『ドリーム ホーム 99%を操る男たち』ラミン・バーラニ監督オフィシャルインタビュー
『アメイジング・スパイダーマン』シリーズなどで世界的スターへと飛躍を遂げたハリウッド映画界若手きっての演技派俳優アンドリュー・ガーフィールドが主演する社会派サスペンス『ドリーム ホーム 99%を操る男たち』が、1月30日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほか全国順次公開となる。
本作で描かれるのはリーマン・ショック後のアメリカ・フロリダ州を舞台に、金、欲望、モラルの間で人生を狂わせていく男たち。ノーベル賞を受賞したアメリカの経済学者ジョセフ・E・スティグリッツが『世界の99%を貧困にする経済』の中で唱えた説をベースに、住宅ローンの返済不能により家を差し押さえられた人々への徹底取材を敢行。2分で強制退去を強いられたり、人々の運命を決める裁判がわずか60秒で済まされるといったにわかに信じがたい実態をすくい取るかたちで映画化された。
Q:この映画のためにリサーチしたことを教えてください。
ラミン・バーラニ監督:多くの時間を通称“ロケット・ドケット”と言われる裁判で過ごした。“ロケット・ドケット”とは、譲渡抵当実行手続きに関する裁判で、60秒間のうちに判決が下ってしまうスピード(略式)裁判のことを指す。この形の裁判は映画の中にも登場してくるんだけど、アンドリュー・ガーフィールドと息子役のノア・ロマックスがまさに“ロケット・ドケット”裁判の真っただ中にいるシーンが映し出されている。どれぐらいの早さでその裁判が行われるのかを目の当たりにすることができるよ。そして、そのシーンで判事が述べるように「この後にも4万件も続いている」という状況なんだ。こうした裁判に腐敗は付き物で、“デュアル・トラッキング”というシステムがあって、同じ銀行の2つの異なる部署が家主に対して全く違うことや意見を述べることを指す。たちまち家主は悪循環のシステムの中に取り込まれ、ゆくゆくは家を失ってしまう。末恐ろしい世界だよ。不動産業者とも多くの時間を過ごしたんだけど、彼らの全員が銃を持ち歩いていた。実際の強制退去の場面にも立ち会ったこともある。本当に恐ろしい出来事だった。
Q:主人公デニスの家族が強制退去に遇う2分間は、どういう演出プランを持っていましたか?俳優とのディスカッションはありましたか?
バーラニ監督:強制退去のシーンはすごくパワフルなシーンだし、一番気に入っているシーンでもある。このシーンはチームワークによって作られていて、アレックス・ディジェルランド(プロダクションデザイン)が家を全く空の状態で用意してくれて、もともと誰かの家ではなく全くいちからデザインをするところから始まっている。ボビー・ブコウスキー(撮影)がこのシーンで光を外から窓を通して内側にどう当てていくのか設計をしながらやってくれた。それは、僕がこのシーンに関しては、カメラ以外の機材を一切中に入れない方針でお願いしたからなんだ。そういう方針を取ることで、役者たちに360度自由に演技をする空間を与えることができ、彼らは脚本をベースに入れながらアドリブも含め、強烈なシーンに身を置いて演じてくれた。
家作りに関してはアンドリューと母親役のローラ・ダーンも一緒に作業をしていて、アレックスと一緒に、これは自分のキャラクターにとって何か意味があるとか、感情面で繋がりのあるものをいくつか作ったり決めていき、それを家の中に置いていくという作り方をしていった。それを役として手にした時に、感情面での繋がりがあるので、そこから生まれてくるものがあるはずという狙いがあったんだ。
そこにさらに、本物の保安官、この人はなぜか役者経験があるんだけど、実際に強制退去に立ち会ったこともあって、存在感がとにかくすごい。あとは、2台のカメラを配して自分は邪魔にならないようにどいていたんだ(笑) あとは、マイケル・シャノンのような天才に自由に演じてもらう。
Q:このシーンへの俳優達のリアクションはどんなものでしたか?
