【わたしの映画の創り方(3)〜ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2016編〜】

現在好評公開中の映画『ドクムシ』。
監督を務めたのが、デビュー作『クソすばらしいこの世界』(13)での演技派キム・コッピ(『息もできない』08)を主演に迎え、迷いのない輪切り描写と辛らつな心理描写、割り切れない強烈な後味でその名前をホラーファンに刻印した朝倉加葉子監督。

その後『リアル鬼ごっこ』のスピンオフドラマ『リアル鬼ごっこライジング 佐藤さんの正体』(15)ではTVドラマ『監獄学園〈プリズンスクール〉』の武田玲奈を主演に、女子高生の屈折した愛情を滲み出るエロティシズムと共に描き演出の確かさを印象付けた。
ゆるめるモ!主演の長編2作目『女子よ死体と踊れ』(15)では、お得意のスラッシャー演出をゆるめるモ!テイストに変換し、死すらも自分でコントロールしたい媚びない女の子たちの楽しもアブない宴をポップに彩った。

女性監督という冠はむしろ不要の朝倉監督新作となれば興味が沸かない訳がない。ネット小説『コドク〜蠱毒』(作・八頭道尾)を原作とした350万ダウンロード超えで大手電子書店の年間売上第1位(2014年)大ヒットとなった電子コミック『ドクムシ』(作・合田蛍冬)の映画化だ。
外界と遮断された校舎に閉じ込められた男女7人が飢えと疑心、死の恐怖に侵食されていく姿を正面から描く。

主演は『仮面ライダーディケイド」の仮面ライダークウガ役で女性ファンを魅了し、舞台やミュージカル『RENT』などで活躍中の村井良大。ヒロインには空手家であり女優として大進撃を続ける『祖谷物語〜おくのひと』『進撃の巨人』の武田梨奈。劇団EXILEメンバーの秋山真太郎、『SR サイタマノラッパー』シリーズの駒木根隆介などユニークなキャストが揃った。

インタビューでは映画『ドクムシ』撮影時の様子から、映画監督以前の姿に迫ってみた。


















※漫画版『ドクムシ』の作者である合田蛍冬さんのお名前が記事内で記載漏れしておりました。お詫び申し上げます。

●『ドクムシ』は役者さんの映画になっているのが嬉しい

——『ドクムシ』の企画は、どういうところから始まったんでしょうか?

朝倉:企画プロデューサーの方から、小説が漫画化されていてそれを映画化しませんか?と誘って頂いて。漫画版も小説版とは違っていて、独自の解釈が幾つも付け加えられることでエンターテイメントな作品になっています。映画は小説も漫画も受け入れて、お互い認識させつつ独自の映画版『ドクムシ』を作りましょうって話でした。

——では最初からラストについては独自の展開を取るっていうことだったんですね。

朝倉:はい。私はそれが面白いなと思って「やらせてください」と言った感じですね。

——漫画版と小説版『ドクムシ』はどの様に読まれましたか?

朝倉:漫画版は夢溢れるっていったらおかしいですけど、シチュエーションものとして娯楽性の高い物語だなぁと思いました。映画のシチュエーション・ホラーはいくつか存在しているので、独自の設定で一枚土台を作ることで面白くなるんじゃないかなぁと思いました。小説版は人間がお芝居をして作っていくのに向いている物語だなぁと思いましたね。

——それぞれのキャストの方について伺いたいんですけど、村井さんはいかがでしたか?

朝倉:村井さんは演劇をたくさんされているので集団でのお芝居に非常に強い方だなぁっていう印象で。

——集団に強いというのは?

朝倉:周りに人が何人かいるという演劇的な設定を与えられた時に自分の役どころと周りの人からどう見えるのかを理解してお話を引っ張って行くポイントを察知してくれて、それを的確に表現できる方という感じですかね。

——演出された中で印象的なことはありましたか?

