「正太郎と一緒に戦っている気持ちで見てもらいたい」 『鉄人28号』富樫森監督インタビュー!
半世紀前より観る者を魅了してきた「鉄人28号」が実写として甦る。手掛けたのは、『非・バランス』『ごめん』など人間ドラマを得意とする富樫森監督。『平成ガメラ』シリーズなどの視覚効果を務めた松本肇氏を始めとする強力なスタッフとともに、ファンも納得の“鉄人28号”を入れ込みつつ、鉄人を操作する主人公・正太郎を中心とする少年の成長ドラマを作り上げた。
超有名作品が原作とあって何かとプレッシャーがあったはずだが、監督は「やってみるしかないしね」と笑う。ただし、「今、鉄人をやる意義を必ず問われると思った」と語るように、やはり本作の完成までには多大な苦労があったようだ。そんな監督が『鉄人28号』に込めた思いを大いに語ってくれた。
$royalblue ★『鉄人28号』は3月19日(土)より新宿シネマミラノほかにて全国ロードショー!$
——漫画でもアニメでも名作として名高い『鉄人28号』ですが、本作の監督をオファーされた時の気持ちは?
正太郎のことを中心にやる作品にしようというオファーだったので、最初から原作通りの“ロボットバトル”ではなかったんです。俺としては、そういうお話であればぜひという感じでした。まあでも、みんなが知っている原作の、ましてやロボットで、CGが沢山でてくるであろう話なので、それはちょっと不安に思う部分がありましたね。
——ファンの多い作品というのはそれだけプレッシャーも大きいと思うのですが。
いやー、もうそれはやるしかないと(笑)。ああ、こんなにファンがいるんだというのは後でわかるというか。ストーリーの中心である正太郎の話は原作ではやっていないので、本作ははっきり言えば別物ですね。鉄人が出てきて、正太郎が操縦するというのはハズしていないんだけど、やっぱり原作とは違うものだから。ファンにはごめんなさいと思いつつね。
——正太郎のドラマを中心に据えた理由はなんでしょう?
実写でやるのは、正太郎のドラマをやることだろうと、僕たちが考えていたことなんです。今『鉄人』をやるならそういうことだろうと。誰が言い出したとかそういうことじゃなくて、この原作を今やるとしたらこんな話だなという感じがあったんです。違う話を中心に置く選択肢をあったとは思うんだけど。台本を作っていくときに、ケンカをする友達関係の話を大きくすることも、蒼井優ちゃんがやってる年上の女の人との関係をもっと大きくやる事もできただろうし。でも鉄人は父親が残したものなので、やっぱりそういう親子関係、家族の話がメインになっていくなあと、やっていくうちに固まっていきました。けど、確かにいろんな選択肢はあったはずなんですよね。より漫画っぽいものもありえたのかな?うーん、どうなんでしょうね(笑)。
——確かに難しいところですね…。監督自身、『鉄人28号』への思い入れは?
俺はアニメや特撮もののオタクではなかったので…。昔のアニメはもちろん面白いと思って見ていましたが、大人になってからアニメを見ることはなかったです。これまでやってきた作品も人を撮るタイプのものだったし。『鉄人28号』も、子供の頃の楽しかった、面白かった作品として記憶はあるけれどそれ以上の思い入れというのはないですね。ただ、皆が知っている作品だから、それに対する敬意というか、やっぱり大きなものをやるときの覚悟みたいなものはありました。でも、原作の大ファンの方には、「こんなやつに監督をさせたの?」みたいなことを言われてもしょうがないかなというのはあります。だから正太郎の成長譚みたいなことをやっちゃうってこと自体で、すでに違うものだとは思っているので、そこは勘弁してもらうしかない。一般の映画として見てもらえればいいんですが、そうはならないかな(笑)。とにかく、正太郎メインの話を作るということで一致団結してやっていました。お母ちゃんを大切にする、死んだ親父が残したものを受け継ぐみたいなものを最初は否定しているけど、自分で選び取っていく“ひと夏の話”のような。男の子が社会と触れ合う瞬間や、こんな風にして男の子は成長していくということが描ければと思ってやりました。
——では、撮影で一番大変だったことは?
