カナザワ映画祭2019「期待の新人監督」で観客賞を受賞した映画『みぽりん』が9/7(土)、元町映画館にて公開予定だ。

声優地下アイドルユニット「オーソレミーオ!」でセンターを務める神田優花(津田晴香)。ソロデビューを前に音痴である優花の歌声にプロデューサーの秋山(井上裕基)とマネージャーの相川(合田温子)は頭を悩ませていた。メンバーの里奈(mayu)の紹介で、優花はボイストレーナー・みほ(垣尾麻美)が主催する合宿に参加する事に。六甲山の山荘で、みほの恐怖のボイスレッスンが始まる......!

映像制作の仕事をして来た松本大樹さんが初監督を務める、『ミザリー』を思わせる監禁ホラーだ。ネット上ではカナザワ映画祭2019「期待の新人監督」の上映前にすでにファンが付いていたという。なぜ『みぽりん』を応援したいという人が集まるのか?松本監督と、狂気のボイストレーナー・みぽりん役を務めた垣尾麻美さんに話を伺った。

 

思いがけない予告編の反響

『みぽりん』が完成し、シアターエートで試写会を行ったときには、「この作品は10年後、またここで」と、松本監督の自虐コメントが出るほど公開の予定は全く決まってなかったという。そんな中、元町映画館の林支配人が「神戸で作られた映画だから」と名乗りを上げた。まさかの一週間上映が決まったもののその先を悩んでいたところ、4月に元町映画館で上映した予告編で火が付いた。

――予告編を公開して、すごく反響があったとお聞きしました。

松本:4/20に元町映画館のチア部さんの企画で『カメラを止めるな!スピンオフ「ハリウッド大作戦」』の上映があったんです。元町映画館のスタッフの和田さんが、YouTube からデータを引っ張って急遽『みぽりん』の予告編を上映前に流してくださって(笑)。それを観た神戸在住の『カメ止め』の感染者さんがTwitter 話題にしてくださったのを東京の感染者さん達がキャッチして、その夜に Twitter で盛り上がったんです。それから広がっていったという(笑)。

――話題になることで、東京での上映に影響したんでしょうか。

松本:間違いなく影響してますね。感染者さんが劇場さんに上映希望の意見を上げてくださって。シネマロサさんからその翌日に作品を観たいと連絡が来たんです。

――その後、みぽらーはどう増えていったんですか?

松本:アクションを起こしてくれたしげさんは Twitter の DM にチラシ送って下さいって連絡をくれて、気に入ってくれたようで、チラシを持参していろいろなところで写真撮ってくれたり、ハワイ行く時にはハワイのお店で(笑)。その他の方も、チラシを送るとそれぞれ劇場や居酒屋に置いてくれたり、配ってくれたり。『カメ止め』の感染者さんのののさんが題字を書いてネットに上げたのを、「映画のタイトルロゴに使わせてください」ってすぐ取り入れたり、アイコンをフニャ氏さんが作ってくれたイラストに変えたり。みんな自分も映画に参加してると感じてくれたのかも。ののさんは九州在住なんですが、カナザワ映画祭に来てくれて。神戸の初日にも来てくれる予定で、本当に熱狂的に応援してくれています。

 

カナザワ映画祭2019「期待の新人監督」

――7月のカナザワ映画祭2019「期待の新人監督」での観客の反応はいかがでしたか?
垣尾:今まで映画観ずに応援してくださってた方が初めて観て、「よかった安心した」って(笑)。

松本:結構批判もあったんですよ。「観てない映画を応援するってどうなの?」って。だからみんなほっとした(笑)。

――観客賞はどのように選ばれるんですか?

垣尾:上映の後に、ボードに丸いシールを貼るっていうスタイルで、みんなでお客さんに声かけしました。微笑みながら貼ってくれたり、割と喜んで頂けたのかな(笑)。

松本:ここまで来たって満足してた部分もあったんですけど、近藤知史さんが最後まで諦めずに、美術館のお客さんにも声を掛けてくれました。特撮の『宮田バスターズ(株)』が『みぽりん』よりお客さんが入ったんですけど、観客賞を頂けたのは、最後のねばりとみぽらーの熱狂的な支持による組織票が大きかったと思います。

審査員から映画の尺が長すぎる、審査員長からはラストの展開に厳しい指摘を受けた。ラスト10分のリズムの悪さを指摘する意見を受けて、公開版は124分から108分に短縮された。

松本:ラスト10分に関しては、ファンの方から否定的な意見もあったんですが、まず自分の思った形で公開しようと。真摯にご意見は受け止めて、次に行こうと。カナザワ映画祭で観た方も違うバージョンなので来て下さい!

 

『みぽりん』の制作を振り返る

企業が依頼する映像を取りながら、自身の作品を撮ってみたいと思っていた松本監督。『カメラを止めるな!』に刺激を受け、映画製作を1年前の7月末に決心した。小さい規模でも面白く撮れると、密室監禁ホラーに決めた。『ミザリー』を観て、以前一緒に仕事をした垣尾さんで撮ることに。

――なぜアイドルだったんでしょうか。

松本:まずはジャパニーズ『ミザリー』が先にあって、日本で撮るならアイドルが監禁されるのがいいって、
スタッフのアイディアです。僕自身はアイドルに詳しいとか全くなくて。仕事でPV やライブを撮っていたので、地下アイドルがどういう感じなのか想像しやすかったんですけど。

――垣尾さんの魅力は?