朝倉:とじ込められた7人が迷いながら時間を過ごしていく部分が、村井さんのおかげで非常に誠実に見える様になったなぁというのは日々思ってましたね。

——そうですね。観客が一番感情移入するキャラクターだと思います。

朝倉:お芝居もそうだし、ご本人もお芝居に関して非常に誠実な考え方を持っておられる方で。シチュエーションによって脚本からより自然に見えるように相談して、楽しくやっていましたね。

——秋山さんはいかがでしたか。

朝倉:7日の映画で撮影もそれくらいだったんですけど、ほぼ純取りで撮影の状況が物語に近い(笑)。秋山さんは撮影の前の日くらいから断食には入られて。でも私は断食反対派で(笑)。みんなに「ご飯食べてください。アクションもいっぱいあって絶対大変になるし、危ないですから」ってずっと言ってたんですけど(笑)。秋山さんは役と自分にストイックに、表に出る様な疲労を見せたいっていうことで、ご飯をほぼほぼ食べないで過ごしてらして。最後の方の撮影になると、「あれっ昨日何してましたっけ?」って感じで。

——村井さんがホトケ様のようになっていたと仰ってましたね(笑)

朝倉:そうですね(笑)。一段上に上がって行っちゃった感じがありましたね。そういうのも楽しかったです(笑)

——武田さんはいかがでしたか?

朝倉:梨奈ちゃんも凄い真面目な子で、今回キャバクラ嬢の役で性格的にも激しい部分を持った人で。今まであまりない役だったので乗ってくれて、自分からキャバクラ嬢に見えるような提案をたくさんしてくれましたね。今回の髪型は彼女のアイデアです。やられるアクションが主なもので、アクションを出来る方には逆に難しいと思うんです。アクション監督の方と私で考えるんですけど、梨奈ちゃんも一緒になって凄く考えてくれましたね。

——7人のキャラクターがありますけど、監督が人間的に一番興味があるのは?

朝倉:7人いて、ひとりひとりの見せ場が最後の瞬間だったりするので、その瞬間が魅力的に見えるようにしたいと日々魂を込めて撮っていった思い出があって、普通に1人は選べないかもしれないですね。

——朝倉監督の作品でゆるめるモ!の『女子よ死体と踊れ』は、女の子たちが死すらも自分で決めたいという意思の映画だと思いました。朝倉監督らしい感覚なのかなと思ったんですけど。

朝倉:あっそうですか?アナーキストに魅力を感じるところがあるので(笑)。自分の頭で考えて自分で行動する人がやっぱり魅力的だよねっていうのが大きくあるのかも。

——今回の演出の中でそういう感覚を意識したことはありましたか?7人がそれぞれの理由で生き残ろうとしますが。

朝倉:自分でそのテーマに近づけて行こうという風には思っていなかったんですけど、奥の方ではあるのかもしれないですね。

——演出する際に一番大事にされていることは?

朝倉:役者さんひとりひとりがどういう方で、どういう形の動き方をするのが一番魅力的かをなるべく早く見つけたいなと思います。

——現場で見てみると印象が変わって来るということでしょうか。

朝倉:そうですね。自分がどういうやり方をしているのかあまり考えたことがないかも(笑)。役柄がどんな悪い人でもダメな人でも嫌な奴でも、それがチャーミングに見えるように演出していきたいなと思います。

——出来上がった『ドクムシ』をご覧になって客観的な感想はいかがでしたでしょうか?

朝倉:うーん(笑)。客観的かはあまり自信がないんですが、やっぱり役者さんの演技が生きた映画になっている気がしていて。それはすごい嬉しいですね。

●朝倉監督が出来るまで
——ここで『ドクムシ』以前の朝倉監督について伺います。1番最初に映画を好きだと思った頃はどんな作品を観てたんですか?

朝倉:あまりよく覚えてないんですけど、子供の頃『あぶないデカ』を興奮して観てました(笑)

——最新作がありますね(笑)

朝倉:そうなんです!夕張から帰ったらドキドキしながら行こうかなと思ってます(笑)。ホラーは大人になってから観るようになったんですけど、それまでは怖くて見れなくて。ホラー映画以外は結構好きで色々見てましたね。

——ホラーは怖かったんですか?それは意外な(笑)。ホラーのどういったところに惹かれますか。

朝倉:ホラーには、エンターテインがあるなって思います。怖い映画を作ろうっていう意思が1つの娯楽としてあって、そこが1番好きですね。

——ホラーの中でもスラッシャーはどういうところが好きですか?

