は観たことがありませんでした。撮影が終わるまで敢えて観ないようにしようとも思いましたね。何故って、先入観を持ちたくなかったから。監督がこれまで起用してきた役者も皆、普通の人でした。作り込まれていない表情や仕草が欲しいのだとも感じたんです。

——この話がきた時、どう感じましたか。
すごく嬉しかったし、緊張もしましたね。どの俳優でも最初の作品はそうなんでしょうけど(笑)。私の場合は言葉の問題もありました。監督は広東語を、私は北京語を話していたので、コミュニケーションがうまく取れるかどうか心配でしたね。結果的に杞憂に終わりましたけど。

——イェンを演じるに当たって留意したことは。
前半部の香港にいるイェンと故郷に帰ってからのイェンと、それぞれの心境を逆に演じるようにしました。香港にいるときは体を売ってるのですから、本当はみじめな気持ちだったはずですが、敢えてバイタリティが溢れるようにしました。故郷に戻った後は周りの人々は売春で稼いだお金とは知らず、成功者のように彼女を扱います。イェン自身、それを言うことはできない。
完成した「ドリアンドリアン」を観て、私のアプローチは間違ってなかったんだなと確信しました。





——特に気に入っている場面はありますか。
ラスト近くですね。京劇の学校にいとこを訪ねる場面がありますね。いとこはもうそこにはいなくて、南方(香港)に行ってしまったと知る。その帰り道、降り積もる雪を静かに見遣るシーンがとても好きです。
自分が南でやっていたことは誰にも言えない。親戚が同じ道を辿るかもしれないのに、それを止めることすらできないんです。その葛藤をうまく表せた場面だと思います。

——イェンのお腹に巻かれた赤い紐は何ですか。
あれは私のものです(笑)。今でもしてますよ。中国の東北地方の習慣なんです。中国語では子供が幼くして死ぬことをヤオチュウと言いますが、このヤオは腰という言葉と同じ発音なんです。腰に赤い紐を結ぶと幸運が訪れるという言い伝えなんですよ。

——ドリアンは何個くらい食べましたか。
撮影中に3個。その前後だと数え切れないですね(笑)。フルーツ・チャン監督はその名の通り、作品にフルーツを持ってくるのが好きですからね。

執筆者

寺島まりこ

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