このところ、重鎮のリバイバル上映が続く中、日本映画界の現役最年長、新藤兼人監督スペシャルが渋谷シネマライズでスタートした。「新藤兼人からの遺言状」と名づけられた本特集では近作「三文役者」からモスクワ国際映画祭グランプリ受賞作の「裸の島」、ハリウッドでリメイクが予定されている「鬼婆」など21作品を日替りで上映する。また、連日最終回には新藤監督と主演俳優のトークショーも開催。初日となった12日のラインアップは「三文役者」。同作の撮影秘話ほかを監督自ら語ってくれた。

  
  






「三文役者」は新藤兼人作品でもお馴染みだった殿山泰司ことタイちゃんのライフ・ストーリー。89年に彼が逝去して以来、長らく暖めていた企画を99年、竹中直人主演でクランクインした。「殿山泰司は独特な人でしたから、役者を誰にするか非常に困りまして。長い間、誰にしたものか決めかねていたんですけど、ある座談会で竹中さんに会い、直感でこの人だと思ったんですよ」(新藤監督)。竹中直人自身、“向上心のない男を撮りたい”と聞いてすぐに賛同したとか。
 本篇には今は亡き、乙羽信子がタイちゃんの証言者としてスクリーンに復活。彼女の遺作となった「午後の遺言状」に入る前、テストで撮ったものだったという。「乙羽さんの体力的にどこまでお願いできるものか、わからなかったんです。その時には既に『三文役者』のシナリオが出来ていたのでテストのつもりで短いシーンを撮ってみたんです」(監督)。劇中には竹中直人と乙羽信子と会話の場面が幾度となく登場する。「竹中さんには乙羽信子のフィルムを見せなかったんです。事前に見せちゃうと逆に考えてしまうかと思いまして….。結果的にあの場面は自分でも成功したと思っています」。
 師と仰ぐ溝口健二のもとで映画におけるドキュメンタリー的な要素を学んだ背景もあってか、“ドラマというのは実験的でなくてはならない”と言う新藤監督。スタッフ13人、台詞なしで島に暮らす4人家族を描いた「裸の島」以来、合宿システムを徹底する。「お金がなくて始めたことなんですが、毎日一緒に暮らすことが映画のリハーサルに、映画作りの基礎になるんですよね。集団という個性をまとめていく力になるんですよ」。
 劇場柄か、若い世代が目立った初日のトークショー。渋谷シネマライズというハコから新たな新藤ファンが誕生するのは間違いないだろう。

執筆者

寺島まりこ