キングレコードでホラー秘宝レーベルのプロデューサーとして活躍する山口幸彦さん。通常、ゆうばりファンタには作品のプロデューサー、ディストリビュータとして参加、イベントの司会・インタビューも手掛ける山口さんだが、今年のゆうばりファンタでは初監督作品『ぼくのセックス』を引っさげて堂々の監督デビューとなった。

登場人物は2人だけというシンプルな構成。交際を始めて3ヶ月、後には引けない40男とセックスを許さない女子大生の攻防の果ては!?
女子大生・奈未を演じたのは繊細かつ大胆な演技力で数多くの監督からラブコールを寄せられているしじみさん。奈未との一夜に賭ける40男・真一には人気シリーズ『怪談新耳袋殴り込み!』で切り込み隊長として心霊スポット行脚を続けるライターのギンティ小林さん。
『ぼくのセックス』のタイトルどおり、勝手な思い込みが炸裂する40男の痛過ぎるモノローグの数々。爆笑する人も反省する人も彼の恐怖の結末を一緒に体験してほしい!






























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■何故、名プロデューサーが監督に!?
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——普段はプロデュース業をされている山口監督ですが、何故今回監督デビューをされたんでしょうか?

ギンティ:最大の疑問ですよね!何故この場にいるのか。(一同爆笑)

山口:真面目な話、ゆうばりで触発されたんです。去年『ビー・デビル』のディストリビューターとして来たんですけど、女優さんを初め韓国チームのお世話で韓国コミュニティで過ごしてたんですね。その一緒に騒いでいた仲間のオ・ヨンドゥ監督が『エイリアンビキニの侵略』でグランプリを獲って、ナ・ホンジン監督を始めとした先輩たちが大喜びで祝福しているのを見て、ゆうばりでこういう若手たちと闘いたいな!と思い始めて。
さらにその思いを強くしたのが、『先生を流産させる会』と『へんげ』がカナザワ映画祭で話題になっていたことです。自主から来ている映画がメジャーマイナーを超えて評価される状況は嬉しいことではあるんですけど、自分もプロデューサーとして清水崇・井口昇・山口雄大・豊島圭介たちと一緒にジャパニーズ・ファンタスティックムービーを作ってきた片隅にいるという自負があって、負けられない!とあえて自主映画で若手と闘いたいと思ったんです。

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■山口雄大なら坂口拓、井口昇ならデモ田中、
僕にはギンティ小林だった
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——そんな経緯があったんですね!キャスティングはどう発想されましたか。

山口:キャスティングは、例えば山口雄大なら坂口拓、井口昇ならデモ田中、必ず映画にこの人がいたら安心するって俳優がいるんですね。ぼくの場合を考えたら『怪談新耳袋・殴りこみ!』シリーズで何年も一緒にやっている仲間ということで、ギンティさんしかいなかった。映画ライターではあるけれどスター性があるし、『殴りこみ!』シリーズはギンティさんが主役と思っていたんです。

——ギンティさんは役者として藤原章監督や杉作J太郎監督の映画に出演されてますが、山口監督のオファーはいかがでしたか。

ギンティ:藤原さんとは一緒に遊んだ仲で、現場で紙渡されて「この台詞読んで」ってくらいだし、杉作さんの監督作は僕は男の墓場プロのメンバーなのでスタッフとして手伝いながら、出番があれば出るという感じで。だから、今までは映画を作りたい方のキャストの隙間を埋めるお手伝いという感じです。山口さんからのオファーの時も、たまたま僕が仕事の用事で電話したらベロンベロンに酔った状態で、「話は変わるけど今度映画作るから出てくれません?」って言われて。また隙間を埋めに行くくらいの気持ちで「ハイ」って(笑)。内容は僕が「女と闘う映画」と聞いた程度です。だから山口さんの言葉を今聞いてびっくりしたんです。「闘いたい」って!(笑)

