10月30日に閉幕した第18回東京国際映画祭。そのアジアの風部門では「台湾:電影ルネッサンス」と題した特集上映がなされ、劇映画・ドキュメンタリー合わせて11作品が上映された。今までにない斬新な題材・映像やキャスティングが魅力的な作品群だ。
 そのなかの1本「深海」は、昨年のコンペティション参加作品「時の流れのなかで」のチェン・ウェンタン監督の最新作。ヒロインは、刑務所帰りの女性・ユー。彼女は、かつての囚人仲間でクラブを経営する中年女・アンの元に身を寄せるが、愛らしさゆえ男が放っておかず、アンのもとを離れてハオと同棲を始める。だが、ユーの依存心の強さが災いし……というようなストーリー。ヒロインには90年代中盤のトップアイドルだったターシー・スー(日本公開作に「トレジャー・アイランド 宝島」)、そして相手役のハオにはアイドル俳優としてテレビで活躍してきたリー・ウェイと、どちらかというとアート系のチェン監督作品にしては異色のキャスティングだ。先ごろ発表された2005年台湾金馬奨(アカデミー賞)では最優秀音楽賞を受賞している、繊細に作られた秀作である。
 本作が映画祭で上映されるに際し、今回は、監督とリー・ウェイが来日した。ふたり揃っての舞台挨拶では、「李威」プラカードを持った女性ファンの姿も既にあり、すごい熱気。アイドルが演じるにしては冷たい部分のある性格の、だが、確かにどこにでもいそうな等身大の男を演じたリー・ウェイに、短い時間だったが話を聞くことができた。

$blue ●「深海」は、第18回東京国際映画祭「アジアの風」部門にて上映。2006年劇場公開予定。$





——「深海」が映画初出演だそうですが、最初にこの映画への出演依頼を受けたときはどうでしたか?
「この映画は女性の映画ですよね。男性は重要な役割ではないので、最初に出演を打診されたとき、マネージャに大反対されたんです。でも、僕はこれはいい挑戦になる、いいチャンスだと思いました。しかも監督はすごく有名な監督からですからお受けしたんです」
——チェン・ウェンタン監督の過去の作品はご覧になっていましたか?
「出演依頼を受けてからですが、チェン監督だというので『夢幻部落』(日本では2002年の台湾映画祭でのみ上映)を探して見ました。心地よい映画ですね。平和な生活が見える映画ですね。そのなかに濃い感情が表現されている映画だと思いました」
——実際に監督と仕事をしてみてどうだったでしょうか?
「監督は繊細で気を遣う人です。自分の考えも持っているし、すごく深い感情を要求するんです。いい映画にするためには、監督といろいろ話しあいました。チェン監督の作品の強みは、血が通ったリアルな人物像を描いているということだと思うんですね。つまり、正しいことをしているとか間違ったことをしているとかというのではなくて、自分の本当に気持ちを体現する演技が要求されました。まだまだ自分は努力が足りないなというふうに感じますけど、今回こんなチャンスをいただけたことをとても嬉しく思っています」
——それまでリー・ウェイさんはテレビドラマの仕事が多かったのですよね。映画の現場とテレビドラマの現場は大きく違いましたか?
「映画のほうがラクだと思います。ドラマだと一日中ずっと撮っていて、撮るシーンも多いから量的に厳しいものを感じます。映画は、一日に少しのシーンしか撮らないから集中してできます」



——このハオという役柄はヒロインの恋人になりますが、この役柄について共感できる部分、共感できない部分についてはいかがですか?
「僕はこの役とは全然違うタイプですよ。ハオは男性中心に考える男で、他人のことを考えていないですね。僕は他人に気を遣うほうだから、この役とは全然違います」
——演じるにあたっては難しかったですか?
「僕には準備する期間が足りなかったと思います。工場に務める会社員ですが、その役について勉強する時間がほとんどなくて、時間があればもう少し作りこめたと思います」
——工場という場所に関しては、どんな印象を受けましたか?
「工場は自分にとって新しい環境です。工場には、外国からの労働者もいるし、自分が平凡な人間に思えて、ぜんぜん違う人生が見えてくると思います。僕は、常に新しいものを深く考えるようにしているんですよ」
——ロケ地になった台湾南部の都市・高雄はいかがでしたか?
「高雄はすごく情熱的な街です。以前、ここでドラマを撮影したときに友達ができたんですが、その後、そこの人たちとは電話はしてもあまり会っていなくて、でも、会わなくても家族のような感じがしますね。食べ物も美味しいです」
——初めて出演した映画がこうして東京国際映画祭で上映されましたけど、これから出てみたいタイプの映画や役柄があったら聞かせてください。
「出演作は台本、内容がいちばん大事です。僕は初めての映画に出演して、いろいろなことを勉強しました。いちばん重要なのは、僕を感動させる作品だということです」

執筆者

稲見 公仁子

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