朝倉:ホラー映画の特色として非常にわかりやすい。爽やかだなと思います。目で見てわかるのが凄い好きですね。

——元々映画に携わろうと思ったのは何がきっかけだったんですか?

朝倉:映画やりたいなぁと漠然と思って大学で映画を撮ったりしてたんですけど、全然ぱっとしない感じで(笑)。よく遊びちょっと映画撮り、みたいな大学生活だったんでそんなに本数はないんですけど(笑)。

——ジャンルとしては?

朝倉:普通のドラマかな。ホラーとかサスペンスとかではなくて、風俗嬢の女の子がビジネスを立ち上げるような(笑)。

——今のイメージと全く違いますね(笑)

朝倉:そうでしょう?それが健康ドリンクを作るビジネスなんですけど、それでみんなバタバタと人が死んじゃうみたいな(笑)。修了制作でそういうものを作って。大学を卒業するときにどうすれば映画業界で働けるのか全くわからなくて、コネもなかったし。頼まれてバラエティーのADをやることになりました。

——テレビ業界だと映画の世界とはまた違うと思いますが、どうでしたか?

朝倉:違いました。でも非常に素晴らしい人たちが周りにいっぱいいて社会勉強をゼロからさせてもらった感じで楽しかったですね。

——逆にこのままテレビで行こうとならなかったのは何故ですか?

朝倉:「そのまま行ったらプロデューサーになってお金持ちになれるよ、朝倉」って言われたんですけど、私テレビっ子じゃないしなーって言う感じで(笑)。

——テレビより映画ばかり観ていた感じですか?

朝倉:ですね。映画が好きだったし、周りの人たちがみんなテレビを大好きな人たちだったんで「あー私はここにちゃいけないな」って。真面目にもう一回映画やってみたいなと思って、会社を辞めて映画美学校に入りました。日本映画だったらやっぱり黒沢さんがすげえかっこいいな!と思ってました。黒沢清、高橋洋に憧れて映画美学校に入ったんです。

——美学校ではどんな生活だったんですか?

朝倉:学校に入ると映画の仕事ができるかなと思って行ったんですけど、大学の時とまたちょっと違う映画だけの友達がいっぱい出来て。友達や学校の講師の方々と映画の話をするっていうのが本当に楽しかったですね。私はADの経験があったんで、入ってすぐに助監督とかやらせてもらって、映画の仕事やドラマの仕事が結構すぐ出来ました。

——入ってどれぐらいでお仕事ができるようになったんでしょうか。

朝倉:入って2〜3ヶ月位で講師の方に現場に呼んでもらいました。実習もあって凄く忙しい時期だったんですけど、並行してやるのも楽しかったですね。

——デビュー作の『クソすばらしいこの世界』や『リアル鬼ごっこ ライジング』の『佐藤さんの正体!』拝見して、女の子同士の関係というか人間の関係性を描くのが非常にお上手だなと思いました。

朝倉:ドラマも撮りたい(笑)。色々撮りたいですね。

——特にホラーだけってわけではないんですね。

朝倉:ではないです。ホラーにはやっぱり特別な想いはありますけど。最新作は音楽ドキュメンタリーの『RADWIMPSのHESONOO Documentary Film』だったりするんです(笑)

——音楽系のドキュメンタリーというの全く初めてですか?

朝倉:初めてですね。RADWIMPSのおかげで良い映画ができたなと思っています。

——物語を撮るのとどういうところが違っていましたか。逆に近いと言うところもあるんでしょうか?

朝倉:近いところは全然なかったんですけど、編集が劇映画のシナリオ書いて直していく作業に近いので、単純にシナリオの力がつくのは勉強になるなーっていう感じがしましたね。

——昨年から今年にかけて新作3本が劇場公開になりました。女の子たちが死とゆるーく遊ぶ『女の子よ死体と踊れ』に、人間の暗部を直視した『ドクムシ』、音楽ドキュメンタリーの『RADWIMPSのHESONOO Documentary Film』と、全くタイプが違う作品を手掛けられて、今後ますますお仕事の幅が広がりそうですね。

朝倉:そうですね!だといいんですけど(笑)

執筆者

デューイ松田

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映画『ドクムシ』公式サイト

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