——現場ではそんな話はされなかったんですか。

山口:それは自分の中のテーマなので役者さんには言ってなかったんです。

ギンティ:ここまで熾烈な演技合戦になるとは。脚本が上がって来たら、津川雅彦が演じるようなエッチシーンはあるし、ええっ!!と思って(笑)

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■過激かつ深い演技を求めたから、しじみさんに
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——しじみさんはどんな経緯でオファーされたんですか。

山口:今まで仕事でご一緒出来たことはなかったんですけど、凄い演技をされる女優さんという認識はありました。これはしじみさんはご存じないと思うんですが、一度僕のプロデュース作品でしじみさんをキャスティングしようとしたんですけど頓挫して、残念に思ってたんです。
今回は相当過激な役だし、過激なことを過激にやるだけでもダメなので、しじみさんしかいない!と思ってました。結局山口雄大監督に紹介してもらったんですけど、しじみさんはかなり悩まれたらしいです。

——しじみさんはどういったところを悩まれたんですか。

しじみ:脱いだりするのをやめようかなと思っていて、色々悩める次期だったんです。でもやってよかったです(笑)

——やめようと悩んだのは何がきっかけだったんでしょうか。

しじみ:些細なことなんですけど、カラミのシーンがあって相手の人が「おっぱいをいっぱい触れるから何度もリハーサルやりたい」って言ったんです。ジョークだと分かっていても「キモ!」と思って。そんな気持ちでやっている人がいるんだなって。本当は脱ぎのある役も脱がない役も両方やって行きたいですけど、脱ぐとオファーがそちらに偏ってくるので悩んでたんです。今は仕事は減りましたけど、両方出来るようにシフトしているところです。

——仕事の場でそれを言われると辛いですね。そんなしじみさんを山口監督はどうやって説得したんですか。

山口:撮影の2、3日前に内容の打ち合わせがあったんですけど、当日渋谷の待ち合わせも来てもらえるかどうか分からねー!って混沌状態で。結局来てくれてシャイカーへ打ち合わせに行ったんですけど、公園坂を上がりながら「まだ悩んでいるんです」「しじみさんしかいないんです!」って口説きながら向かった記憶がありますね。あの坂はキツかった。
でも打ち合わせが終わって帰って来たときに「決めたら全部やりますので」って言ってくれて、その後は完全な修羅の女になってくれました。本当、役者さんって凄いなと思いました。

——しじみさんは悩んだ中でオファーを受けてみようと決心されたのは何故ですか。

しじみ:色々な役をやって来ましたが、代わりがいくらでもいる中で、私でと指名していただいたのは本当に嬉しいことだったんですね。役者冥利に尽きるし、やってみよう!と思って。設定を自分とダブらせたという事もあります。その時の悩める気持ちをぶつけました(笑)

——ひょっとして処女かもと思わせるような雰囲気から修羅の女まで、しじみさんの演技力を堪能しました!

しじみ:ありがとうございます!

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■撮影初日秘話・山口幸彦監督、名言炸裂
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——あと、面白かったのが、ギンティさんの一方的な思い込みのモノローグです。この男は酷い目遭うべき!と観客がジャッジしたくなるような勝手ぶりで(笑)。男女の思うところの違いが描かれていましたが、ギンティさんは演じていかがでしたか。

ギンティ:しじみさんとはほとんど面識がなくて、初日に渋谷の待ち合わせ場所で挨拶したらすっごいよそよそしくて(笑)

山口:しじみさんには「こんな間柄なんでギンティさんとはあまりしゃべんないで」って事前に言っておいたんですけど、僕もしゃべれなかったくらいだから(笑)

しじみ:凄い人見知りで、全然しゃべれなくて。いつも異端な感じなんです。

——ギンティさん、嫌われた!ってショックだったんですね(笑)

ギンティ:あと何時間後にこの人と絡まなきゃいけないのに……と思うと怖くて(笑)。そのムードのまま撮影がはじまったら、演出部が僕に「窓際でしじみさんの肩を抱いて決め台詞を吐いて、決まったつもりでしじみさんにキスしてそのままベットに押し倒しててバスローブをめくってブラを外すまでを一連で」ってことを「ジュース買って来て」程度の軽いタッチで言いだして……殺してやろうか! って思いました。ホント、童貞捨てる時より厳しい状態でしたね(笑)

山口:流れでそのまま行った方がいいと思って(笑)

しじみ:あの名言、めっちゃいいですよね!大好きなんです(笑)

ギンティ:夜景を見ながら「この街の夜景って綺麗だよね。オレはいつかこの街の上に立つ男になりたい」って……言わないよー、普通!!

