「0&1(ゼロAndワン)」撮影密着取材報告
「『ワイルドナイト』ではピュアな残酷さを、今度はイノセント、無垢故に破滅していく二人を描こうと思っています。」0(石川絵里)と1(加藤隆之)、二人の殺し屋が巡り合い、愛し合い、仲間に追われる物語。「『ワイルドナイト』を超える作品に絶対しますよ」と中田圭監督。初監督作品が好評だっただけに、二作目に対する期待も大きい。けれども「プレッシャーはありません」。それを聞いてしまったら、見届けたくなるのは当たり前、中田圭監督の新作「0&1(ゼロAndワン)」撮影現場へ、時間(と体力)の許す限りお邪魔させていただきました。
デジタルでの撮影等、新しい試みもありました。
キャストは、初々しい石川絵里、加藤隆之の二人に「ワイルドナイト」で注目された金濱夏世、ベテランの夏八木勲、ジョー山中と深みを添え、このサイトでもお馴染みの映画祭プロデューサー小松沢陽一、映画評論家の塩田時敏、映画監督の辻裕之といったスパイスを効かせてあります。
石井プロデューサーの集めたスタッフは、石井隆監督の「黒の天使vol1,2」の撮影も担当した佐藤カメラマン他、日本映画界のベテラン揃い。都内、神奈川、千葉と移動しながらのロケは、オーソドックスなシーンあり、香港ばりのアクションあり、日本初(?)の弾着を用いた銃撃シーンありの盛り沢山のスケジュール。生憎のどしゃぶりや寒さにもめげず、中田監督は軽々と現場を駆け巡り、ベテランスタッフの的確な仕事も光る現場でもありました。
「コミュニケーションを大事にする、役者の意見も聞いてくれる」と役者さんの評判も上々だった中田監督の現場は、さて・・。
☆「0は殺し屋、でも普通の女の子なんです」石川絵里ちゃん
ビデオのボタンを押すように、拳銃の引き金を引く0。「素顔の自分を取り入れているというか、本当に普通の女の子なんです」絵里ちゃんといえば「バトルロワイヤル」が記憶に新しいですが映画はこれで3本目、「でも殺しという事では共通しているんです」と、はにかんだ微笑をしながら話してくれました。「初めての主役というのは凄くうれしかったです」0と同じで一人でいる時間を大事にする絵里ちゃん、渋谷の撮影では人ごみに圧倒されてしまったとか。舞台も経験しているけれど「両方好きですが、映画は後で自分で見られるし」どちらかと言えば映画が好きとか。今後は「インパクトのある役がやりたい、いじわるな役とか」ダンスも得意な絵里ちゃん「そういう役は、来たらうれしいです」いつか見てみたいですね。
☆「現場が終わるまでテンション落としたくないんです」加藤隆之くん
「雨あがる」の時は夢中で、演技も何もわからなかったという加藤君。現場が大好きで、終わりが近づくにつれて「ああ、ずっと現場にいたい!!」と口にする回数が増えていました。役のテンションを保つ為に携帯電話もかけない、「家にも帰りたくないんです。弟に『お帰り』とか言われて『ただ今』とか言うと、日常に戻ってしまうでしょ、それが嫌なんです」普段は快活な加藤君ですが、映画の話になると段々と役に入っていくのか、表情も口調も”1”に。
実は数年前に加藤君に初めて会った時はまだ役者さんになる前でした。「映画に出るようになったら取材させて下さいね」と約束したのです。今回、約束を守ってくれました。加藤君はそういう義理固い面も持っている好青年です。
☆「凄い楽しみな監督だね」夏八木勲さん
さすが夏八木さん、本番もほとんどが一発OK。「今日、終わった後の方が、いいコメントが出来ると思うんだ。後でいつでも来て下さい」と言われたので、終了をお待ちしていたら、夜は明けてしまいました。終了後、急いで飛んでいくと、お疲れなのに快くコメントをして下さいました。中田監督の演出ぶりは「バイタリテイーがあるし、香港で色々なノウハウを学んでいるし、何よりも映画に対する情熱を感じるね。
凄い楽しみな監督だね。」古い時代を引きずる老殺し屋の役でしたが「楽しくやりましたよ」と笑顔。去り際「また一緒にやれる機会があるんじゃないかな、と思うんだけどね。」と一言残し、ロケバスの中に消えて行きました。
☆タクシーの運転手も思わず振り返る!!夏世さんの瞳の魔力
「ワイルドナイト」では不思議な女性を演じていた金濱夏世さん。ロケの最中に通りかかった車の運転手さんも、思わず目が離せなくなってしまっていたのを目撃しました。「まだまだそんな・・」とご本人は謙遜しますが、撃たれて振り返った時の表情など、女の私もドキドキしてしまった位。華奢なのに、カメラのレンズの中だと存在感がある女優さんです。特に目がいいんです。殺し屋6役なので劇中では笑顔が見られませんが、実際は笑顔も素敵なのです。
☆久々に映画にて・・ジョー山中さん
ジャズと煙草とジンフィズ・・昔の角川映画のようなシーン。ジョー山中さんは、ライブハウスのマスター役で出演。絵になります。六本木の某店を借り切っての撮影後、お話を伺いました。「夏八木さんも久しぶりだったので、うれしかったですね」映画については「これからも若い人達がどんどん出て来て、変えて欲しいですね」中田監督には「しっかりしているから、これから伸びていくんじゃないかな」と、おほめの言葉をいただきました。本業の歌の方も新しいCDは出たばかり、全国をコンサートで回っているそうです。
☆世界で一番珍しい死体?!小松沢さんの迫真の演技
映画祭のクロージングの男泣きで有名な小松沢プロデューサー、あれは演技ではありませんが、過去に何度か映画に出演しています。今回は0に殺される男役を熱演。夜半の雨の中、寒さも厳しいガード下で、電車の通るタイミングが合わず、何度も撮り直し。更に冷たいアスファルトに横たわったままじっとしていなくてはなりませんでした。中田監督もファンタの中から生まれたような監督だけに、小松沢さんも張り切って死体になってくれたようです。
☆「私服じゃないですよ」塩田さんの灰色の親父シャツ
辛口の映画評論家塩田時敏さんも、映画出演が恒例になってきました。最近は三池組で吊るされたり埋められたりと、かなり過酷な扱い(?)をされていたようですが、中田組でも全力疾走、全部で1キロほど走らされ、ヨレヨレになってしまいました。感想をお聞きすると「疲れました」と一言。衣装&メーク担当の間谷さんが用意した監督曰くの「上野の親父ファッション」が妙に似合っていたのは、役柄になりきっていたからでしょう。
☆「辻つん」は三池監督が名づけ親?!
