1976年にイタリアの街セベソで実際に起きた化学工場爆発事故によるダイオキシン災害ををもとにした蓮見けいさんの原作を、長編アニメーション化する『いのちの地球/ダイオキシンの夏』が、5月の下旬の完成、8月からの公開に向け製作が進められている。これまでも、『ハッピーバースデイ/命かがやく瞬間(とき)』など良質のアニメーションを製作してきたゴーゴービジュアル企画、マジックバスを中心とする製作委員会によるこの作品は、専門的・学術的な映画というより、人間ドラマを中心にその中に環境問題に対しての子供達の希望と勇気を描くことを目指した作品となる。この作品の製作発表記者会見が、4月26日に銀座東武ホテル芙蓉の間にて開催され、アフレコを担当したキャストから製作委員会の方々まで11名が出席、この意欲的な作品に関してのそれぞれの想いを力強く語った。






原作者の蓮見けいさんは、アメリカの科学ジャーナリスト、ジョン・G・フラーによる事件のルポルタージュ『死の夏』を読み、目にも見えず匂いもしないその恐ろしい存在を、日本の子供達や母親たちに伝えたいと、このアニメの原作となった『ダイオキシンの降った街』(岩崎書店・刊)を著した。「ダイオキシン問題は、最近マスコミ等でも取り上げられるようになってきましたが、この問題の中でもっとも大事なことが何かを、キチンと知ることが最初の第一歩だと思います」と、多くの観客に伝わる機会が増える今回のアニメ化を歓迎した。

今作を監督するのは、『うる星やつら完結編・劇場版』『ハッピーバースデイ/命かがやく瞬間(とき)』など幅広い作品を演出している出崎哲さん。21世紀という時代を、20世紀に便利さを追求するあまり置き忘れてきたものを取り上げ解決法を見出していかなくてはいかない時代だと真摯に語りながら、「真面目にしかし悲観的にはならずに、長くつきあっていく」という姿勢を示した。その感覚が、作品に社会性と娯楽性の両面を与えてくれるのであろう。

キャラクター・デザインと監督補を努めた四分一節子さんは、主人公がイタリアの子供達である中で、実際に観てもらう日本の子供たちと距離感の無いキャラクター設定をすることに、苦労されたとのこと。しかしその甲斐あって、今がまさに山場の製作現場では確かな手応えを感じられているそうだ。

本作の音楽は、映画・TVをはじめとし特に数百本の作曲作があるCMソングまで幅広い活躍を続けている長谷川智樹さんによるもの。エンディング・テーマとして書かれた曲“リーインカーネーション”は、円環する時間・繰り返す時間をテーマに、長いスパンの時間の中で、今の現実や自分を振り返ってみれたら、もっと今の自分を大切に生きられるのではないかという願いをこめて書かれたそうだ。





ジュリア役で出演している佐久間信子さんは、現在中学1年生。ダイオキシン問題は、学校で習ったばかりで、凄く興味を持っていたとか。『ハッピーバースデイ/命かがやく瞬間(とき)』から2年ぶりのアフレコには、「ちょっぴり緊張しています」と答えながら、作中の人物と近い世代の代表として「一人でもたくさんの人たちに見てもらえれば嬉しいです」と明るく語った。

なお、ソニア役を演じた倍賞千恵子さんはこの日出席できなかったが、「身近な生活の中にも、以前とは違ってきている自然と接することがあり、ふと疑問に思うことが多くなっています。この映画は、私たち大人が21世紀を担う子供たちと一緒になって、一人一人がこれから何をすべきか、何ができるのかを問い掛けています。本日は出席できなくて申し訳ありませんが、一人でも多くの方に観ていただければと思っています」とのメッセージが伝えられた。

また、作品の製作関連の方々として、製作委員会・代表の桂荘三郎さん、製作委員会を構成するアミューズメントメディア総合学院・学院長の吉田尚剛さん、同じく製作委員会を構成する日本出版販売株式会社・商品開発部・部長の三浦正一さん、作品に監修として参加されているダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議・代表立川涼さん、同会議・事務局長の中下裕子さん、配給を担当する共同映画株式会社・代表取締役の藤野戸護さんらが、それぞれダイオキシン問題や作品に関して挨拶を行った。それぞれ言葉は違えど、ダイオキシンをはじめとする地球環境問題と人間のありかたに関しての真摯な姿勢は共通のもの。メッセージ性を持ちながら、娯楽作品として広く受け入れられるアニメーション作品の完成が予感される。

なお、本作は8月18日からシネ・リーブル池袋でのロードショー公開を皮切りに、草の根上映的な展開とあわせて、全国各地での上映が予定されている。

執筆者

宮田 晴夫

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