山口:昔、六本木ヒルズで、本当に口説こうと思っていた女の子がいて。

——実際に言った台詞だったんですか!?

山口:美術館があって、ぐるっと回れるようになってるじゃないですか。あそこで「六本木の夜景キレイだね!」って。僕本気で「この上に立つ人間になりたい」っていうことを口説きの一環として言ったんです。(一同爆笑)今思い出したけどその子と付き合いましたよ。その後。

しじみ:それが決め手ってことですか!?

ギンティ:山口さんが気付いてない男の優しさがあったんじゃないですか。

山口:そうだったのかなぁ。

ギンティ:しかもあのシーン、相当細かく台詞を微調整しましたよね。僕も映画ライターとして、役者を取材したときに「あのシーンは監督の実体験から基づく思い入れのあるシーンなので大事に受け止めて演じました」って言われるときがあるけど、いざ自分がその立場になったら、「ここかよ!」と思って(笑)

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■しじみさんのセックス恐怖症体験
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——しじみさんはどう受け止めて演じられましたか。

しじみ:私もセックス恐怖症のようなところがあったので、すごく共感できました。

——今もそういうところはあるんですか。

しじみ:もう最近はないんですけど、昔AVをやっていた頃の名残があったんです。仕事でもないのに、カメラも回ってなくてギャラも貰えないのになんでセックスしないといけないの?って思っていた時があったので、その気持ちを思い出して演じました。

山口:しじみさんからその話は聞かなかったんですけど、僕の方は実体験って話をしましたね。セックス恐怖症の女の子とエッチしたことが本当にありました。後半の展開はフィクションですけど、実際はその後会えなくなって2ヵ月後くらいに呼び出し食らって行ったら、実は「セックス恐怖症で具合が悪くなった」って言われてブルーになりました。

——実体験が発想の元になった映画だったんですね!しじみさんは共感したとのことですが、後半の展開は気持ちよく演じられたんでは。

しじみ:そうですね!

山口:シナリオで絵コンテまで描いたんですけど、後半の展開で、しじみさんが「奈未ちゃんの一番気持ちが詰まっているシーンだから、利き手の左手を使っていいですか」って言ってくれたのが嬉しかったですね!。アクションに拘っていたので、右、左どちらから攻撃が来るのかという手を重要視していたので一から組み替えたんです。

しじみ:わがままを聞いてもらいました。

——効果としてCGは使っていますが、それに頼らない演技の部分が鬼気迫っていて素晴らしいと思いました!作品が完成してご覧になった時はいかがでしたか。

しじみ:ありがとうございます!最初に台本を読んだときと出来上がった映像がイメージと全然違ってました。最初はわがままな男女の話だなーって思っていて、人間の怖さもあり、ホラーの怖さもありってイメージだったんですけど、完成してみたら山口監督の女性像が浮き彫りになってましたね。女性は恐ろしいものだと思っていて、恐ろしいところが女性の良さだと思っているっていう、そんな女性像が分かって面白かったです!

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■女性の拳の味は…?ギンティさんのトラウマ体験
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——ギンティさんはいかがでしたか。

ギンティ:バイオレンスシーンは怖かったですね。僕、女の人に暴力振るわれたことがあって。

山口:え!そうなんですか?それは初めて聞きましたね!

