72年の沖縄返還時、対米交渉・対沖縄折衝の最前線に立ち「鬼の千葉なくして沖縄返還なし」と称された伝説の外交官・千葉一夫の生き様を描いた作品が全国劇場で公開中だ。

関西では8/25よりシネリーブル梅田、京都シネマ、9/1より元町映画館で公開される。

この作品は、NHKのディレクターである宮川徹志の『僕は沖縄を取り戻したい 異色の外交官・千葉一夫』を原案に、2017年に放送されたNHKのBSドラマ『返還交渉人 いつか、沖縄を取り戻す』を100分に再編集した社会派エンターテイメントだ。
鉄のような意志を持ち沖縄に寄り添った千葉一夫を演じたのは井浦新。返還交渉の激務に挑んだ千葉を明るく、時には叱咤しながら伴走した聡明な妻・惠子に戸田菜穂。今年2月に急逝した大杉蓮が米国の倫理に従うことを良しとする外務官僚、石橋蓮司が元教師で沖縄の本土復帰に力を尽くす沖縄主席を演じ、作品を支えている。

監督はNHKで「戦争」「昭和」をキーワードにしたドラマを多数制作してきた柳川強。脚本の西岡琢也、音楽の大友良英とは『鬼太郎が見た玉砕~水木しげるの戦争~』(07年放送文化基金賞本賞、ギャラクシー賞優秀賞、文化庁芸術祭テレビドラマ部門優秀賞)以来10年ぶりのタッグとなった。プロデューサーの西脇順一郎は、「核」「戦争」「国家」をテーマにしたドキュメンタリーをディレクター時代からプロデューサーの現在も多数手掛けており、最近ではNスペ『731部隊の真実 エリート医学者と人体実験』(17年ギャラクシー奨励賞)を制作している。

今回、インタビューさせて頂いたのは、脚本家の西岡琢也さん。『ガキ帝国』(81)、『TATTOO〈刺青〉あり』(82)といった熱狂的なファンに支持される名作から最近では『沈まぬ太陽』(09)、『はやぶさ 遥かなる帰還』(12)など多彩な映画、『京都迷宮案内シリーズ』等のテレビドラマの脚本を手掛けてきた。長らく大阪芸術大学映像学科教授として学生の指導にもあたっている。

この日、大阪での取材を4つ終えてきた西岡さんと宣伝の岸野令子さんの案内でイタリアンレストランへ。さすがにお疲れの様子の西岡さんだったが、自チームへの苦言や盟友・荒井晴彦さんへの突っ込みも含めて鮮やかなで軽妙な毒舌は止まらず。サービス精神と心遣いはあるけれど無意味な忖度は一切ない西岡さんに、「千葉一夫」と通じるものを感じたインタビューとなった。

 

難しい材題だからこそ、入り口は易しく

――拝見しまして、想像と違ってユーモアもある作品だったので驚きました。非常にスピード感もあって情報も複雑なものが分かりやすく描かれていて、あまり知識のない若い世代にも凄く見やすいなという印象を受けました。

西岡:そうですか?良かったです。

――やっぱりそこは特に意識されて脚本をお書きになったんでしょうか。沖縄問題に詳しい人は詳しいし、関心のない人は全く関心がないということがあると思いますが、知識のない人にも入りやすいと思いました。

西岡:NHKが作る作品だからあんまり優しくはないんだけども、入り口を易しくするということは、僕はいつも心掛けています。例えば、戦争ものって言うと興味ない人は「戦争ものかー」みたいな反応があるよね。分かる人は分かるけど知らない人は知らない。それじゃあ若い子たちは観ないし、それこそ日本がどこと戦争したのかわからない子ばっかりになってきてしまう。

2007年に『鬼太郎が見た玉砕~水木しげるの戦争~』って言うドラマを監督の柳川とやったんだけども、その時も何より考えたのはそこですよ。水木さんが親しみやすい人だから面白いんだけど、絶対鬼太郎と目玉おやじとねずみ男は出そうって。実際の声優さん達にも声をやってもらって、やっぱり良かったですよね。
田中裕子さんとやった『新しい朝が来た ~8月15日のラジオ体操~』はラジオ体操を題材にして戦争を描いたし、できるだけ入り易くして見ているうちに観てしまった、みたいなものを作りたいなと思っていて。

今回パンフにも書いたんですけど、金城哲夫っていう沖縄の脚本家が円谷プロにいて、彼を出したかったんですよ。
本編では描けなかったんだけども、嘉手納の弾薬庫で毒ガスが見つかって、1971年にそれを撤去する大プロジェクトがあったのね。壮大な作業で沖縄の人たちは皆巻き込まれて。金城哲夫が書いた『帰ってきたウルトラマン』の「毒ガス怪獣出現」って回は、そのことがあったから書いたようですね。年代を見るとね。
そういうのから入ると、観てる人も「何で『帰ってきたウルトラマン』やねん?」って気になるだろうし。そういうのは毎回意識しますね。

