2006年アカデミー賞外国語映画賞受賞を初め、数々の賞に輝いた映画『ツォツィ』。
もがきながら生きるリアルな命の鼓動を描き、多くの人々に温かな希望を見せてくれた。
暴力の中で生きてきた少年・ツォツィが無垢な魂に出会って起こる偶然の奇跡は、きっとあなたが生きる毎日を少しだけ照らしてくれる・・・。
主演のプレスリー・チュエニヤハエにインタビュー!




——優しいシーンと暴力的なシーンがありますが、現場はどんな感じでしたか?
「この作品は時間軸通りには撮影されませんでした。監督はその日に撮るシーンについて、毎回細かく説明してくれました。演劇とは違うので、なかなか慣れなかった僕にはそれがとても役に立ちました。ツォツィがどんどん変わっていくリズムを大事にしたかったんです。全体像で読み込んでいたので、そのリズムをつかめば、どの時点の彼を自分が演じているのか理解できました。だから、シーンによって違いもあまりありませんでしたし、難しくなかったんです。ただ役になりきっただけです。」

——最初はブッチャー役で受けていたそうですね。脚本のどこに惹かれたんですか?
「脚本は本当におもしろくて、読むのを止められなかったぐらいでした。どのキャラクターもリアルだと感じましたが、その中でもツォツィに惹かれたのは、物語が進むにつれてどんどん彼が変わっていくからなんです。そういう深みが感じられるキャラクターだったので、最初はブッチャー役で受けたんですが、途中で監督に”ツォツィをやらせて下さい”って頼んだんですよ。」

——赤ちゃんと共演することで大変だったのは?
「赤ちゃんと共演するのは本当に大変なことですよね(笑)。笑って欲しい時に笑ってくれなかったり、泣いて欲しい時には笑ってたり。今回はとてもラッキーで、双子の赤ちゃんに出てもらえたんですよ。男の子と女の子だったんですが、だいたい泣き役は男の子の方でした(笑)。この映画で経験するまで、僕は赤ちゃんの抱き方も知らなかったんですが、いろんなことを教えてくれましたよ。」

——なぜツォツィは赤ちゃんを連れ帰ったんだと思いますか?もしプレスリーさんがあのような状況に遭遇したらどうしますか?
「一つに自分と重ね合わせたからだと思います。彼はある意味で親に捨てられた子供ですよね。もし赤ちゃんをあのまま放置していたなら、きっと自分のようになってしまうと思ったんじゃないでしょうか。そしてもう一つの理由としては赤ちゃんと視線を合わせることで、そこに人間としてのコミュニケーションが生まれたからだと思います。あの瞬間、彼らの間に絆ができたんです。それによってツォツィの中に良心が芽生えたんですね。彼は赤ちゃんによって、彼の中にあった自分でも気付かない感情を認識するようになります。」

——舞台で活躍しながらも映画に興味があったそうですが、どのような映画に影響を受けましたか?
「役者さんのいい演技が引き出されている作品が好きなんです。『ハンニバル』や『マグノリア』なんかが好きですね。」

——演じられる上でどういうことに気をつけられました?
「監督に言われたのは、”ツォツィはあまりしゃべらない”ということでした。大事なのはにじみ出るような表現だったんです。とにかく役になりきったんです。」

——主人公と似たような環境の地域で育ったそうですね。
「僕はスクールに入りましたから。学校行って、その後ドラマスクールに行って・・・という忙しい日々を送っていたので、彼らのような生活ではありませんでした。」

——格差が描かれていますが、そのような社会をどのように思いますか?
「アパルトヘイト時代には金持ちは白人、貧乏人は黒人というような分け方がありました。でも今回の作品に描かれているように、今は金持ちの黒人もいます。実際には幸運なことに公共の政府の住宅政策というものがあるんですよ。作品に出てくる状況も一つの真実ではありますが、それと同時に地域社会を良くしていこうという動きもあるんです。この映画に出てくる金持ちが黒人であるところがおもしろいですよね。」

——アパルトヘイトが廃止になった後、自身で変化を感じられることはありましたか?
「僕は全く経験してないですから。当時の資料を読んだりしたので知識としてはありますが。今回の映画に登場するような、いわゆるスラムというような場所が存在するのはアパルトヘイトの結果ですよね。もしそのようなものがなければ開発も進んでいただろうし、もっと皆で豊かな暮らしをしてたんだろうと思います。でも僕は差別にあったこともないし、別の世代なんです。ただ、この映画では当時自由の為に戦った人達への深い敬意を描いてます。そういう方達の努力がなければこういう映画も存在しなかっただろうし、こういう現状もありえなかったでしょう。」

——この映画に参加することでご自身変わられたことはありますか?
「この役を演じたことで一つ教えられたことは、育つ環境は選べないということ。心がけたとしてもあのような人間になってしまうことはあるんです。これは大きな教えでした。また、人間的には特に変わったところはありません。有名になれば頭でっかちになってしまう人がいますが、僕にとって大事なのはこれから役者として演じる人間であり続けることです。普通の人間の気持ちがわからなければ演じ続けられない。常に謙虚であれ、と肝に銘じてます。」

——クワイトというジャンルの音楽にとても存在感がありましたね。
「非常に暴力的なシーンや、走ってるシーンによく使われていましたよね。クワイトはヒップホップみたいに若い人達が自己表現できない中で発散したいという気持ちから生まれた音楽なんです。だからと言って暴力的なものだけではなく、愛する女性に想いを込めて歌われることなんかもあります。いろんな中で生まれてきた、まさにこういう地域の中で生まれてきた特有の音楽なんです。15〜27ぐらいに年代は限られています。同じジェネレーションの人達の間ではハウスミュージックというものがありますが、特にこの年代の人間が好んで聴く音楽ですね。」

——人気アーティスト・ゾラと共演されてどうでした?
「いい人でしたよ!この映画に出てる人はテレビや映画なんかで活躍している人が多かったので、オーディションに行った時は緊張しました(笑)。でもこれぐらいでビビってちゃいけないと思って集中しました。」

——この映画のラストをどう思われますか?
「とても適切なラストです。最後に希望のメッセージが込められているから。監督がこのラストを選んだのは、観客に話し合うキッカケを与えたかったからだと思います。」

執筆者

umemoto

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