ギンティ:ライターをはじめたばかりの20代のころ、お金がなくて女性のお世話になってたんです。ある朝仕事に行こうとした彼女がグウグウ寝てる僕を見て、正拳で頬を殴ったんですよ!女の人のパンチと言えども上からだと体重が乗ってるからすっごい痛くて。

山口:マウントポジションからやられたような(笑)

ギンティ:極真カラテの瓦割りと一緒ですね。あと怖かったのは、つきあっていた女性と口論になったときに、その女性が扇風機を投げてきて。その瞬間、扇風機のカバーが外れてプロペラが飛んで来たんですよ! 空とぶギロチンかって感じで……。思わず足がすくんじゃう。男性より女性の方が怒ると怖いですよ。だから撮影でしじみさんに襲われたときは、演技じゃなくて本当に怖かったですね。しじみさんと僕では体格差はあるけど、殺されてもおかしくないな……って思いましたよ。

——女性は溜め込んで急に出しますからね。

ギンティ:撮影のときも演技だから受け止めなきゃいけないのに、怖くて目を閉じちゃいました。

しじみ:ギンティさんも共感するキャラだったんですね。

ギンティ:『ぼくのセックス』は、ちゃんと演技したことない自分が出てると思ったら恥ずかしいし観たくないってのはあるけど、物語としては凄く面白いと思います。こっちのはしゃいだ気持ちが一切女性に通じてないショックが出ていて。山口さん、もっとこういう脚本書けばいいのに。

しじみ:今後も撮っていかれるんですよね!実体験シリーズで(笑)たくさんできたら面白いなと思います。

——今後どんな映画を撮りたいと思っておられますか。

山口:僕実は、やりたい企画があって。やれるかどうかは分からないんですけど。
昔20年ほど前に名古屋でアベック殺人事件ってあったんですよ。若いアベックがデートしてたら若い不良グループに拉致監禁されて少女はレイプされ、少年は暴行されて殺されたんです。そのグループのリーダーが少女に、“死ぬ前に食べなよ”って果物を渡したんですね。少女は彼氏のことお兄ちゃんって呼んでいて、“お兄ちゃんと天国で食べます”って、食べずにそのまま殺されたらしいんです。そういう悪魔のような世界の中の純愛、極限の愛を撮ってみたい。これはメジャーでは無理なので自主でしかできないと思っています。

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■若手の短編と一緒の興行も視野に
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——『ぼくのセックス』は、どういったところを観て欲しいですか?

ギンティ:しじみさんの演技ですよ。怖い女性キャラが好きな人って結構いると思うんですけど、どこの国に出しても恥ずかしくない怖い女性キャラです。

山口:僕はシナリオを沖縄で書いたんですけど、地元の人しか行かないような場末のキャバクラに独りで行ったんです。周りは女の子たちの隣に座ってベタベタやってる中、独りポツっと待っていたらキレイな人が来たんですよ。何故か正面に座って。

——面接みたいですね!

山口:そのまま2時間居たんですけどその間隣に来ることなく(笑)。その怒りをシナリオにぶつけてるんでその人に見て欲しい(笑)

ギンティ:ホントに見てくれって気持ちさえもワガママ!この街の頂点に立つ男は違いますね!(笑)

しじみ:見所は、男女の自分勝手さが凄い伝わるんですけど、それだけじゃない。男の人がセックスしたいだけじゃんっていう風に取れるかもしれないですけど、女の人も苦手でも省みて欲しいなと思いました。

ギンティ:僕ら撮ってる間にこんなにちゃんと話したことなかったですよ。初めて気持ちが1つに(笑)

——劇場公開予定はありますか。

山口:一応自主で作ってるんで、自主で披露したいとは思っています。あと今若手の監督が来ていて、20、30分の作品で単独で上映できないけどいい作品があるので、そういう人達と集まって、“今これが凄い!”って打ち出すような興行はやってみたいですね。
会社に提案するのは恥ずかしいので他社が手を上げてくれたら嬉しいですけど。あと海外の映画祭にも出したいです。

ギンティ:確かに自分の会社に提案するのは危険かもしれませんね。「オレはこの街の頂点に立ちたい」というスカーフェイスなみの野望がバレちゃいますから(笑)

執筆者

デューイ松田

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