(C)Panique / Radar Films / Savage Film / Versus Production / One Eyed – 2014

本作は、オースティン・ファンタスティック映画祭2014にて最優秀作品賞・最優秀監督賞・最優秀主演男優賞・最優秀主演女優賞の4冠を果たし、ベルギーのアカデミー賞といわれるマグリット映画賞2016では最優秀撮影賞ほか3部門を受賞した、狂気のラブストーリー映画である。他にも数々の賞にノミネートされるなど、本国のみならず外国でも高く評価されている作品だ。
監督を務めたのは、カンヌをはじめヨーロッパ全土を震撼させたサイコ・キラー映画『変態村』(2006)でデビューを飾ったファブリス・ドゥ・ヴェルツ。監督は、そのデビュー作にも出演したローラン・リュカを主演に、ベルギーのアルデンヌ地方を舞台とした狂気の愛を描く3部作を撮影することを予定している。

 

 

 

Q:レイ&マーサをモデルにした理由は?

A:映画のテーマを探していたとき、2人を題材にしたアルトゥーロ・リプステイン監督の『深紅の愛 DEEP CRIMSON』を偶然に観て衝撃を受けた。そこで、このテーマを元にして、ベルギーを舞台にすれば、面白い作品ができるのではないかと考えた。愛し合っている恋人2人の孤立と孤独はいいテーマになると。そしてすぐに脚本に取りかかった。もちろんオリジナル作品『ハネムーン・キラーズ』の存在も知っていた。すでに有名な題材を使って、自由に脚色したいと思ったのがきっかけだったんだ。

Q:同じ事件を元にした作品はいくつかありますが、他の作品と比べて「地獄愛」の特徴や違いは?

A:まず社会的背景に違いがある。『ハネムーン・キラーズ』では、事件が起きた60年代の時代背景が重要な要素になっていて、『深紅の愛 DEEP CRIMSON』ではスタイルが重要視されている。演劇的とも言えるし夢のようなクオリティも醸し出している。今回の作品は愛し合う2人の孤立感をリアルに描くことが重要だった。孤独な人間が偶然出会い、孤独を分かち合いながら、反道徳的で自分勝手な方法で、社会との関わり方を見つけてしまう。その軌跡を映画で検証してみようと思った。今回の題材は、何度も映画化されていることを考えても、古典的題材とも言える。しかしそれに新しい解釈や見方を加えて、全く新しいものを創造することができる。それが「地獄愛」における試みだったんだ。

Q:ロラ・ドゥエニャスの演技が強烈ですが、どのような演出を現場でしたのですか?

A:ロラは非常に敏感で繊細、かつ情熱的で本能的な俳優だ。キャスティングが決定した時点で、彼女を想像しながら脚本を練り直した。なので現場ではすごくスムーズにいったと思う。彼女には アンジェイ・ズラウスキー監督の『ポゼッション』を観てもらって、いろいろディスカッションもした。演技の参考としてではなくて、あのエネルギーを如何にしてこの作品で創りだすことができるかについて語り合った。

Q:16ミリで撮影した理由は?

A:フィルム特有の粒子が荒い質感をあえて強調している。フィルムの有機性みたいなものを醸し出したかった。子供の頃、『悪魔のいけにえ』を観てショックを受けたけれど、まさにああいう質感を創りだしたかった。まるで匂いまで伝わってきそうな質感だね。デジタルは好きじゃない。まさにウソの世界だ。シネマのポエジーを台無しにしてしまう。映画作家はある意味では錬金術師のようなもの。いろいろイメージで実験しながら、限界に挑戦するべきだ。でもデジタルはフラットで冷たい。ミステリーもない。ただフィルムで映画を撮り続けることは非常に難しくなってきている。それでも毎回フィルムで撮りたいと考えているんだ。すごくフィルムが好きだから。デジタルにはミステリーがない。ポエジーもコントラストもない。

Q:「変態村」でも印象的なミュージカル的な場面がありますが、今回でもグロリアが歌を唄う場面が非常に印象的ですね。

A:あの死体を前にして歌う場面だね。最初は歌を唄う場面ではなかった。撮影の数週間前になにか音楽的な要素を取り込めないかと考えて、自分で歌詞を書いて、作曲家に渡して曲にしてもらった。実はあの歌を唄っているのはロラではなく、吹き替えなんだ。現場ではプレイバックを流して、口パクで演じてもらった。現場でもうまくいくかどうかは、わからなかった。でも編集の段階で、歌を盛り込んだ形でうまくまとまったのでよかったよ。テストで周囲のスタッフにも観てもらったら、反応がすごくよかった。『変態村』でも、当初は酒場の場面にミュージカル的要素はなかった。でもなにか出来ないかと思って作曲家に頼んで、実験してみようと思って、最終的にはああいう場面になった。とてもうまくいったと思っているよ。

Q:火の周りで踊るようなインパクトの強い場面がありますが、インスピレーションはどこから得るのでしょう?

A:現実をリアルに描くよりは、映画においてのポエジーを大事にしようと思っている。なので、歌や踊りといった 象徴的な要素が、自然と印象的な場面になっているのかもしれない。

Q:影響を受けた映画監督は?

A:本当に映画が大好きだから、名前を挙げるのさえ難しいね。大好きな監督や作品がたくさんありすぎて。『地獄愛』に限って言うのであれば、ズラウスキーの作品は参考にした。塚本晋也監督作品のエネルギーにも触発された。フランジュ、コクトー、メルヴィル、ポランスキー、溝口、黒澤、ベルイマンも大好きだ。たくさんいるから、数人だけ挙げるのは難しい。ベルイマンは20代のとき観るのが辛かったけれど、40代に入ってみると非常に興味深く観れる。

Q:『ハネームン・キラーズ』と同時上映ですが、どちらを先に観ればよいでしょう?

A:オリジナルだね。傑作だから見る価値がある。まずそれを観て、詩的な解釈を加えた『地獄愛』を観て欲しいね。オリジナル作品の方が、実際に起きた事件にもっと忠実だね。

Q:子役ピリ・グロワーヌが迫真の演技をみせますが、どのようにして演出したのですか?

A:虐待したんだ。それは冗談だけど、時間をかけて探した。そこで素晴らしい役者をみつけたのがラッキーだったね。とにかくがんばってもらった。

Q:『地獄愛』を観て、ギャスパー・ノエ作品を思い起こさせるという批評家がいます。

A:ギャスパーとは知り合いで、彼は人格者でもあるし才能もある。でも作品に共通点があるとは思わないね。たしかに2人とも映像の可能性を信じている点では似ているかもしれない。処女作からその評判はつきまとっているけれど、フェアでもないし、自分では正当性のあるものだとは思わない。ギャスパーの作品はエッジの効いたコンセプトムービーだ。僕の作品はもっと人間の本能に基づいたものだと思う。テーマの関連性という点でも類似点はないと思う。

 Q:日本のファンにメッセージを。

 A:日本映画の大ファンなんだ。溝口や黒澤も大好きだ。なので、日本で公開されると聞いて凄く嬉しく思っている。ぜひこの作品を楽しんで欲しい。

 

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