一番考えたのは、今、鉄人を甦らせる意味です。今、『鉄人28号』をやる意義は何だろうかと必ず問われると思ったんですよ。その答えを見つけて、作品に込めなきゃいけないなあと。それでどんなことを考えたかというと、原作だと戦争中の兵器として作られたものが十数年後に甦るという話なんだけど、そこで俺にとって鉄人28号ってなんだったんだろうって思ったんです。で、アニメは俺が3つか4つの頃の時代そのものなんじゃないかと。昭和のにおいというか、本当はなくしちゃいけない大切なものを作品に込められないかなと思い浮かんで。今、昭和の時代の良さを失くしちゃっていいのかなーということを『鉄人』に盛り込めるんじゃないかなと思ったんです。職人さんたちが関係のない所で出てくるのもそれですし、登場人物の服や、警察の建物などの古さも、そういう意図があってわざと残しているんです。
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——ファンが最も気になっているところだと思いますが、鉄人28号を原作に忠実なデザインにした理由は?
過去のものを見ると、やっぱりその時代なりにかっこいいものを追求していたりするんですが、今回はオーソドックスなものがいいなーと。原作が好きな人も、「鉄人28号とはこんなのだよな」とか、「裏切らないでちゃんとやっているじゃん」とか感想をもってもらえるようなことにはしましょうとずっと言っていたんです。ただ大変だったのは、格納庫の造作や美術で、もっと鉄人に現代テクノロジーを入れることもできたんですが、そうしない方がいいかなと。動きもそうですが、今風でない、かっこよくない感じにしたいなと。オックスはそれに反して、“現代の最先端”という設定なのでああいう無機質な感じになりました。ただ、それらを定めていくのに、美術部とも特撮班ともけっこうやりあいましたね。
——本作で青空の下で戦うシーンに挑戦したと伺いました。それをやってみようと思ったのは?
あんまり見たことのないことをやりたかったというのが大きいですね。必ず一つの作品でやりたいことがあると思うんですが、それが今回は「青空で戦うシーン」だった。原作は夜の街で戦うんだけど、少年がメインの話だし、今回は白昼堂々戦わせてみたいなと思ったんです。
——キャストについてはいかがでしたか?正太郎役の池松壮亮くんはオーディションで決められたそうですね。
13歳くらいの子を探すにはとにかく沢山会うしかないんですが、池松くんが来たときは、みんなが「ああこの子じゃん」って感じで。30分で即断でした。
——決め手になったのは?
人の魅力って言葉では言いにくいんですけど…。「ああ、(正太郎が)いるいる」みたいな(笑)。今はもう大きくなってますが、オーディションや撮影の頃は大人にもなりきれない、子供すぎもしない半端な感じがかわいくて、そこが魅力でしたね。
——蒼井優さん、薬師丸ひろ子さん、香川照之さんたちもそれぞれの役柄を好演していました。
蒼井優さんの役は、天才少女なのでもっと無機質な感じの子でもよかったんですが…。結局ああいうニュアンスのある子に気がいくんですよね、俺が(笑)。香川さんはクライマックスのシーンがすごかったですね。何秒かで人の悲しみを表現できる人はなかなかいません。すごい人なんだなーと思いつつ、OKだしてました(笑)。薬師丸さんはずっとファンだったので、ぜひ一度お仕事がしたいと思っていたんです。今回、オファーを受けてくれてとても光栄でしたね。
——では最後に、観客の皆さんにメッセージをお願いいたします。
鉄人とオックスが戦うという原作と同じようにドキドキ、ワクワクする作品ですが、それプラス男の子の成長を盛り込んだ感動作品でもあるので、両方面白く見えてもらえれば。決してこの二つが分離しているとは思ってないので、最後の戦いで正太郎がどう強くなっているかを、一緒に戦っている気持ちで見てもらえると嬉しいです。
執筆者
yamamoto