フランス レジスタンスの英雄ジャン・ムーランを逮捕・拷問し、様々な戦争犯罪で罪に問われながらも、大戦後にはアメリカ軍工作員として活動、その後には南米の軍事政権に貢献し、チェ・ゲバラの暗殺計画をも立案した元ナチス親衛隊員クラウス・バルビーの衝撃のドキュメンタリー映画『敵こそ、我が友〜戦犯クラウス・バルビーの3つの人生〜』が7月26日より、銀座テアトルシネマほか全国ロードショーとなる。

アカデミー賞受賞監督であるケヴィン・マクドナルドは、再びドキュメンタリーに回帰、アンデス山脈に“第四帝国”創設を夢見たナチス残党の軌跡を辿ることによって、政府とファシストとの醜悪な関係を暴き、戦後の米ソ裏面史を白日の下にさらすことに成功した。力強いストーリーテリングにスリラーさながらの緊迫感溢れる展開、チェ・ゲバラの演説風景やバルビー裁判の貴重なアーカイブ映像で構成された衝撃作!!



なぜ、ドキュメンタリー映画『敵こそ、我が友〜戦犯クラウス・バルビーの3つ人生〜』をアミン大統領を題材とした大作である、『ラストキング・オブ・スコットランド』後のプロジェクトに選ばれたのですか?

正にそれが理由だよ。アフリカであんな複雑な映画を制作することは、とても骨の折れる仕事で、たくさんの人たちと働いたし、大きなお金も動いた。その後で、気心の知れた友達と、小さなカメラをひとつ担いで世界中を飛び回るだけで撮ることのできる、このような映画を作るのは大きな開放感があった。知的好奇心の満足だけを追究すればよいのは、とても楽しかった。画面の美しさ云々を、あまり気にし過ぎないでね。
僕は『運命を分けたザイル』のようなスタイリッシュで、視覚的にスケールの大きいドキュメンタリーも作ったけれど、本作では、意図的に視点を一点に集中させ、王道的なドキュメンタリーを作りたかった。ただ、誰かが座っていて、何か喋っている。照明はそこだけに当たっている。華美な要素は一切なく、“見えるものより、言われていること”が重要である、そんなドキュメンタリーにしたかったんだ。

この映画を観客にどのように見てもらいたいとお考えですか?

この映画を歴史的映画として受け止めなければ良いなと思います。それよりも、現代との類似点を見てもらいたい。それに「ドキュメンタリー映画にはあまり興味がない」というような人たちにも見てもらいたいね。バルビーの人生は非常に興味深いストーリーだし、映画を通じて人々に何らかの感情を喚起させると思っているので、予想に反して面白いと感じてもらえるんじゃないかな。多くの問題を投げかけているしね。

類似点と仰いましたが、例を挙げると?

今、グアンタナモで起きていることに目を向けてみてほしい。拷問が行われていて、そこには真実を吐かせるためにはどのように痛めつければいいのか、どのような拷問が最も効果的か、ということを夜も寝ずに考えている人たちがいる。拷問から逃れるためには嘘を言うこともある、ということを多くの人が知っているけれど、それでもまだ拷問にかければ真実を得ることができると信じている人たちがいるんだ。映画の中で、バルビーが「あなたが全員が私を必要とした」と言うように、現代世界でもいまだ彼のような人物を必要としているんだと僕は思ってるよ。

“バルビー裁判”の映像が劇中で使用されていますが?

フランスの法律では、裁判の映像記録は一切禁止されていたんだ。でも、この裁判のために特別法を通過させて、初めて裁判記録の映像が残せるようにした。ただし、政府から20年間は記録の使用・一般への公開を禁止すること、という条件が付いた。従って、裁判は1987年だから2007年に解禁になった。本作を制作にするに当り、使用許諾を取り付けたんだ。

日本では『ヒトラーの贋札』や『ヒトラー 最期の12日間』などのナチス関連の映画が封切られています。人々のナチスへの関心は今も高いということになりますが、なぜだと思われますか?

『敵こそ、我が友〜戦犯クラウス・バルビーの3つの人生〜』は、ナチスについての映画ではない。私はそういうつもりで制作しなかったからね。これは、我々のナチスへの妄執についての映画なんだ。我々が、いかにナチスは究極の“悪の権化”で、疑いようもなく非人道的で、我々とは全く違うと思いたがっているか。それでいながら、国家としての我々は、どのようにバルビーのような人物を利用してきたかを描きたかったんだ。アメリカ、イギリス、フランスなどの政府が彼を利用してきたから。

道徳の境界線は、白黒はっきり分断できるものではなく、灰色の部分が多い……。映画の終わりで、バルビーは、暗がりに立っている。1987年だね。リヨンで、裁かれるためだ。彼はたったひとり。たくさんの人が彼を利用し、求め、彼から何かを欲しがったにもかかわらず、ひとりぼっちなんだ。人と人としてのレベルでは、同情を禁じ得ない何かがある。

この映画を撮っていて大変興味を引かれたことのひとつなんだけれど、バルビーは非常に良い顔をしているんだ。とても感じがいい。孫がいて、良いお父さんで、良いおじいさんで。気前が良くて、チャリティーなんかにも出し惜しみをしない。その反面、極右思想を持った腕利きの拷問者で、陰惨なことをした。大変興味深い矛盾だよね。

映画を撮り始めたのは、いつですか?

1992年か93年ごろ。初めは、短いドキュメンタリーをホーム・ビデオ用のカメラで撮りっていたよ。アマチュアとしてね。それをBBC関係の誰かが見て、BBCから小さな仕事をいくつかもらい、大きな仕事に移行していった。それから、劇場用の長編ドキュメンタリー映画に興味を持つようになったんだ。
最近、質の高いドキュメンタリーがテレビで放映されることがほとんど無くなってしまったから(少なくとも、イギリスでは)、わざわざ映画館まで足を運んで、ドキュメンタリーを観に行こうという気になっていると思うんだ。また、フィクションの劇映画に、面白いものが少なくなった。商業的になり過ぎてしまって、刺激的とはいえなくなってきた。だから人々は今後もっとドキュメンタリーに向かうんじゃないかな。

次の作品「STATE OF PLAY(原題)」の次の作品も既に発表されましたが、どんな作品ですか?

来年の4月から撮影開始したいと思っているんだけれど、「The Eagle of the Ninth(原題)(原作となった本の邦題は、「第九軍団のワシ」)で、ローマの第9軍団の話だよ。物語の舞台は現代ではなくて、ローマ時代のイギリス、紀元2世紀のね。

今までの作品の系譜とかなり異なるので驚きました。

そうだね、ずいぶん違う。僕が小さい頃に大好きだった原作本なんだよ。少年向けのアドベンチャー・ストーリーさ。ひとりのローマ軍の大隊長が怪我をし、失った名誉を挽回するために「ハドリアヌスの長城」の北、スコットランドで起きた第9軍団失踪の真実を追っていくというミステリー。
僕は、この映画を“紀元2世紀のスコットランド版ジョン・フォード監督『捜索者』と勝手に呼んでいるよ (笑)。

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執筆者

Naomi Kanno

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