「大怪獣東京に現れる」のプロデューサー、「実録・広島ヤクザ戦争」の監督でもある辻裕之さんの俳優としての名前が「辻つん」。三池崇史監督が名づけ親だそうです。今回は殺し屋の組織の監視人、冷酷な男を演じています。
☆眠るのも仕事のうち真夜中の撮影
崔哲浩さんは「ホタル」では高倉健さんの通訳役で出演している役者さんです。殺し屋21役ですが、撮影がずれ込み、出番が真夜中に。崔さんはずっとバスの中で寝ていました。現場へ呼ばれても、銃撃戦はワンシーン毎に準備がかかります。現場でも毛布に包まってうとうと。本番では殺されて、道路にずっと横たわっていました。
☆アクションは難しい
アクションは監督がコンテ割を考え、専門の殺陣師が指導しますが、それぞれの役者さんが実際に動いてみると、不都合も起こります。中田監督も「勉強になります」と、現場でさっそく吸収。
☆弾着は「僕の工夫です」中田監督
血のりではなく、粉末が飛び散る弾着が香港では流行。この映画の銃撃戦は香港流。殺される役者さんの衣服に弾着を貼り付けます。脱がされた役者さんは毛布をかぶって待機。この弾着は新しい工夫がされていて、中の粉末は普段は黒いのですが、今回は朱色に染められているのです。これは中田監督の工夫だそうです。
☆運転は厳禁?!役者の心得?!
社長に「3年間は車の運転厳禁」と言われた加藤隆之君、プロデュサー補佐の山本さんは車両部の経験もあるので、運転は嫌いじゃないだろうと加勢を頼むが、かわされてしまう。確かに役者さんは身体が大事、もし事故にでもあったら大変。メンタルな部分も整えておかないといけないし。それぞれの役者さんの出来を「今日は70点かな」若くても監督はしっかりと役者さんを見ています。
☆「返事は『はい』といえ!!」若手進行補佐3人頑張る
監督本人は役者をしている時はもちろん、全体をきびきびと指図していくのは助監督の末永さん。自身も映画監督の制作担当の添田さんともども、現場を仕切っていきます。補佐の若手の3人はまだまだ経験が浅いらしく、勝手がわからず、ベテランのスタッフにどなられる事もしばしば。仕事を身体で覚えている最中とはいえ、大変です。でも終了の時の彼等の笑顔、満足気でした。
☆雨の音は録音の敵
本当は雨のシーンではなかったのです。けれどもどうしてもマイクが雨音をひろってしまいます。それだけではなく、屋根の隙間からコンクリートの地面にあたる雨の音が酷くて、録音の邪魔に。仕方ないので特に雨がひどく落ちてくる個所に毛布を敷いて、音がしないように工夫。
☆ロケ弁あれこれ
緊張する現場では、食事ほっと一息つける大切な時間。幕ノ内が主ですが、ウナギが入っていたり、おにぎりだったり、牛丼だったり。キッチンがある所ではカレーを作ったり。撮影の合間に急いで食べます。食べ終わったらすぐに撮影が再開です。出番のない時や手が空いた時に差し入れのお菓子をつまむ事も。長い時は撮影が24時間以上になりますから、体力をつけておかないと・・監督、牛丼を3つ位食べていませんでした?
☆「やっぱり仕上がるまでは気を抜けないですね」池田さん
スチールを担当した池田さんは、角川映画にずっと携わっていたカメラマン。撮影の合間には、夏八木さんやジョー山中さんと想い出話に花を咲かせていました。若い中田監督に目をかけ、影に日向に力を貸している方でもあります。映画の現場を良く知る池田さん、寒さに震えるスタッフにコーヒーを勧めたり、いつもさりげなくフォローを。現場というのは、そういう心遣いをしてくれる人達もいて、うまく回っていくものなのを実感。撮影が終了して喜ぶ監督を見て「仕上がるまでは気を抜いてはいけない」と、締める事も忘れません。本業では「こう撮りたい」という内容を熱心に話してくれたメインのスチール、その通りになったでしょうか。
☆感激の撮影アップ
先に出番の終わった絵里ちゃんと加藤君の記念撮影。加藤君、気持ちは1のままなので、笑顔がぎこちない。「笑って」と絵里ちゃん、「笑えないよ」と苦しげな加藤君。愛し合う事で人間としての感情に目覚めていく、二人の役そのままのようなひとコマ。
今までも幾つか現場を見させていただいた事はありますが、良い雰囲気の現場でした。
映画の完成が楽しみです。情報は入り次第、またお知らせいたしますので、お楽しみに☆
執筆者
鈴木奈美子