バーラニ監督:アンドリューは、当初は「僕はリック・カーバー(退去を迫る不動産ブローカー)が言っていることの方が正しいと思うから、このシーンで突然退去を迫られても僕は怒りなど込み上げてはこないと思う。ローンが払えなかったのはデニス(主人公)のせいな訳だから」と言ってたんだ。でもいざやってみると最初に大声を出したのはアンドリューだったんだ(笑) 撮影の後、彼は「ここまで強烈なシーンになるとは思っていなかった。自分で身を置いてみないと感じられないものがある」と言っていたよ。
Q:俳優でない人々をキャスティングすること、そして即興的な演技について教えてください。
バーラニ監督:保安官以外にも、出演者の中に普通の人々も取り混ぜた。住人が去った後に住宅に入って荷物を運び出すクルーも、実際にそれを仕事としている人達なんだ。デニスが自ら強制退去に関わるようになってから登場する住人達の多くも実際そこに住んでいる人達だ。僕からはアンドリューに誰が俳優で、誰が俳優じゃなくて普通の人か、ということを教えたりはしなかったので、アンドリューはどういう反応が返ってくるのか分からない状態で演技をしていた。全ての俳優がそうやって即興をやることに対して快く承諾してくれていた。両者ともすごく素晴らしい演技を見せてくれたよ。
Q:アンドリュー・ガーフィールドとの仕事について教えてください。
バーラニ監督:アンドリューと会って、この映画プロジェクトのことを話してみたら彼は物凄く気に入ってくれた。アンドリューにとって、どこか個人的な思い入れがあるようで、彼自身の人生と重ねて考えられるところが多かったみたいだね。そこで、主人公の年齢をアンドリューの年齢と同じになるように直したんだ。それを受けて、アンドリューは出演を引き受けてくれた。そこから2人で脚本に手直しを加え始めたんだ。彼にとってキャラクターがより身近になるようにね。
実は、アンドリューの年齢に合わせてキャラクターの年齢を30歳に一度変えたんだけど、彼は27歳という設定にしたいと言ってきたんだ。その方が、まだ大人になり切れていないような粗削りさが残っていて、リック・カーバーのような誰かを師匠として仰ぐ用意もまだある、というのがアンドリューの意見で、僕はとても賢いアイディアだと思って大賛成したよ。今回のアンドリューのように、作品に対して強い思い入れがある俳優との仕事においては、作品自体のパワーアップのために俳優の意見を積極的に取り入れることが大事だと思う。
Q:マイケル・シャノンが演じるリック・カーバーというキャラクターについて教えてください。
バーラニ監督:リック・カーバーというキャラクターはすごく強いパワーを持っている。彼のセリフの多くは心を乱すような耳の痛いセリフが多いけど、一理あることも多い。彼の言うことに納得できてしまうことが恐いところなんだ。映画全体に通じる曖昧な道徳観に寄与してくれるキャラクターだね。
Q:マイケル・シャノンとの仕事について教えてください。
バーラニ監督:マイケルは今日、現役で活躍している俳優の中で最も素晴らしい俳優の一人だと思う。僕の彼に対する印象というのは、勝つために予め仕組まれたスロットマシンのような男で、スロットマシンのレバーを引く度に金貨がごまんと流れ出てくるような男だね。彼の演技はとにかく素晴らしいの一言に尽きる。僕からしてみれば、このキャラクターを演じるために生まれてきたのではないか、と思える程だったね。彼との仕事は本当に充実していた。一本筋が通っているような一貫性がある俳優で、いつも同じ強いエネルギーを継続的に放つことができる俳優。彼は役柄をとことん自分のものにして、情報や素材の少ない中でキャラクターを最大限に魅せることができる人なんだ。
Q:観客に感じ取ってほしいことは何ですか?
バーラニ監督:ニュースやデータを通してしか知らない世界の実情を、多くの人に知って欲しいと思っている。実際に遭遇した時にしか理解できないような激しい感情を。この作品は、単に社会の問題や課題を挙げているわけではないんだ。むしろ感情的なヒューマン・ドラマであり、悪魔との取引についての物語でもある。そして、エンディングでは特に答えは提示されないから、その先を想像して欲しいんだ。エモーショナルなサスペンス映画を期待して来た人が、映画館を後にして自然と議論をしたくなるようになれば本望だよ。
執筆者
Yasuhiro Togawa