松本:優しさの中に狂気を秘めているところでしょうか。以前企業のプロモーションビデオに出てもらったんですね。転んで彼氏からもらったハイヒールが折れて泣き叫ぶ演技で、狂った感じが素晴らしくて(笑)。

――垣尾さんはみぽりんをどういう人間だと思われましたか?
垣尾:最初にイメージとして『ミザリー』を見せてもらって、私はミザリーがすごく可愛らしいなと思いまして。誰しも持っている感情を出し過ぎただけの人なのかなと。みほを異常な人には見せたくない。人間として魅力的にできたらいいなと思いました。

垣尾さんの事務所のマネージャー・露木さんがホラー好きだったため話がスムーズに進んだという。脚本は、エチュードを見ながら変更を加えた。露木さんが予定より一人多く役者を連れてきたが、役がないと言えず慌てて役を作った。

――宣伝もフレキシブルですけど、制作時からそういう感じだったんですね。

松本: そうですね。なんでもとりあえず取り入れて(笑)。

予算は300万円。撮影は10日と決めた。予算がなく追撮は許されない状況だった。『ミザリー』のように雪山で撮りたかったが、雪は降らないまま寒すぎる真冬の撮影となったという。

――垣尾さんはキャットファイトが実現できたのが嬉しかったそうですが、観客の皆さんに注目してほしいところは?

垣尾:もちろん見る側の自由なんですけど、自分の思いがうまくいかなかったりする辛さはあるよなって、見終わった後に感じてもらえたら。みほっていう人間を可愛がって、好きになってもらえたらいいなと思いますね。

松本:僕はキャッチコピーにしたんですけど、ラスト10分の正直な感想を聞きたいですね。ここまですると許されないんだ、ということを知りたいです。肌感覚として。

 

『カメ止め』の聖地で得たものをプラスに

みぽらーが考えたというみぽりんのポーズ。カタカナの「ミ」に猟銃を構える!

――映像のお仕事をしておられますが、宣伝に役立ってることはありますか?
松本:ないかも(笑)。企業のCM 作ったりするんですけど、最近特に広がって行かない。その難しさをすごく感じてますね。広告が嫌がられてる感じがするので、あんまり広告っぽくならないように。

――押し付けられてる感じがするんでしょうか。仕事でうまくいかなかった経験を生かして。

松本:ずっと意識してるのは『みぽりん』はこういう映画です、と上から発信していくのではなくて、皆さんに盛り上げて行ってもらう。応援してくださる方々、メディアの方々全てフラットにやりたいなと。応援してくださってる方がグッズを作ってるんですけど、自由にどうぞ。みぽりんで生計を立ててくださいという感じで(笑)。

――作品を盛り上げたいという思いで動く、共感が広がる。SNSがあって当たり前の今だからあり得たことかなという気もします。

松本:実は『カメ止め』が盛り上った時に、リサーチで『カメ止め』好きの人たちが集まる居酒屋「学大酒場エビス参」を表敬訪問したんですよ。話を聞いたら、 作品を観たいっていう思いだけじゃなくて新たな人達と繋がって交流したり、役者さんや監督さんがメジャー大作と違って普通にビラ配りしてたりするので、それも含めて楽しいそうで。だから今僕らも少人数ですがお客さん同士で交流会を。昨日も誕生日会をしたんですけど(笑)、『みぽりん』がなければ繋がってないので、大切にしていきたいです。

――これがきっかけで、映画をあまり見ない人にも広がっていくかもしれないですよね。

垣尾:そうですね!実際、みぽらーさんが元町映画館さんに行くようになったって聞きますしね(笑)。

松本:僕も「学大酒場エビス参」のような場所を、神戸で作ろうと。居酒屋探しから始めて拠点にしているのが、元町映画館さんの近所にある韓国料理居酒屋「とんどり」さん。店の前にみぽりんのポスターを貼ってもらったり、ファンアートのみぽりんトレーラーを置いたり。そうするとみぽらーさんが見に来たり、映画を見終わった後に語り合ったりできる交流の場になって、お店も少し繁盛し始めています。

――経済効果をもたらしてるんですね(笑)。

垣尾:お店の方が普通のお客さんにチラシ渡してくれたり、本当にありがたいですね。

松本:劇場から出て来た人に宣伝する時は、チラシを渡して「これ見てください」ぐらいで終わっちゃうんですけど、飲みの場だと「どういう内容なんですか?」って聞いてくれたり。みんな結構酒が入って大らかになって。「とんどり」さんでの地道な営業は元町映画館さんの動員には結構効いてくるんじゃないかと思うんですよ。

――松本さんの柔軟さで、宣伝も含めていろんな方が関わってどんどん進化していくのが面白いなと思いました。ここから広がっていくのか、意外に動員につながらないのか、これからの動向に注目したいと思います!

 

★『みぽりん』告知

【イベント】
■神戸・ブルーポートにて 9月2日(月)19:30より
オーソレミーオ!-不定期公演 vol.1 映画「みぽりん」生誕記念!主題歌お披露目LIVEイベント 開催!

【劇場公開】
元町映画館(神戸) 2019年9月7日(土)〜13日(金)
シネ・ヌーヴォ(大阪) 2019年9月14日(土)〜27日(金)
京都みなみ会館(京都) 2019年9月27日(金)〜 ※期間、終映未定
池袋シネマ・ロサ(東京) 2019年12月21日(土)〜 ※3週間

執筆者

デューイ松田