フィクションの筆が必要だった

――今回ドキュメンタリー畑で撮られる方々から、あえてドラマとして描きたい、「フィクションの筆」が必要だとオファーがあったとお聞きしました。宮川徹志さんの原作は歴史的な流れや交渉の段階は凄く細かく描かれていましたが、物語として構築するために一番心砕かれのはどういったところでしたか。

西岡:交渉の経緯ってややこしいでしょ。読んでて面白くないんだよ。

――私は結構面白かったんです。こんなに細かい事を色々積み上げてやってるんだなっていうのが。

西岡:そう?映画っていうのは省略だから、ややこしい話をできるだけ分かり易く見せるためにはどうすればいいかっていうことが、腕の見せ所で。それは当たり前のことだから苦労じゃないけど、迷うよね。いろんな人物が出てくるけど、どの人物に集約して。駐日大使のスペンサーって人が出てくるけども、実際は彼が全てをやったわけじゃない。でも全て描けるわけじゃないから、複数の人物を合体して1人の人物にしたりね。それは長年の経験て言うの?技術で荒井晴彦にないところですね。それは書いといてください(笑)

――千葉さんが沖縄返還に邁進した原動力が“怒り”であったということで、皆さんが捉えたという話がありましたが、怒りを表現するために皆さんでどのようなお話をされましたでしょうか。

西岡:怒りの表現?難しいな(笑)。どうして沖縄に向かったか。それは多分通信士だったということで、冒頭のシーンや、サンフランシスコ講和条約に参加した上院議員の講演会でのくだりかな。そういういくつかの場面に集約したって感じかな。

――柳川強監督からは、こういうところを重点的に描きたいといったリクエストはありましたか?

西岡:柳川たちは交渉をやりたいわけですよ。やらないと駄目なのは分かるし、いかにわかりやすく見せるかっていう努力、技術は必要だけどもそれ以上でもないわけよ。それよりも俺はやっぱり千葉さんの素のエピソードだとか、女房との話といったことが書きたいわけで、観る人はそっちの方が面白いからね。宮川とは一回喧嘩したことがあって。

――制作中にですか?

西岡:うん。俺は帰るって。脚本の範疇なのに「そのセリフは違いますよ」とか、「こんなこと言いませんよ」とか。あんまり細かいことを言うから。分を超えてしまうとね。それは俺のやることで、お前のやることじゃない。この時は明らかに宮川が悪いっていうプロデューサー西脇と柳川の認識があったから、すぐ電話してくれて。俺もそんな昔ほど気が短くないしね(笑)。

いやほんまに宮川の熱い気持ちはわかるし、彼の気持ちを汲んであげたいと思うし、彼が千葉さんを見つけてきたわけだからそれは尊重してリスペクトしてますよ。本当に優秀な奴なんだけど、入れ込みすぎるあまりね。何で俺が怒ったのか後で気付くわけよ。何もなかったようにまた次の打ち合わせに来て「面白い本ですね」って(笑)。その言い方があんまり手のひら返したみたいで、“ぷっ”て笑ってしまったけど(笑)。

事実から人を作るってすごく難しくて、遺族の問題はもちろんあるんだけども、本当にあったかもしれないなって思わせないとこっちの負けなんで。人物を省略することも含めて、90分なら90分の間、作品にのめり込んで見てもらえるように。そのための努力や仕掛はするよね。少々乱暴でも、印象が強い方がいいと思う時は、この人は多分吐かないだろうってセリフも書いたりする。それは荒井晴彦にはないテクニックなんですよ。

――最後はそこで落ちるんですね(笑)

西岡:ほんと、ないからなー。そう言うと、「お前より俺はテクニックあるよ」って言うけどね。負けず嫌いだから(笑)

分かり易くは作ったつもりだけど、「5回観ろ」っていうのは冗談であり本音であって、何回も観ないと分かんないよ。結構早いし。あなたはテンポがいいって言ったけども、何が問題なのか本当の意味が見えづらくなる。
意外に面白いんちゃうの、また観ようかってなってくれたら一番いいんだけど。柳川って優秀なんだけどそういうところがあってね。これは悪口だけど、NHKの番組だから難しくても許されるって意識を感じるわけよ。一人でも多く観てもらえればいいじゃない?と思うんだけどね。

――そのような話をされた時の反応はありますか?

西岡:「ほほほっ、そう言いますけどね」て言うてるわ、あいつ(笑)。学生にもよく言ってるんだけど、伝わらないと意味ないし、伝えるって難しいんだから。自分勝手に「私はこう思ってるからいいでしょう」では表現じゃない。相手がいるわけだから。
やっぱり長い間NHKにいると、NHKならではの甘えって言うのかな。なんかあるような気がするな。予算も民放の制作者に言わせると、どれだけ恵まれているか。

――映像を見てもやはりお金かかってるだろうなってのわかりますもんね。

西岡:いや、彼らにお金かかってるなって意識ないのよ。そこしか知らないから井の中の蛙で。書き易そうな、いい事言ってるでしょ(笑)

 

千葉一夫の人間像を求めて

――千葉一夫さんをどのような人物と捉えられましたか?

西岡:あなた達が捉えたような人だと思うよ。なんだか熱いおっさんやなぁということかな。宮川のゲラはあまり刺さらなかったのね。交渉のディティールはすごく丁寧に書いてあるんだけど、千葉さんという人物がひとつ自分の中で像を結ばなかったから、どうしたもんかなと思って。沖縄返還は成立したけども、裏で密訳があったってことも分かっているし、色々なことが明らかになり、かつ現在の沖縄が千葉さんの時代とあまり変わってない、逆に言えばひどくなっているような状況で、72年5月に返還に向けて彼が努力したことって、どう結末をつければドラマとして終われるんだろうっていうのがあったかなあ。

千葉一夫さんの人間像を求めて、千葉さんの娘であるみどりさん、その夫で元外務省の官僚である三宅さん。スリランカ大使時代に大使館付であった調理人の女性の3人に取材したという。

西岡:三宅さんは千葉さんとも少しクロスしてるんですね。ある衆議院委員会で、彼も千葉さんも大臣の後ろに付いてたんだって。閉会して引き上げる時にたまたま三宅さんと千葉さんがエレベーターで二人になって、難しい審議で終わって気が抜けたのか、三宅さんがエレベーターのボタンを押さずに一瞬ぼーっとしてたら、「早く押せ!」って怒られたって。せっかちなんですね(笑)。それをすごい覚えてますねって言ってました(笑)。
あとは資料が山のように。生活だとか日常が見えてこないと書けないよね。

 

西岡さんが一番興味を持った人物とは

――登場人物の中で西岡さんが一番興味を感じたのは?

西岡:それは新しい質問やな(笑)。興味を感じた人物。パンフの原稿に書いたんですけども、沖縄の青年を一人、描きたかったのね。それは結局長さの問題もあり、柳川・宮川コンビニによって粉砕されてしまったんだけども(笑)。
やっぱり庶民って言うか、いわゆる沖縄で住んでる普通の人が出てくるべきだと俺はずっと思ってたんですよ。沖縄返還の1年後に国会議事堂にバイクで突っ込んだ沖縄の青年がいるわけですよ。資料を見て割と早い段階で、この子のことを書いたのね。それが飛んでしまったのが残念だったなぁ。

後は大杉蓮さんがやった駐米大使。ああいう人は嫌いじゃなくて、現実主義と言うか。こういう人がいるんだろうなっていう。大杉さんがうまく演じてくれたからというのもあって。もっと言えば、千葉さんはかっこ良すぎる(笑)。弱さを見せようと色々やるし、最終的に飛ばされるんだけど、やっぱり頑張った人になるから、ドラマの進行としてはあまりチャーミングでない。描くには限界があるんだよね。

 

自分の頭で考えて自分で行動する、千葉一夫はその象徴

――では最後に定番ですけども、西岡さんからの観客の皆様にここを見てほしいというポイントをご紹介ください。

西岡:それは観てほしいよ。一人でも多くにね。
やっぱり自分で物事を考えてよってことかな。別に沖縄へ行って反対運動をやれとか辺野古への基地移設に反対しろとは言わないけど、自分の周りにも沖縄と同じように理不尽なことだとか、何かに引きずられてそのままになってるようなことがいっぱいあると思うのよ。そのことをほったらかしにして自分と自分の周り半径10メートルぐらいの世界で生きないで欲しいんだよね。自分の頭で考えて行動して欲しい。それで孤立したりなんかあいつ変なやつやなぁって言われても、何にも怖くないのにね。千葉一夫さんはその象徴だと思うわけですよ。本編でもちょっと描いてるけども当時、ものすごい圧力もあったと思うんです。ちょっと教養主義的で嫌なんだけど、自分の頭で考える人が少なくなってんじゃないかなぁ。

――だからこそ千葉一夫さんがヒーローのように見えます。今の官僚にはそういう人がいないと言うか。

岸野:それは責任を取りたくないんですよね。自分で考えて行動すると責任を取らないといけないから。

西岡:今思い出したのが俺は観てへんねど、大森一樹が『シン・ゴジラ』を観た時に、観たやつに感想聞いたんだって。それで、こういう風に考えられへんか?って言うと、「ああ、そうですね」って納得するんだって。その人が言ってるのはネットで流れている感想で。人がみんな『シン・ゴジラ』に対してこう思ってるってことを言ってるだけなんだって。自分の考えじゃなくて。明らかにおかしいやろうって一人怒ってはりましたけど(笑)。それは結構象徴的な話で、ネットでレビューだとかいっぱい出るじゃない。クソみたいに言ったり、ベタ褒めしたりするけど。

――乗っかるみたいなところも結構ありますよね。

西岡:炎上するとかそういうことになるわけじゃない。あれは本当良くないと思うな。自分の考えを持たなくなって。何も怖いことないのに。人と違っていいのにね。違うことが当たり前のにさ、違わないことのために生きてるみたいな。ほんとつまらんよね。学生見てても心配になるよ、それは。
あなた、さっきから何も食べてないけど、食べたら?途中で食べても「なんで食べるんや」って突っ込むけどね(笑)

――そう言われると思って警戒してました(笑)。それでは、今日はありがとうございました。心置きなくいただきます!

執筆者

デューイ松田

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